第11話 彩花と昼休み後編
「なぁ毎日こんな弁当作ってるって言ってたよな?」
ご飯を半分くらい食べ進めたくらいで、少し気になったことを訊いてみる。
「ええそうよ」
「あんなに夜遅くまで起きてて弁当作る暇ってどこにあるんだ?」
大体俺たちはFTOを午前2時くらいまでやっている。それから朝の準備に弁当つくりなんかやってたら、時間がいくら合っても足りない。
実際に俺はFTOの後アニメを見ているため寝るのはもっと遅くなるものの、朝は毎日ドタバタとしている。
「そりゃあ頑張ってるのよ。最悪授業で寝ればいいし」
「おいおい。だから成績が微妙なんじゃないのか?」
去年同じクラスだったためなんとなく、頭の良さは想像がつく。鏡花は学年トップクラスの頭の良さだが、彩花は下から数えた方が早いレベルだ。
「何よ。葉山も大して変わらないでしょ!」
「それはまぁ……俺も授業中寝てるし」
「ほら、葉山も人のこと言えないじゃない」
ぐうの音も出ない。実際俺はアニメを見て睡眠時間を削っているが、彩花は弁当作りで睡眠時間を削っているため、彩花のほうが格段に偉い。
「まぁ無理したらダメだぞ。ゲームをログインしない日があってもいいからな」
「それは絶対にダメよ。あれが私にとっては一番の癒しなんだから」
「そうなのか?」
「ええ。向こうの私は今私が考えている理想系なのよ。好きな人がいて、たくさんの気の合う友達に囲まれて何不自由のない生活よ」
「確かにな」
彩花がここまでFTOを好きでいることに少し驚きがあった。
でも言っている気持ちはわかる気がする。俺もリアルよりもゲームの方が、気兼ねなく喋る人は意外と多いかもしれない。ルーナやマールだってそうだったし。
「彩花さんってめちゃくちゃオタクじゃん」
少し笑いながらそんなことを言ってみる。鏡花もそうだけど彩花もだいぶディープなオタクだよな。
「だからそう言ってるでしょ? 何よ。らしくない?」
「まぁらしくないっちゃ、らしくないけど、こっちの彩花さんの方が楽しそうに話してて好きだな」
これは素直な感想だ。いつも悪態をついてきていた、彩花の顔でゲームのことを熱弁されているから少しギャップには驚く。
でも、こっちの方が話しやすいし、なにより楽しそうなので、俺も楽しくなる。
「ふ、ふぅん……」
「どうした?」
「なんでもないわよ!」
「そ、そうか」
そんな顔真っ赤にして言われても全く説得力が無いんだけどな。
「まぁそういうわけだからゲームを辞めるのは無理」
「なるほどな。ならせめて弁当作りを分担したらいいんじゃないか? 日にちごとに彩花さんと鏡花さんで」
「ああ…‥それは無理ね」
なんだか少し遠いところを見ながらバツが悪そうに答える。
「どうして? 鏡花さん寝起きが悪いのか?」
「いや、それはいいわよ。私よりも早く起きてる時もあるし」
「それじゃあ——」
「はいはい。いずれわかることよ。ほらご飯食べちゃいましょ」
彩花は俺の疑問を制止するかのように言葉を被せて、ご飯を食べるように促してきた。
結構気になるが、彩花に話す気がないならしょうがないな。今度鏡花にでも訊いてみるか。
そんなことを考えつつまた、弁当に箸をつけた。
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
しばらくしてご飯を食べ終わると、二人一緒に手を合わせて誰に聞かせるでもなくそんなことを呟いた。
「もう時間か。本当に早いわね」
「そうだな」
ちらっと時計を見てみると昼休み終わり5分前。もうそろそろ帰らないと掃除が始まってしまう。
「なあ最後に一つだけいいか?」
「なによ」
「彩花さんは今の葉山司のことはどう思ってるんだ?」
「そんなの決まってるじゃない」
彩花は少し前に走ってからこちらへと振り向く。
「大っ嫌いよ」
「そっか……」
口ではそう言ったものの、いつも教室で言っているような罵倒とは比べ物にならないくらい優しい口調だった。
それにあの誰もが恋に落ちそうな小悪魔的な微笑み。
いつも思っていたが、その何倍も彩花が可愛く見えた。
そんなことをしみじみと思っていた。
「それじゃあ私、そろそろ行かないと」
彩花は再度時計に目を向けながらそう言ってきた。
「ああ、そうだな。引き止めて悪かった」
「別にいいわよ。それじゃあね。ノシ」
「ぷっ……」
「何よ!」
いかんいかん。思わず吹き出してしまった。似てないところばかりだと思っていた双子だったが、こんな所では一緒なのかよ。
「……いや何でもない。ノシ」
「ちょっと気になるけど時間もないしもういいわ。またネトゲでね」
「ああ」
不機嫌そうな顔でそう言い放つと、ものすごいスピードで駆けて行った。
なんだかこの昼休みだけで彩花の印象がだいぶ変わったな。
それにしても最後の笑みは可愛かった。
しかし勘違いはしてはいけない。俺はオタクなのだからフラグとかにも詳しいのだ。もちろんまだ立っているはずもない。
「リアルとゲームは別。リアルとゲームは別」
昨日と全く同じように呟きながら、俺も教室へと戻ってた。
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