第9話 ネトゲでの心配

 カプリス:やっぱりFTOをやってる時が一番落ち着くな


 家から帰ってすぐにログインして二人を待つ。

 鏡花の口ぶりならこれからもログインしてくるだろうし、普通に接してきそうだ。

 今日からもうログインしてくるだろうな。でも、


「ルーナはともかくマールは普通に接しれるのだろうか」


 葉山司のことを特に嫌っている彩花はまだ納得しきれてないのではないか。

 そんなことを考えていた時


 マールがログインしました。

 ルーナがログインしました。


 と、アナウンスが入った。


「俺はあくまでもいつも通りに、二人に合わせる」


 そう思い、ギルドのチャット欄を固唾を飲んで見守っていた。


 ルーナ:カプリスさん! ごめんなさい

 マール:カプリス。ごめんちょっと遅くなっちゃって

 カプリス:全然問題ないって


 普通に話しかけられ、なんだか一安心して伸ばしていた背筋が急に緩んでいた。


 カプリス:今日はどうする?

 マール:その前ちょっといいかしら

 カプリス:ああ、いいけど


 何事もなくゲームができると思っていた矢先、マールがそう切り出してきた。


 マール:今日の私たちやっぱり変だった?

 ルーナ:ネットじゃなくてリアルでですよ

 カプリス:変か変じゃないかって言われたら圧倒的に変だろwww

 ルーナ:やっぱりそうですか

 カプリス:俺が知ってる学校の二人は俺どころか男子に挨拶なんてしない奴だ

 マール:確かにそうよね

 カプリス:一緒にご飯を食べるなんて変にも程がある。バレなかったらよかったけど

 ルーナ:うっ……


 何二人とも分かりきった質問をしているのだろうか。誰がどうみても変なところだらけじゃないか。


 マール:カプリスは嫌だった?

 カプリス:嫌というよりは疲れたな。こんなに注目されることは人生で初めてだ

 ルーナ:それは申し訳ないと思ってます

 マール:でも私たちもバレないようにしよって決めてたから、あれでも抑えてた方なのよ

 カプリス:そうなのか?


 まぁ確かにアクションを起こしてきたのも挨拶と昼食の時くらいだったし、少ない方なのか? 言われてみればそんな気もする。


 カプリス:でもこれ以上のことやったらやばいぞ。挨拶だけでこんだけなったんだ

 マール:わかってるわよ。もしやるにしても誰もいないところでやるから安心して

 ルーナ:でも挨拶は続けるみたいですよ

 カプリス:なんでだよ

 マール:毎日してたら周りも飽きるでしょ。私たちは早くカプリスと結婚したいだけなのよ

 

 本当にこいつらの執念は凄すぎるだろ。その熱量を別で生かしたら何か賞でも取れるんじゃないか。


 カプリス:よくもまあそんなに嫌いな奴相手にそこまでできるよな。

 マール:現実のあんたはあれだけど、ゲームのカプリスは誰よりもかっこいい王子様だから

 ルーナ:私たちの初恋ですよ


 うっ……。一年以上言われ続けているのに、こんなこと言われると未だに体がむず痒くなる。


 カプリス:でも、それなら今日ルーナには言ったけど、俺がリアルでお前らのことが好きになったら迷惑だろ?

 ルーナ:その事なんですけど

 カプリス:うん?

 ルーナ:あの場は私、恥ずかしくて誤魔化しちゃったんですけど……、もし結婚してくれるなら付き合ってもいいですよ?

 カプリス:はぁ!? 何言ってんだよ。なぁマール

 マール:私もルーナと同意見よ

 カプリス:えっ……


 ちょっと待て。ゲーム内で結婚した方とリアルでも付き合えるってことか……。確かに彼女は欲しい。しかもこんなに可愛い彼女なんて、俺には勿体無いほどだ。

 でも


 カプリス:そんなことで付き合ってもダメだろ

 

 そんなことしたら本当に直結厨だ。俺の方は好きでも、向こうが好きじゃなきゃ長続きなんてするはずもないし、楽しくもないはずだ。


 マール:もちろん私たちが現実のあんたのことが好きになってたらって条件付きよ

 ルーナ:それは当たり前です

 カプリス:そっか。それはそうだよな……


 なんだか少し安心して胸を撫で下ろす。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、マールがからかうようなエモートを使いながらチャットを打ってきた。


 マール:なーに? あんたまさか、私たちが好きでもない人と付き合うとでも?ww

 カプリス:あの言い方は誰だってそう思うって!

 マール:そうだよねぇ。ちょっと騙すつもりで言ったし

 カプリス:やっぱりか!


 マールのやつ絶対画面の向こうでニヤニヤしてやがる。なんだか無性に腹が立ってきたな。

 ちょっとやり返してやるか。


 カプリス:なぁルーナ。今日は二人で狩りに行くか

 ルーナ:えっ! でもマールは?

 カプリス:いいのいいの

 マール:ぜっーたい! だめ!


 俺がマールから離れるようにしてルーナにそう声をかけた時、マールがすごい勢いで俺の手に飛びついてきた。


 マール:ちょっとからかったのは謝るから私も連れて行って

 カプリス:うっ、分かったよ元からそのつもりだし

 

 ゲーム内とは言え、こんなに可愛い子に上目遣いされたら断ることなんてできない。


 マール:えっ? もしかして私をおちょくったの!

 カプリス:さっきのお返しだ

 マール:もう! 本気で焦っちゃったじゃないの


 持っている杖でポカポカと殴ってくる。

 こんな可愛いキャラがこれが彩花と同一人物だなんて考えられないな。


 ルーナ:もうマールばっかりずるいです!

 カプリス:うわっ!


 少し腑抜けたことを考えてた時、空いている片方の手にルーナが飛びついてきた。ルーナは俺の腕を抱きしめながら居心地良さそうにしている。

 リアルではあんなに恥ずかしがり屋なのになぁ……。


 カプリス:そろそろ二人とも落ち着け。


 一旦二人を振り払って少し離れた位置に立つ。


 カプリス:そろそろ狩りに行こうぜ

 ルーナ:そうですね。少し話し込みすぎました

 マール:最後に一つだけ、明日の昼休みは私と食べるのよ。だからお弁当は持ってこなくてもいいから

 カプリス:うん? どういうことだ?

 マール:それは明日のお楽しみよ。


 ふふッと笑みを浮かべたマール。

 その笑みを若干不安に思いつつも、狩場へと向かった。

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