第7話 お昼休み
「それじゃあ今日はここまで」
「起立!」
先生の声を子守唄にして船を漕いでいると、みんなの椅子を引く音で目を覚ます。
「もうお昼休みか……」
机にうなだれながらそう小さく呟く。
今日はいつもより早く時間が過ぎた気がする。それもそのはずだ。噂を聞きつけた女子たちが休み時間ごとにこの教室に来てコソコソと話し出す。
オタクの俺がこんな注目されることに慣れているはずもない。そんなことで精神が持っていかれ、授業の方が休まる時間になっていた。
「司ー! お前今日ご飯どうする? 一緒に食べるか?」
男友達数人が、俺のところへとやってきて、そう訊いてくる。
男子の方はもう落ち着いているため、いつも通り話しかけてくる。こういう時は男子で良かったとつくづく思うな。まだ、少しいじってくる時もあるけども。
「いや、今日は辞めとくわ。一人で人のいないところに行ってくるよ」
「まぁ、こんなに注目されてちゃ落ち着かないだろうな」
「まぁ、でも因果応報ってやつだな」
「あの二人に好かれてんだからこれくらいはしょうがないな」
「これがメシウマってやつか?」
「お前ら最低だな!」
本当に挨拶だけで飛躍しすぎだ。こいつらも本当に好かれてるとは思って無いだろうから良いんだけど。
「まぁ、そういうわけだから。また後で」
「おう、昼休みくらいはゆっくり休めよー」
軽くみんなに手を振ってから、片手に弁当を持って教室を後にした。
「ふぅ、ここまでくれば誰もいないよな」
端っこの部室棟の裏まで来てようやく、人気が無くなった。うちの学校は昼に部活をやっているところはほぼ無いため、そのためだろう。今回ばかりはそれに助けられたな。
「一人がこんなに心地いいって感じるとは……」
こんなイキりの厨二病みたいなことを呟く程度には疲れてるんだろうな。
「はぁ……」
何だか疲れてご飯を食べる気力もない。何もせずにただ流れる雲を眺めていた。
そんな時、近くでパタパタと足音が聞こえてくる。
珍しく部活でもやってるってことはないだろうな……。
そんなことを考えつつ足音の方向をのぞいてみると、今日よく見知った人物と目が合った。
「やっと……見つけました」
「きょ、鏡花さん!? 何でここに」
「葉山さんを……探してたんですよ」
おいおい。なんてことだ。神様、ここまで俺を追い詰めてどうするつもりなんだ。今日はもうそっとしておいて欲しいんだが。
ずっと走り回っていたであろう鏡花は乱れている呼吸を整えるように、何度か深呼吸をしてからもう一度こちらを向いた。
「葉山さん……一緒にお昼ご飯を食べてください!」
「ご、ご飯?」
「はい……」
少し頬を赤らめながら言葉を発する鏡花に対して俺の頭の中ははてなマークで埋められていた。
「ど、どういうことだ?」
「お姉ちゃんと約束して、学校でも葉山さんと仲を深めようと思って……、今日は私の番で……」
どんどん赤くなっていく顔に比例して辿々しくなっていく言葉。もう今にも爆発しそうなほど、顔は真っ赤になっていた。
そんなところを見ているとちょっといじめたくなってくるのは何故だろう。
「ちょっとよくわからない」
本当にこの状況はまだ全然理解してはいないが、少し素っ気なく意地悪に返してやった。
「…………」
少しおちょくるつもりだったのだが、鏡花は今にも泣きそうな顔でこちらを見つめてきていた。
「ご、ごめん! 冗談だって!」
「ほんとですか?」
「ああ、ちょっと意地悪しただけだ」
これ以上は危険だと察してすぐに謝る。本当に泣かれでもしたら困るしな。
「一旦一緒にご飯食べるか」
「はい!」
まだよくわかっていないが、これ以上長引いて鏡花がご飯食べれなくなるかもしれないし、とりあえずご飯を食べることにした。
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