第4話 オフ会当日
オフ会の日。なんだかんだで少しワクワクしながら、準備をして、最低限身だしなみを整えてきた。
柄にもなく髪をセットして、妹にも似合う服を新調してもらった。
これで大丈夫だと意気込んでいたのに。
「なんであの二人がいるんだよ」
俺の目線の先には清水姉妹。学校とは雰囲気がだいぶ違う。学校でも十分過ぎる程可愛かったのだが、化粧と二人に似合った服装でより一層可愛く仕上がっている。
近くを通ったほとんどの人がチラ見しているくらいには目をひいている。
こんな格好でいるのが見つかったら、変な噂が広まるに決まってる。
「あの変なオタクが週末に服装整えて街中歩いてたのよ」
「えー! きもーい」
絶対こんな風に話の対象になる。ただでさえ好感度が低いんだから、これ以上下げることはしたくない。
こうなったら早めにルーナとマールに合流して脱出しないと。
『今着いたが、二人はどこにいる?』
『今、駅前の時計台の下にいるわよ。カプリスこそどこにいるのよ』
時計台の下とか、あいつらがいた場所と丸かぶりじゃないか。俺から行くことはできないな。
『俺は駅の階段を降りた場所にいるからこっちに来てくれないか』
『りょーかいよ』
あらかじめメールを交換しておいて助かったな。なんとかなりそうでホッと一息をついたとき、二人は現れた。
「葉山? なんでこんなとこに……」
「葉山さん? どうして……」
「二人こそどうして……ここに?」
清水姉妹だった。
なんとなく嫌な想像が頭をぐるぐると回っている。冷や汗が止まらない。
そんな訳ない。あの二人はアニメもゲームも嫌っているのだから。
「あんたに話す訳ないでしょ」
「…………葉山さんはなんでここにいるのですか?」
いつも通りの彩花に対して、鏡花は少し落ち着いてからそんなことを訊いてきた。
「…‥えっとだな……ゲームで知り合った友達と会うことになってたんだ」
「…………っ!!!」
「…………」
二人とも薄々気づいていたのだろうが、それでも信じられないといった顔をしていた。
その反応を見て俺は確信した。
「鏡花もう帰るわよ!」
「待ってよお姉ちゃん!」
「どうして!」
「どんな相手でも帰らないって約束したでしょ」
鏡花は正体がわかるや否や、そそくさと踵を返して帰りそうになる彩花を引き留めていた。
そして二人は息を整えてこちらへと顔を合わせてくる。
「葉山さん——いえ、カプリスさん……ですよね」
「ああ」
「私がルーナで」
「…………マールよ」
「やっぱりそうか……」
彩花がマールで、鏡花がルーナか。
彩花だけでなく鏡花も少しテンションが低そうだ。やはりこんなオタクと一緒にいるのが嫌なのだろう。
「一旦どこか店に入りましょう。誰かに見られるのも嫌だし」
「うん。そうだね」
「分かった」
早歩きでさっさと向かっていく彩花に俺は急いでついて行った。
「ここなら誰にもバレないわね」
「ここって…‥カラオケか?」
「ここなら大丈夫そうです」
数分歩いた先にあったのはカラオケボックス。確かにここなら誰にも見られないだろうが、
「二人はこんな個室でいいのか?」
「どういうことですか?」
「ほら……俺が何かするとか思わないか?」
「そんなことしてきたら股間でも蹴って逃げればいいだけよ。それにどうせ意気地なしだし」
「…………それは否定できないけど」
実際何かやれと言われてもやる気はないし、もしやったとしても後が怖すぎる。
まぁ二人が気にしてないならいいか。
そう思って一旦席に着いた。
「それで色々聞きたいんだが……」
「あーもう! 分かってるわよ!」
「ここまできたらしっかりと話します」
歌うためにカラオケに来たのではないし、気になることも山ほどあるため早速本題を切り出す。
「俺もカプリスで間違いないし、二人もルーナとマールで間違いないんだよな?」
「そうよ」
「間違いないです」
「でも二人はゲームとか嫌ってると思ってたんだけど」
実際オタクの俺を誰でも分かるくらいあからさまに嫌っていたし。
しかし俺のそんな問いに二人は少し項垂れ、一つの大きなため息をついた後口を開いた。
「私も鏡花もゲームも大好きだし、アニメも見るわよ。当然高校に入った頃だって隠すつもりもなかったし、話の会う人だけが友達になればいいやって思ってたの」
「でも、お姉ちゃんがめちゃくちゃモテて——」
「鏡花もね」
「そんな事ないよ!」
途中で話を折られた鏡花だったが、彩花の言葉に対してものすごい勢いで否定する。
「男子のあんたから見て鏡花はどうなの? モテると思う?」
「そりゃあモテてるだろ。多分クラスの男子に聞いたら大体二人のどっちかを挙げるし、その割合も半々くらいだぞ」
「ほらね?」
「あうう……」
俺の話を聞いた彩花は少しドヤ顔になりながら鏡花に目配せすると、鏡花は顔から火が出たように真っ赤にして俯いていた。
「まぁ、話を戻すけど——そういうわけで周りに集まってきたのは陽キャって感じの女子や男子よ。そこから抜けるなんて到底無理だし、オタク系の趣味が好きな人なんて誰もいなかったの」
「なるほどなぁ……それで言い出せずこともできなかったってわけか」
「そ、それだけじゃないですよ…………」
まだ、ほんのり赤く染まった頬した鏡花が少し気まずそうにそう呟いた。
「うん? どういうこと?」
「あんたのせいよ! 私たちだって最初は普通に公表しようかって話してたの! そしたら……そしたらあんたがアニメやゲームの話で自虐ぽいことをしてるじゃない!」
「ああ……確かに、一年の時は彩花さんと同じクラスだったもんな」
俺は最初は中々友達ができなかったから、逆に開き直ってオタクキャラで行ったら友達が急激に増えた時期があったのだ。その時だろう。
「それのせいで! 私が絡んでる人たちみんな、アニメやゲームにマイナスなイメージを持っちゃったの!」
「そっか……」
「お姉ちゃん、ちょっと落ち着いて」
熱くなっていた彩花を抑えるように宥める鏡花。
そんな事があったのか……。確かに二人には悪いことをしたのかもしれないが、俺もあの時は友達作りで必死だったしなぁ。
「お姉ちゃんはああ言ってますけど、気にしないでください。本当に悪いのは私たちですから……」
「そう言ってくれると助かるよ。でも鏡花さんは俺のこと嫌ってないのか?」
「えっ? 嫌う理由ありませんよ。確かに一年の最初の頃は少し逆恨み的な側面もあったかもしれませんが、今は何も思ってません」
「鏡花は少し男が苦手なのよ」
「そうなのか?」
その問いかけにこくりと首を縦に振る。
そんな単純な理由だったのか。ただ、彩花が隣にいたから他のやつより少し強く圧を感じていただけだったってわけか。
「私は今でも嫌ってるけどね。…‥でも、ゲーム内のあんたは別よ。唯一私たちを助けてくれた人なんだから」
「うん? なんのことだ?」
「鈍感すぎですよ?」
ふふっと笑う鏡花に、はあっと呆れている彩花。二人を助けた覚えなんて一度もないんだけどな。
「だから、今日は葉山司とじゃなくて、カプリスとして接するからね。あくまでゲームのオフ会だから」
「私もです。カプリスさんなら全然平気ですから」
「…………二人がいいならそうだな。今日は楽しむか」
会話はそこで一旦終了し、彩花はカラオケに設置されているタブレットに手を伸ばした。
「今日はいつも歌えないアニソン歌うわよ!!」
「私も!!」
数分二人がタブレットを占領していた。それから曲が始まるとようやくタブレットが回ってきた。
おいおい、もう十曲近く入ってるじゃないか。まぁでも二人が楽しそうだからいっか。
そんなことを思いつつ、二人の綺麗で可愛い歌声に癒されながら1日を過ごした。
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