第2話 学校
「なあなあ、司昨日のアニメ見たか?」
「ああ見たぞ。主人公がボッチすぎてまじ笑えるよな」
俺はゲーム内ではカプリスとして立派に剣士をしているが、現実世界では葉山司というどこにでもいるようなオタクな高校二年生だ。
最近はアニメや漫画は誰でも見ているような娯楽なので、二年生が始まって一ヶ月もしないうちに、堂々とオープンオタクとしてクラスに馴染んでいる。
陰キャな俺でもオタクキャラのおかげで、昼休みにこうして男子数人とも普通に会話ができる。
今話しているのは今季でもトップクラスに人気の陰キャがバンドをするというアニメだ。
「あのアニメのいいところは誰が主人公でも成り立つくらいキャラが立ってるところだよなぁ。バンドのシーンも綺麗だし」
「おうおう、出たな。オタク特有の早口」
「しょうがねえだろ。本当にオタクなんだから」
「それって自分で言うことか?」
「他人に言われるくらいなら先に自分で言うさ」
こんな風に俺は自分の好きな話をたくさん出来て、周りは俺をいじることで楽しんでいると言うウィンウィンな関係だ。
しかしこのキャラは男子には好かれる一方でデメリットもある。
「…………」
それがこんな風に俺を蔑んだような眼差しで睨んでくる女子の存在だ。やはり一定数は「オタクがキモい」という偏見が残っているのだろう。
「キモすぎ」
「…………」
「えっ?」
そう悪態をついてきた二人は学校でも有名な清水姉妹だった。姉の清水彩花と妹の清水鏡花。
姉の彩花は強気でスポーツ少女という感じだ。薄いピンク色の髪は短く整えられている。しかしスポーツができるにも関わらず部活にも入らず、助っ人にも行ってない少し謎の人物だ。
妹の鏡花の方は姉の彩花とは真逆で、典型的な弱気で文学少女タイプでいつも学年一位の成績を保守している大和撫子のような女子だ。桜のような薄いピンクの長髪をしており和服が似合いそうな雰囲気の女子だ。
この双子は仲が良いため姉の彩花方はクラスが違うのだが、良く妹の鏡花のクラスに来て話している。
「いきなりキモいはないだろ!」
「本当のこと言って何が悪いの?」
「本当のことでも言っていいことと悪いことがあるだろ?」
「それ以上近寄らないで。鏡花になんかやったら殺すわよ」
「そんなつもりなんてないって」
口論に少し熱くなってしまって一歩踏み出すと、虫が出てきたかのように勢い良く後退りをしてくる。
何もしないっていうのに酷い扱いだ。
はぁ、とひとつため息をついて落ち着かせてから、再び話しかける。
「それに彩花さんだって好きなものくらいあるだろ? それと一緒だよ」
「……何言ってるの? あんたのとは違うから」
少し間があったように見えたものの、直ぐにいつも通り返してくる。
「もうお姉ちゃんいいよ。行こ」
「そうね。こんなの相手してるほど暇じゃないし」
「こんなのってないだろ!」
「もういいから、話しかけないで」
その言葉を最後に女子たちが集まっているグループへ入っていった。
最後まで本当に酷いやつだな。黙ってれば可愛いのに。
「司、本当に清水姉妹に嫌われてるよなー?」
「女子には煙たがられてるからなぁ」
「それでも特にあの二人はやばいだろ」
「そうなのかな」
やっぱりそうなのか。他に話す女子もほぼゼロなため、普通だと思ってしまっているのだ。
「お前も損だよなー。あんなに可愛い二人に嫌われるなんて」
「そうかー? 別に慣れれば楽だぞ?」
「どうせ強がってんだろ?」
「いやいや、俺には嫁がいるし!」
「そんなこと大声で言うから嫌われるんだよ」
「あ、」
チラリとこのクラスの女子が蔑んだ視線を向けてくる。俺が周りを見渡したのに気づいたのかは知らないが、直ぐに視線を戻して会話を続けていた。
相変わらず清水姉妹もこちらを睨んできていた。
まぁもう俺にはチャンスも何もないんだろうしいいけどな。
「まあでも司、良かったな」
「はっ? なんでだよ!」
「お前みたいな変態は罵倒されるほど興奮するんだろ?」
「そんなわけないって!」
「まあまあ、そう言うのは隠したいもんなぁ」
「だーかーらー、俺はそんな変態じゃないって!」
こいつらは本当に勘違いをして困る。こんなことを直ぐ思いつくこいつらの方が変態なんじゃないだろうか。
「もう掃除始まりますよ!」
バカな会話をしている間に予鈴が鳴っていたらしく、委員長——羽月沙織から忠告の言葉が飛んでくる。
「げっ! 委員長!」
「やばいやばい」
その言葉を合図にそれぞれ俺の席からみんなが去っていった。
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