♯15 永遠の存在者③ お兄ちゃんだからね(前編)
「初代……〈ガイアセンチネル〉……」
自分の他にもなんらかの理由でワームホールに呑み込まれ、別の宇宙の
そういうことなのだろうと予想はしていたものの、いざ明言化されると、
……彼は、どこの誰だったのだろう。
自分とは違い、彼は、何故自分がそうなってしまったのかを――ワームホールに呑み込まれる羽目になったのかを、すべて憶えていたのだろうか?
彼は、何を思い、なんのために戦うことを決意したのか……?
彼は、怖くなかったのだろうか。不安ではなかったのだろうか。
……淋しくは、なかったのだろうか。
「どんな奴だったんだ? 初代は」
「さて……。初代についての情報は
「唯一ハッキリしているのは、初代にして、史上唯一の完全な〈ガイアセンチネル〉ってことだけだな」
「誰かさんは二代目だけど、残念ながら不完全だものね」
マナ、クー、リッカの言葉に勇魚は眉を顰める。
「不完全?」
どういう意味だろう。
「昔
「あのチビどもとは正式な婚……契約まで結んであるみたいだが……それだけじゃなぁ」
「少なくとも黄道十二星座をシンボルとする上位眷属とは、全員と正式に婚い……契約を結んでもらわないことにはね。話にならないわ。〈
そういえば、いつだったか
まあ、それはいいのだが。
「今、婚姻って言いかけてなかった?」
「気のせいです」
「気のせいだな」
「気のせいでしょ」
「そっか……。でも、正式に契約を結ぶって言ってもさ。テルルとレア、そしてキミたち以外の上位眷属は今どこでどうしているワケ? 確か、
マナ……は確か違ったはずだから、クー、リッカ、テルル、レア、そして
しかもリッカが『少なくとも~』という言いかたをしたということは、マナのような下位眷属とも可能な限り契約を結べということなのだろう。
「「「さあ」」」
「さあ⁉」
「わたくしどもが知るワケないでしょう」
「こちとら、もう四半世紀近くずーっとおまえの中にいるんだぞ」
「連絡手段も無いしね」
「えー……」
肝心なところで頼りにならない。
彼女たちのような存在は、その気になればテレパシー的なモノでいつでもどこでもやりとり出来るものとばかり思い込んでいた。
気になることはまだある。
「――でも、わからないなぁ。〈
「……さて。わたくしどもはただ〈
「それはそれでどうなのさ……主の意図くらいちゃんと確認しておくべきなんじゃないの?」
「『手伝って!』って泣いてお願いされちまったからなー」
「泣いてお願いされたの⁉ ますますなんなの〈
「この地球の分霊であるあのおチビちゃんたちの自我や人格の雛形、言わば母親みたいなモノよ? 何夢見てるの? これだから童貞は……」
「ボクが女性に対して変な幻想抱いてるかのような言いかたしないで⁉ てか、何を根拠に童貞だと決めつけてくれてるのさ⁉」
勇魚の何気ない一言に、
ゆらりと、その全身から怒気を視覚化したような黒いオーラが立ち昇る。
「聞き捨てなりませんね。違うと
「どーゆーこった過去にそーゆー関係のオンナがいたってのかアタイ何も聞いてねーんだケドコトと次第によっちゃ訴訟も辞さねーぞ」
「その泥棒猫がこの
「なんでボクが隠れて浮気してたみたいな空気になってるの⁉ てか待って、怖い怖い怖い! ごめんなさい見栄を張りました童貞です!」
勇魚は
「あれ? 待てよ? テルルとレアの自我や人格といったモノの元になったのが〈
「「「!」」」
それをそのまま口にすると、
「そもそも、テルルとレアも含め、キミたち人外の
いや、
突き詰めれば、自分を始めとするオリジナルの地球の住人にも……。
「ヤバい……何がなんだかわかんなくなってきたぞ」
――我々はどこから来たのか。
――我々は何者か。
――我々はどこへ行くのか。
どこぞの絵画のタイトルのようなワケのわからなさだ。
「大丈夫ですか? こう言ってはなんですが、あまり気になさらないほうがよろしいかと」
「なにしろ『この
「自我や人格に関してはどうもオリジナルの地球の住人――人間のそれをコピーしたモノっぽいというのが、私たちの自己分析なのだけれどね」
……聞き捨てならないことを言われた気がした。
「は? じゃあ、ボクが生まれ育った地球のどこかの時代に、キミたちオーバーロードの元になった人間がいたってことか?」
「……ええ、まあ。ついでに言うとその人間の記憶や思考、価値観なども、そっくりそのままコピーされているワケですが」
「そんなワケで、こんなふうにおまえと会うときは、その人間の容姿を使わせてもらってるんだよ。本来、聖霊であるアタイらに肉体なんてモンはねーからな」
「この
「それじゃあ、マナやクー、リッカって名前も……」
「はい。あの双子が言うところの『真の名』は、実際には借り物の名前なのです」
「アタイらの元になった人間たちの名前だな」
「漢字表記が可能な名前もカナ表記で統一されていたり、微妙に崩されていたり、大抵はアレンジが加えられているのだけれどね」
ということは、リッカの場合なら、本来『立夏』や『六花』だったりするワケか。
「……いや、リッカの場合、髪の色や顔立ちは明らかに日本人のそれじゃないし、
「ふふ……秘密」
「マナは……」
黒髪だし、服装的にも日本人っぽいから……。いや、しかし……。
「マナって名前は、漢字表記しようとすると候補がいっぱいあり過ぎるんだよな」
真奈、愛菜、摩那、麻耶……。いくらでも思いつく。
「……その辺りはご想像にお任せします」
「で、クーは……」
逆に日本人でないことだけは確かだろう。名前的に。赤毛だし。
「待てよ。和装だし、名前は微妙に崩されているケースもあるって話だから、元の響きは『くう』で、空とか久宇とか、そういう一風変わった名前の日本人の可能性はあるのか……?」
「勇魚なんて名前の奴に『一風変わった』とか言われなくねぇ。マナから聞いたぞ。鯨の古名なんだろ、それ」
「――今、ふと思ったんだケド。キミたちってさ、案外、その自我や人格、容姿の元になった人間の生まれ変わりだったりはしないの? そう考えると、
「あり得ません。その場合、わたくしどももオリジナルの地球を出自とする
「デタラメな真似て」
「まーぶっちゃけアタイら自身、そのへんがあやふやになってしまうときがあるんだケドな」
「あやふや?」
「気付いたら自分のことをリッカという人間の自我や人格をコピーしたオーバーロードではなく、オーバーロードに進化してチカラを手に入れた人間・リッカだと錯覚しているというか」
「……大丈夫なのそれ?」
アイデンティティが崩壊しかけているようにしか聞こえないのだが。
「まあ。なんにしてもよーくわかったよ。キミたちについては考えるだけ無駄だってことが」
勇魚は両手を上げ降参の意を示す。
そして
「キミたちはまだ何かを隠しているっぽいケド、キミたちに語る気が無い以上、これ以上の詮索は無意味そうだ」
「「「………………」」」
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