52 永遠の心臓
「ウノ、話をしよう」
コピーはウノの部屋をノックした。少ししてウノが顔を出す。ウノはコピーが見たことのない服を着ていた。
「どうしたの。コピーから話だなんて珍しい」
「楽園の、生命係のことだ」
コピーは、時間を置けば置くほど切り出せなくなる予感がしていたので、すぐに言った。
「何、代ってほしいなんて言いに来たわけ?」
コピーは頷いた。
ウノは首を振る。
「駄目だよ。私はお母さんから選ばれた。この仕事はもう私のものなの。私が責任を持ってやり遂げなくてはならないの」
「やり遂げる?遂げることなんてないんだよ。永遠にやり続けなければならないんだ。私は、ウノにその仕事をしてほしくないんだ」
ウノはコピーの言葉にイラついてきたのか、表情が強張る。
「正義っぽいこと振りかざして奪おうって言うの?大体、この家族は実力主義が暗黙の鉄則だったでしょ。だから私たちは切磋琢磨してきた。コピーより私のほうが能力が高かったから選ばれたんだよ。私からその仕事を奪うことは、私から誇りを取り上げ、おまけに、私を選んだお母さんにも背くことになるんだよ?ただの偽善は迷惑だよ」
「能力が高くても、適正があるかどうかは別だ」
「私の方が仕事を上手くやれる」
「上手くやれなくても、間違わないでいることの方が大切だ」
「コピーは間違ったことがないっていうの?」
「今までたくさん間違ってきた。きっとこれからも間違える。私はウノよりも自分を信じていない。間違いを最初から計算に入れることができる」
「勝手に自己分析してれば?!もうすべては決まったこと。覆せないんだよ!」
ウノは叫んでコピーを突き飛ばした。コピーはよろけてウノの部屋のデスクにぶつかって尻もちをつく。
「覆すよ。ウノにこの仕事はやらせない」
「へえ、どうやって?私の胸から心臓を取ってみる?もう私は永遠の心臓を得た。もう戻れないんだよ!」
「だからそれを、覆すって言ってるんだ!」
コピーはデスクの上に散らばった文房具の中からハサミを握りしめると、ウノにとびかかってその腹に深々と刺した。
「な……!?」
ウノの目はかっと見開かれ、何か言おうとして動く唇の隙間から赤黒い液体が吐き出される。
コピーがハサミを引き抜くと、ウノはあおむけに倒れた。床に赤い水たまりが広がっていく。ウノの手がコピーの方に差し出され、そして人形の糸が切れるようにだらりと脱力し、床に落ちた。
コピーはこと切れたウノの横に跪き、胸を切り開いた。何度もえずき、時に床にゲロをぶちまけながら、やがてコピーは真っ赤な臓器を一つ、ウノの胸から取り出した。コピーがつかんで持ち上げると、その心臓はまた、ドクドクと脈打ち始めた。コピーはよろよろと立ち上がり、ウノの部屋にあった瓶に心臓を入れる。
コピーの白衣、手、顔、すべてが真っ赤だった。触ったガラス瓶の表面を、コピーの手についていたまだ温かい血液がゆっくりと流れ落ちて、筋を作った。
「うあああああああああ!!」
血の海の広がる部屋の真ん中で、コピーの慟哭が響き渡った。
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