第3話

 もうすっかり日が暮れていた。僕は明るく浮き上がって見える街の中心部を目指して道を戻った。周囲が真っ暗だから、いちおうキラキラと浮き上がって見えるが、あらゆる産業が衰退し、すっかり活気の失せた街なのは逃れようのない事実だ。いや、むしろ、活気のあった昔の記憶すら、伝説のように思えてしまうほど、現実は変化した。街の北に青い龍が住んでいたとか、海から人魚が現れたとか、そんなファンタジーストーリーと、同列で扱っても不自然とは感じられないほどに。

 いちおう居酒屋やキャバクラのネオンが通りを明るくしている一角はある。そこを横切って、僕は静かな公園にむかった。街の構造通りの真四角な公園。雪が、まだサラッとしていて、すべてを白くしている。役所に向かった昼の道は溶けかけた雪でぐちょぐちょだったけれど、公園というのは清らかでいい。街灯の白い明かりが三つ。石炭の生活臭さも、男たちの退屈臭も、居酒屋やキャバクラのハッタリ臭さも、ここにはないから、僕はようやく、一つの決意をする。

 公園から道を隔てて、約束の家があった。

 いさぎよくブルー一色に塗られた洋館。その古い扉に鍵を開けて中に入ると、僕は靴を脱ぎ、そこにあったスリッパを履き、明かりもつけずに手探りで階段を探した。もちろん階段の手すりはすぐに見つかった。ギシギシと音のする真っ暗な階段を上がる。二階の通路は、街の明かりが窓から漏れて、照明なしでも視界が効いた。三つの扉が見えた。その一番奥を、小さくノックした。返事はなかったが、僕は入った。

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