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――式典の広場周辺では、ネイルが仲間と共に騎士団を抑えていた。


双剣を振るい、前線に立ちながら彼は声を張り上げる。


「テメェら! 一人で最低三人はれよ! そうすりゃ俺たちの勝ちだ!」


数では圧倒的に劣勢。


しかも相手は、ただの一兵卒ではなく騎士団だ。


いくらネイルとシャーリンの部下が盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの中で武闘派とはいっても、戦況は不利としかいえなかった。


それでもなんとか対抗できているのには、フリーの魔法による援護があったからだ。


「無茶言うなぁ、ネイルは。相手は騎士だぞ」


「うっせぇ! 無茶はテメェらだろうが! この数で騎士団を抑えること自体が自殺行為なんだ。それくらい気合いれてねぇと殺られちまうだろうが!」


「文句はボクじゃなくてファクトに言いな。ほらほら、敵がどんどん増えてきてるよ」


「わかってんだよ! あぁぁぁッムカつくッ! どいつもこいつも勝手すぎんだよなぁぁぁッ!」


ネイルとファクトが騎士団を抑える中、ファクトとガーベラは広場を突っ切っていた。


二人の傍にはフードを深く被った少女がおり、ガーベラを先頭にして壇上へと向かっている。


逃げ惑う民衆の中から重装備の近衛兵が現れるが、ガーベラの戦槌せんついが彼女たちの進撃を止めさせない。


アーメットヘルムごと顔面を砕きながら、ガーベラは顔をしかめて言う。


「私も広場周辺にいたほうが良かったんじゃないか?」


「フリーやネイルたちじゃ不安か?」


「不安じゃない不満だ。こっちの敵は歯ごたえがなさすぎる。リットの奴には、美味しいところは持っていかれたようだしな」


「しょうがねぇだろ。こういう乱戦はお前のほうが向いてるんだからよ。それに、姫を守るのが騎士の役目ってもんだろ」


ファクトがニカッと歯を見せると、ガーベラは笑みを返して、敵を粉砕しながら前へと進んだ。


すでに貴族やフェロ―シャスとその側近の姿はなかったが、彼女たちは壇上へとたどり着く。


ファクトが先に壇上へと上がり、フードを被った少女に残っている左腕を差し伸べて、彼女を台の上へと持ち上げた。


二人が壇上に上がったことを確認すると、ガーベラは持っていた戦槌を石畳の地面に打ちつけた。


それはまるで教会の鐘が打ち鳴らされたかのように、広場に凄まじい轟音が響き渡る。


「沈まれこの場にいるすべての者たちよ! 王女の御前である! そして聞け! 王女自らが、今ここで王殺しの真実を語る!」


ガーベラが打ち鳴らした轟音の後、ファクトが声を張り上げた。


そして彼は、傍にいた少女に深く礼をし、彼女が前へ出てくる。


これまでの騒乱が嘘のように静まり返り、この場にいた全員が少女へと視線を向けていた。


少女が深く被っていたフードを取り、その素顔をさらす。


「私、アテンティーヴ·リフレイロードが伝えます」


少女の正体は、メロウの妹であるアテンティーヴ王女だった。


メロウたちの襲撃の後に、別の屋敷に匿われていた彼女だったが、どうしてだかファクトたちと共にこの場に立っていた。


アテンティーヴは凛とした態度で前を見据え、見上げている民、貴族、騎士、兵らに向かって言葉を続ける。


「父である国王を殺したのは、私の姉であるメロウ·リフレイロードではありません。犯人は我が兄、フェロ―シャス·リフレイロードの手の者です」


王女は真犯人の名を口にし、その証拠となる事実をファクトが皆に提示した。


どこで手に入れたのか、王を手にかけた者へ宛てたフェロ―シャスの手紙をさらす。


その手紙の内容をアテンティーヴが読み上げた。


さらには差し出し人がフェロ―シャスである証――第一王子の印璽いんじされた封蝋ふうろうも皆の前にかざされる。


王国騎士団の動きが止まる。


貴族も平民も誰もが言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。


「おい、どうやら終わったみたいだぞ」


「はあ、よかった……。こっちはもう魔力が尽きかけたからなぁ」


広場周辺にいるネイルとフリーが、握った拳をぶつけ合っていた。


「上手くいったな。あとはフェロ―シャス·リフレイロードを捕らえれば私たちの完全勝利になる」


「おいおい、なにやる気を出してんだよ。そこはオレらの仕事じゃねぇから。とりあえずズラかろうぜ」


「リットの奴がいないが、どうする?」


「あのバカ……。まあ、いい。今は合流地点に行くことだけを考えよう」


ファクトは壇上から降りてガーベラと向き合うと、二人でアテンティーヴへ体を向け一礼。


まだ騒がしいままの広場から去っていった。


広場で王殺しの真相が暴かれたとき――。


フェロ―シャスは側近とわずかな兵を連れ、馬車に乗って広場から出ていた。


街中を全速力で馬を走らせ、真犯人として捕まる前に脱出をはかる。


今後のことを考えれば罪人となったフェロ―シャスは裁かれ、アテンティーヴが新たな王として選ばれる。


まだアテンティーヴは幼いが他に継承する親族もないため、彼女が王になるのは確実だ。


そうなると、もうフェロ―シャスに国での居場所はない。


今は親交のあった国へと逃亡し、再び力を取り戻すため、その身を隠すしかなかった。


城門が見えてきた。


報告が伝わっておくことを恐れ、裏門を選んだのが正解だった。


衛兵の姿もなく、簡素な門は開いている。


それを見た御者ぎゃしゃが馬車を走らせていたが、気がつくと城門は閉じ始めていた。


慌てて手綱を引いたが、急に止まれるはずもなく馬車は門に激突。


その場にひっくり返る。


「どこへ行くんだい、王子さま。いや、今は元国王さまか」


倒れたフェロ―シャスの前に、ターバンを巻いた女――シャーリンが現れた。

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