41
――アテンティーヴ王女の確保に失敗してから数日後。
メロウは逃げる途中、馬車の中で息を引き取った。
フリーがこんなときのためにと覚えていた治癒魔法でも回復はならず、涙する仲間たちの前で。
ファクトは右腕を失うという重傷を負ったが、フリーの治癒魔法で一命を取り留めた。
今は
リット、フリー、ガーベラの三人は、ネイルと共にギルドの所持する砦で身を隠し、シャーリンの指示を待っているところだった。
砦で顔を合わせていても、彼女たちに会話はなかった。
ガーベラは食事と体を洗うとき、睡眠時間以外はずっと
リットはそんな二人とは違い、何をするでもなく、抜け殻のように部屋にこもっていた。
そんな彼女たちをなんとか元気づけようと、シャーリンの仲間たちが気にかけていたが、ネイルは彼ら彼女らに忠告する。
「やめとけよ。今のあいつらに、なにを言ったところで
連中を導くことができるのは、死んだメロウ·リフレイロードだけだ。
それ以外の人間が余計なことをすれば、かえって傷口をえぐることになる。
手負いの
ネイルの態度に、誰も反論はしなかった。
それは彼の人柄を知っているのと、シャーリンの仲間たちには、リットたちにかける言葉が本当に何もなかったからだった。
メロウの死によって、砦にいた彼女と顔を合わせたことのない人間までが、深い悲しみに
そして、メロウの死に打ちのめされた者はまだいる――。
「メロウ·リフレイロードが死んだらしいじゃねぇか、シャーリン」
シャーリンは、ギルドマスターであるディオヘッドに呼び出されていた。
彼女は、
ディオヘッドに凄まれて怯えているのか。
いつもの彼女らしくない態度でいるシャーリンに、ディオヘッドは言う。
「これでお前の計画が白紙になっちまったってわけか」
「親父……。私は別にギルドに迷惑をかけ……」
「ケツをまくるか」
ディオヘッドは、震えるシャーリンに詰め寄った。
このまま終われば、周りの反対を押し切ってまでメロウと姉妹分になったシャーリンは、ギルドに居場所がなくなる。
この世界で舐められるということは、食いぶちを失うということだ。
土足で家に上がられ、奪われるだけ奪われる。
それはたとえ幹部だろうと変わらない。
組織というものはどこも同じだ。
下はつかえている。
同じ立場の奴はやっかむ。
上の連中は自らの保身しか考えてない。
なによりも、妹分が死んでも何もしなければ、シャーリンの面子は潰れて二度とこの世界で大きな顔はできない。
ディオヘッドは、シャーリンに向かって静かにそう言った。
「かといって身内は助けてくれねぇ。お前んとこの連中だけで王国騎士団とやりあうのも無理だ。これ以上立場が悪くなる前に、他の兄弟分にシノギを譲ったほうがいいんじゃねぇか。俺も間に入ってやるからよ」
「……少し、考えさせてください」
「そうか。だが、無茶なことだけはしてくれるなよ。お前の本音は知らんが、今でも俺の娘ってことには変わりねぇんだからな」
義理の父の言葉に頭を下げ、シャーリンはその場から去っていった。
その後に彼女は、リットたちがいる砦へと戻った。
彼女の落胆ぶりは、ネイルを含め仲間たちから言葉を奪い、さらなる悲しみの底へと落とした。
シャーリンが戻って来たことを聞いても、フリーもガーベラも変わらず
ファクトのほうは意識が戻らず、このまますべてが終わるかと思われた。
世の中には、金と力があってもどうしようもできないことがある。
それは人の死だ。
終わった生命はもう戻らない。
たとえ、どんな強力な魔法や悪魔の力を借りたとしても。
それから数日が経ち、シャーリンが戻ったことを知ったリットは部屋から出た。
ネイルがシャーリンの部屋の前に立っていると、当然そこへやって来たのだ。
「大姉さん……シャーリンが戻ったって聞いたよ」
「リットか……? 今はそっとしておいてやれよ」
リットは、ネイルを見つめるだけで返事はしなかった。
彼女の表情から何か察したのか、ネイルはそれ以上何も口にすることなく、その場から去っていく。
扉に手をかけ、リットはノックもせずに部屋へと入った。
そこには、窓から外を眺めているシャーリンの姿が見える。
「なんだ、あんたかい……」
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