39
――窓から飛び出したメロウとファクトは、屋敷の庭を走っていた。
すぐにでも外にある馬車で待機しているところへと向かおうとしたが、後ろからはシュガーたちが追いかけてくる。
「ファクト! 戻りましょう! あのままではフリーが捕まってしまいます!」
走りながらメロウは、フリーを助けに戻ろうと叫んでいた。
フリーが不意打ちを喰らわせ、今は屋敷内は混乱状態となっているはず。
そこを別の通路から向かい、フリーとこちらで挟むように突撃すれば全員で脱出できる可能性はあると、何度も声を張り上げる。
実は、ファクトもメロウと同じことを考えていた。
可能性の話でいえばメロウの提案は、三人だけで脱出するには最適解といえる。
だが、それでもファクトは彼女の提案を拒否する。
もっと良い考えが、彼の頭の中にはあった。
「大丈夫だ、姉さん! フリーを、仲間のことを信じろ! 必ずあいつらが来てくれるはずだ!」
全速力で走り、心臓が破裂しそうになりながらファクトは叫び返した。
彼の考えでは、屋敷がこんな状況で外にいるリットとガーベラが大人しくしているはずがない。
敵に見つかることなど気にせずに、絶対に屋敷内へと入ってくる。
作戦などよりも仲間を優先する、そういう奴らだ。
あいつらのことなら手に取るように理解できる。
これまで付き合いで、そうせずにはいられない
だから今は仲間を信じてこの場を逃げ切るのだと、ファクトはメロウに訴えるように言った。
「私があなたたちを信じてなかったようですね……。恥ずかしいことです……」
「反省は後だぜ、姉さん! 目の前の柵を越えればガーディとトリッキーがいるは――ッ!?」
ガーディたちが待機しているはずの場所に、彼らはいなかった。
当然、馬車はなく、ファクトは鉄柵から外を見たが、人や馬がいるような気配はない。
これはどういうことだと彼が
「姉さんは下がってろ! まだ本調子じゃねぇん――ぐぅッ!?」
「ファクト!?」
ファクトは自慢の素早さを使う前に、ブラウンヘアの女騎士――ソルトに右腕を斬り飛ばされた。
鮮血と彼の腕が宙を舞い、その中を長身の騎士――ヴィネガーが飛び込んでくる。
「ここまでだな、メロウ·リフレイロード」
「くッ!?」
メロウは抜いた剣でヴィネガーの斬撃を受けた。
斬り返すが、彼はどうしてだかすぐに下がる。
ファクトのほうへ視線をやると、ソルトも彼を始末せずに離れていた。
もう逃げ切れないと判断したのか。
シュガーも下がった二人と並び、身を震わせながらメロウのことを見据える。
「やっと……やっとこのときが来た……。私はシュガー! 治安維持組織アナザー·シーズニングの人間にして亡きマスタード·オルランドの無念を晴らす者ッ! メロウ·リフレイロード、すべては貴様から始まったのだ! ここで貴様の息の根を止めて、決着をつけてやる!」
シュガーが声を張り上げると、ヴィネガーとソルトはそれぞれ左右に動く。
正面からシュガーが向かってきており、メロウは同時に三方向からの攻撃を受けなければいけない状態に
前からシュガーの剣が飛んでくる。
それと同時に、ヴィネガーとソルトの剣も振り抜かれた。
メロウはこの同時攻撃を見事に躱す。
シュガーの剣を避けながら、左右から突かれた攻撃を剣の刃と柄で払う。
「強い。さすがは元王族といったところか。しかも、火傷だらけの病み上がり。それでよくやる」
「ええ。だけどこちらの有利は変わらない。
ヴィネガーが苦い顔をすると、ソルトはそんな彼を
シュガーは二人ほどの余裕がないため、呼吸を整えながらひたすら前へと出る。
これが一対一ならば、シュガーはすぐにやられていただろう。
考えもなく
だが、さすがのメロウも、手練れの剣を三人同時に受けた経験は初めてだ。
むしろよく避けながら防いでると言っていい。
それは、ヴィネガーが口にしたように、それだけメロウの実力が高いということだ。
「き、汚ねぇぞ……。そこの二人、テメェらは王国の騎士だろうが!? それがケガ人相手に袋叩きかよ!」
「うるさい! 貴様のようなクズに何がわかる!?」
シュガーは、右腕を失って
王殺しの囚人がいつまでも国内をうろつき、さらには悪名高いギルドの幹部と姉妹分となった。
ただでさえ王が殺されたことで国が安定していないというのに、これ以上のことが起きればまとまらなくなる。
「それに罪人が出歩いていると聞いては、民が安心して暮らせない! だからこそマスタードさんは己の信念に背いても、いや、あの人はそれでもメロウ·リフレイロードを、貴様らのことをぉぉぉッ!」
呼吸が乱れ、シュガーは息が上がっていた。
そんな彼女とは違い、ヴィネガーとソルトは冷静にメロウを追い詰めていく。
このままでは姉さんが殺される。
それだけはダメだ。
ファクトは残った左腕で腰にあったショートソードを抜くと、メロウを助けようと歩を進めたが――。
「ファクト! 動いてはダメです! そのケガで動けば血を流しすぎて死んでしまいます!」
彼女は止血をしてじっとしているようにと叫ぶと、次第にシュガーたちの剣に打ち返し始めた。
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