36
――次の日は作戦を実行。
アテンティーヴがいる屋敷へ乗り込み、彼女を連れ去る。
屋敷に直接入るのはメロウとフリー、ファクトの三人。
外にはいつでも出れるようにリットとガーベラ、馬車の
屋敷の外にはメロウたちが乗る予定の他の馬車があり、リットたちは敵の目をくらますための
メロウたちの脱出用の馬車には、顔を知っているということで、ガーディとトリッキーを含めたネイルの部下たちが選ばれている。
リットとガーベラはなぜ自分たちが待機組なのだと文句を言ったが、人知れずに侵入するのに二人では派手になりやすい。
魔法剣と
そのためフリーの魔法での対応能力と、ファクトの身のこなしと鍵開けの技術が忍び込むのに向いているということで、メロウ以外の侵入メンバーは彼らに決まった。
「本当に大丈夫か? あいつらは貧弱だからな。いざというときに姉さんを守れるか不安だ」
「そのとおりだよ! ガーベラはともかくあたしなら問題ないのに! というかむしろあたし向きでしょ!?」
「なにがガーベラはともかくだ、なにがあたし向きだ! お前ほど侵入に向いてない人間が他にいるか!」
「脳みそ筋肉のガーベラに言われたくないし!」
すでにメロウたちが屋敷へと侵入した後でも不満ばかり言う二人の相手に、馬車の
暗くなってから始まった作戦のため屋敷の門以外には衛兵はいないが、これ以上大きな声を出すと敵に見つかる可能性がある。
いくら少し離れているからといっても夜に、身に覚えのない馬車から騒ぐ声が聞こえてきたら怪しまれるだろうと、ネイルはリットとガーベラに忠告する。
「いつまで文句言ってんだ。そんなんだから侵入組から外されんだよ。不満があるなら愚痴を言う前にテメェ自身を改善しやがれ。そうすれば、次からは選んでもらえるかもしれねぇだろ」
メロウの役に立ちたいと言っておきながら、邪魔をしようとしているのはお前たちだと、ネイルはもっともなことを言った。
これにはさすがの二人もぐうの
ネイルは、わかりやすく落ち込んだ彼女たちに見てため息をつくと、
心配しなくてもメロウたちが出てきたら、自分たちが囮にならなければならない。
そのときにいくらでも役に立てると、肩を落としているリットとガーベラに言う。
「敵の目をこっちに引きつける。そういうのは得意だろ、テメェらは」
「うん! そうだね! よーしやるよ! やってやる! 屋敷にいるみんなの注意をあたしたちに集めて、必ずこの作戦を成功させてみせる!」
「だからいちいちデカい声を出すんじゃねぇ!」
リットたちが屋敷の外で待機している間。
メロウたちは屋敷内へと入り、アテンティーヴのいる寝室を目指していた。
さすが国王と王女が住む屋敷らしく中はかなり広かったが、メロウは何度も来たことがあったようで内部は
ランプの付いた廊下を進み、途中で侍女に見つかりそうになりながらも、順調に寝室へと向かう。
寝室までの通路には、メロウが以前に来たときにはなかった扉や新たな大広間が増えていたが、ファクトの鍵開けの技術で問題なく通り抜けられた。
屋敷の奥に進むほど暗くなり、前が見えづらいところでは、フリーの火の魔法を松明代わりにして進む。
衛兵は屋敷内を巡回していなかったので、メロウたちは予想よりも楽に目的地にたどり着くことに成功する。
「アテンティーヴ。私です、メロウです。扉を開けて中へ入れてもらえないですか?」
メロウはアテンティーヴの寝室の扉をノックし、声を殺して呼びかけた。
返事はなく、中から物音がすると思ったら、妹の叫び声が聞こえてきた。
「メロウお姉さま! 逃げて、逃げてください!」
アテンティーヴの悲痛な叫びと共に、廊下に衛兵たちが現れ、寝室の扉が開く。
そこからは男性のような髪の短い女――シュガーが現れた。
彼女は治安維持組織アナザー·シーズニングのメンバーだが、その傍にはリフレイロード王国の騎士団であるヴィネガーとソルトの男女の姿が見える。
「罠だったのですか!? しかし、一体どうして気付かれたのです!?」
「姉さん! 今はそんなこといってる場合じゃない! ファクト、姉さんを連れて逃げるんだ! ここはボクがなんとかする!」
「無茶ですよフリー!? この数をあなただけじゃ!」
「姉さん、ボクは大魔導士になるんだよ。これくらいできなきゃね。なにしてんだよファクト!? 早く姉さま連れていってくれ!」
ファクトは戸惑っているメロウの手を取ると、窓のガラスを蹴り割って飛び出した。
この場から去っていった二人の姿を確認したフリーは、冷や汗を掻きながら笑ってみせる。
「こんな
声を張り上げてメロウを追いかけようとするシュガーと騎士団。
だが、フリーはすでに
「行かせないぞ。姉さんはボクが守る!」
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