35

――作戦が決まり、準備と情報収集している間。


メロウはリット、フリー、ガーベラ、ファクトと過ごした。


たった数日間という短い期間だったが、流刑島パノプティコンからの空白を埋めるかのような濃い時間を。


それは明るい話ばかりではなかった。


正直に言うと、メロウはリットたちに、盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフと関わってほしくなかったのだ。


シャーリンの手回しで罪人ではなくなった彼ら彼女らには、自分のやりたいことをやってほしかった。


フリーは魔導士となって名を馳せること。


ガーベラは騎士となり、自分の信念に従って弱き者を守ること。


ファクトは法や政治に関わる仕事に就きたいと、それぞれ夢がある。


リットだけはハッキリとした夢や目標はなかったが、それでも血生臭い世界に巻き込まれる必要はないと、改めてメロウは皆に話した。


今からでも遅くはない。


皆、故郷へと戻り、自分のために生きてほしい。


これ以上、自分に付き合うことないのだと。


メロウの本音を聞き、四人は声を荒げた。


恩人が大変なときに手を貸さないわけにはいかない。


たとえ相手が国だろうが姉さんを守ってみせる。


だから、そんなことを言わないで傍にいさせてくれと、メロウに掴みかからんばかりに気を吐いた。


「それにボクは大魔導士を目指しているんだ。ちょうどいい舞台じゃないか」


「同感だ。王殺しの真犯人を見つけ、真実を国中に知らしめる。騎士にとってこれほど名誉なこともない」


フリーとガーベラがおどけた感じでそう言うと、ファクトも二人に続いて言う。


「国がまともじゃないなら直さなきゃいけねぇ。それが法ってもんだろ」


「あなたたち……」


メロウの目に涙が浮かぶ。


彼女は両手で顔を覆って堪えるが、最後にリットが口にした言葉でそれは崩れた。


「あたしたちみんな、姉さんの役に立ちたいんだよ」


メロウは涙を流しながら、震える声でリットたちに礼を言った。


本当に、本当にありがとうと。


この数日間でガーベラは、メロウから騎士の爵位しゃくい叙勲じょくんするための儀式であるアコレードをおこなった。


受章者の肩を剣の平らな面で叩くあの儀式だ。


そのときにメロウから剣がガーベラに送られたが、彼女は戦槌せんついにこだわりがあるようで受け取れないと言った。


だが、メロウがいつになく強引に渡したことで、ガーベラは複雑そうながらも有難く頂戴することになった。


儀式は、立会人としてシャーリンが見届け、ささやかながら祝宴も開かれた。


狭い小屋のテーブルに、野菜の盛り合わせや肉と魚、さらにワインなどが置かれ、それを皆で味わう。


「いつかメロウ姉さんが王さまになって、あたしたちが仕えられたら楽しそうだね」


無邪気に口にしたリットの案を、酔っ払ったシャーリンが盛り上げる。


「そいつはいいね。ガーベラは騎士。フリーは宮廷の在中魔導士で、ファクトは参謀さんぼうってとこかい」


「そうそう! 絶対に楽しいし、すっごく良い国にしていけそうだよ! それこそお祭り騒ぎみたいにさ! REVELRYリベルリーだよ、REVELRYリベルリー!」


リットは語る。


皆で国を盛り立てていくのは、飲めや歌えの大騒ぎみたいに楽しくなると。


そういう場所にきっとなると。


「それで、あんたは何をやるんだい?」


「あたし? う~ん……そういえば考えてなかったなぁ……。というか大姉さんはなにするんだよ?」


「うん? 決まってるだろう、そんなこと。私は替え玉だよ」


「えッ? でも、影武者にしたら大姉さんのほうがけて――ぐえッ!?」


「もう一度言ってみな。その勇気があるんならねぇ」


シャーリンはリットが言い切る前に、彼女ののどを掴み上げた。


踏み潰されたカエルのような声を出したリットを見て、皆が笑っている。


今夜はいい夜だ。


そして、明日から始まる作戦――メロウの妹であるアテンティーヴ·リフレイロードを確保して、国王を殺した犯人を知る。


すでに内容も決まっている。


シャーリンがネイルや部下たちに調べさせた情報によると、アテンティーヴ王女は国王亡き後、王と住んでいた屋敷に引きこもっているらしい。


その屋敷は国の中心の近くにあり、今いる貿易都市からそう離れていない。


当然、お尋ね者であるメロウは訪問できないので、こっそり屋敷に忍び込んでアテンティーヴを連れ去るということになった。


屋敷にはもちろん衛兵がいるだろうが、まさかアテンティーヴが真犯人を知っているとは思ってもいないため、警護は大したことないだろう。


「早く、アテンティーヴに会いたいですね……。あの子のためとはいえ、私は大変なことをさせていますから……」


メロウはずっとアテンティーヴのことを心配していた。


真犯人はほぼ実の兄であるフェロ―シャスであろう。


父を殺した兄の前で何も知らないふりを続けるのは、まだ幼い妹にとってどれだけ神経をすり減らすことか。


考えるだけでもやるせない。


一刻も早くその苦労から解放してあげたい。


そんなメロウの想いを知り、リットたちは必ずアテンティーヴを連れ出そうと誓った。


姉さんの大事な妹ということは自分たちの家族だ。


同じ家族で血のつながりがあっても、メロウを犯人にしたフェロ―シャスから救うのだと。


「よし、みんな! ぜぇーたいにアテンティーヴ王女を助け出すよ!」


なんの脈略もなく声を張り上げたリット。


そんな彼女を見て、どうしてお前が仕切るのだと、その場にいたメロウ以外の誰もが思い、口に出した。

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