34
――メロウに助けられたリットたちは、彼女の案内でシャーリンが向かったスラム街へと到着した。
「姉さん姉さん! もうケガは大丈夫なの? みんな心配してたんだよ」
久しぶりに顔を合わせたのもあって、リットは移動中も到着後もメロウにくっついていた。
まるで母から離れない小動物だ。
さらにフリーもガーベラも自分たちが流刑島での暴動後にどうなったかを話し始め、スラムの住民たちの視線が彼女たちに集まっていた。
当然お尋ね者であるメロウはフードを被って顔を隠しているが、あまり目立つのは不味いと、ファクトがその顔を引きつらせている。
「おい、お前らいい加減にしろよ! 姉さんが困ってんだろうが!」
ついに声を荒げたファクトに、リット、フリー、ガーベラは
変わらない笑顔。
いつも見ていた笑み。
嫌な顔一つせずに話を聞いているメロウを見ていたファクトもまた、本当は三人と同じように彼女にいろいろ話したくなっていた。
だが、自分の仕事は仲間の暴走を止めることだと、すぐに我に返って言葉を続ける。
「それに、そんなペチャクチャ話しながら歩いてたら周りから見られるだろ。誰が見てるかわからねぇんだぞ」
「気を遣わせてしまいましたね、ファクト。でも、大丈夫ですよ。ここの人たちは味方ですから」
心配することはない。
メロウはスラム街に来て数日後には、住民たちとすぐに打ち解けたと話す。
どうやらここの住民たちとは、彼女が追放される前から付き合いがあったようだ。
第二王女ながら視察と評してスラムに顔を出し、メロウは持ち前の性格で信頼を得た。
その話を聞き、さすがは姉さんだと、リットたちはさらに声を大きくしてメロウに話し始める。
ファクトもならば心配はいらないかと思っていると、シャーリンがいるという小屋にたどり着いた。
それはいかにもスラム街にありそうなもので、風が吹けば隙間から入ってきてしまうような外観だった。
メロウを先頭にリットたちも足を踏み入れると、入ってすぐにテーブルがあり、そこにはイスに座っているシャーリンの姿があった。
「久しぶりだね、メロウ。親父とは話をつけたのかい?」
「シャーリン姉さん。お久しぶりです。親父
「私もだよ。というわけで、あんたらはちょっと外に出てな」
シャーリンにそう言われ、リットたちは小屋を追い出された。
せっかくメロウに会えたのにと誰もが顔を歪めていたが、
小屋を出ていくところもなかったので、四人は話が終わるまで外で待つことにする。
「あいつらとあんたが一緒にいたってことは、どうせなんかやらかしたんだろうね」
シャーリンはイスの背もたれに体を預けると、呆れた様子で笑った。
メロウもそんな彼女に笑みを返し、小屋の中にあったポットを出して紅茶を入れ始める。
それからメロウも席に着き、ニ人はカップを手にしながら視線を合わせた。
そして、話は早速
「姉妹分の契りの儀式の後に、ディオヘッドの親父殿は私に言いました」
「ああ、私が追い払われた後だね。それで、親父はなんて言ってたんだい?」
「……シャーリンが罪人に情けをかけようが構わない。だが、あいつはお前を使って何かデカいことをするつもりだ。もしうちを巻き込むつもりなら、あいつの手を借りるのはいいが手土産を持ってこいと……」
「勘づいてるね。さすがは親父だ。まだもうろくしてないみたいで安心したよ」
シャーリンは嬉しそうに口角を上げると、カップを手に取って一気に紅茶を飲み干した。
メロウがすぐに空いたカップに紅茶を注ぐと、彼女は言う。
「他の幹部連中はなんか言ってた? その場にいたんだろう」
「全員一致で私が
「ハハッ! 文句があるなら私がいるときに言えってんだよねぇ。まあ、そんな根性のある奴がいれば、あんたと姉妹分になることもなかったんだけど」
その後、話は変わり――。
話題はギルドに持っていく手土産のことになった。
その手土産とは、王殺しの真犯人を知っている人物。
「父が殺されたとき、部屋には父と妹のアテンティーヴだけでした。私が一番に駆けつけたことで兄に犯人にされてしまいましたが……。嫌な予感がしていた私は、妹を慌てて隠したのです」
「じゃあ、あんたの妹さんを私らの手元に連れてくれば、犯人がわかるってことだね。わかりやすくていいじゃないか。犯人がわかれば
「では、すぐにでもアテンティーヴを確保しましょう。もしあの子が犯人を見ていたと知られたら、絶対に無事ではすみませんから」
メロウとシャーリンはその後に作戦会議を始め、その話し合いはリットが空腹で乱入して来るまで続いた。
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