33
リットたちはガラの悪い男の前に立つと、笑みを浮かべながら声をかけた。
詳しい事情はわからないが、子供のしたことにいちいち目くじら立てることないじゃないかと、にこやかに
ガラの悪い男は、関係のないリットたちが入ってきたことでその顔を強張らせていた。
「お前らどこのもんだ? 俺が誰か知ってて喧嘩売ってんのかよ」
「喧嘩なんて売ってないよ。お行儀よくやめてあげてって言ってるだけ。ねえ、ガーベラ?」
「ああ、子供相手に
「ダサいよな。同じ男として見てられないよ」
男の怒りはリットたちに向けられ始める。
ファクトはその間に、怯えている子供にこの場から去るように声をかけて帰らせていた。
子供は不安そうにしながらも、礼を言ってこの場から去っていく。
ガラの悪い男は子供を追いかけようとしたが、ガーベラが男の前に立ちふさがる。
無言でただ男を
「なんなんだよお前! よそもんがいい気になってるんじゃねぇぞ!」
「いい気になってるのはお前だろう。だいたい真昼間からこんな道の真ん中で、しかも子供に絡むなど、大人として恥ずかしいと思わないのか」
ガーベラが男と睨み合っていると、周囲からこれまたガラの悪そうな男たちが集まってきた。
その手にはナイフや
シャーリンからあれだけ揉め事を起こすなと言われたのに、今にも喧嘩が始まりそうだ。
ここは王国の中心に近い街だというのに、この治安の悪さはどうなっているのか。
国の役人や治安維持組織は何をやっている。
ファクトはそう思うと、ため息をつきながら皆に言う。
「おい、子供はもう帰した。オレたちも逃げるぞ」
「えッ? なんでよ?」
リットがそう返事をすると、ガーベラも同意する。
「非はこいつらにある。それに、手を出されてからやり返せば正当防衛になるだろう」
「心配ないって。秒殺すれば役人とか警備兵が来る前に終わるよ」
フリーも彼女たちと同じく、ガラの悪い男たちとやり合う気満々だ。
ファクトはそういうことが言いたいわけではないと思いながら、もう事態が収まらないと腹を
彼としては別に連中と揉めることは怖くないのだが、後々シャーリンに何を言われるかと考えると、気が気ではいられない。
子供を助けられたことはよかったが、割を食うのはどう転んでも自分たちだ。
進んで
ガラの悪そうな男たちの数は十人以上。
リットたちは圧倒的に不利な状況だが、それでも四人に怯えた様子はない。
こんなことくらいでビビるような者たちではない。
なにせ彼ら彼女らは、お尋ね者であるメロウ·リフレイロードの弟分妹分を名乗っているのだ。
これから国を相手に騒ぎを起こそうとしているのに、街のゴロツキ程度に
「ふざけやがって! なにが秒殺だ! おい、やっちまえ!」
ガラの悪そうな男たちが一斉にかかってきたが、ガーベラが
その一撃は男たちの剣や身に付けていた皮の鎧を砕き、周囲にいた者たちから歓声が上がる。
リットとファクトも彼女に続こうとしたが、フリーはニ人を止めて
「湧き上がる炎の障壁よ。吹き抜けたる風よ。我が前に現れ、そして荒れ狂え」
通りに炎の壁が出現し、それが激しい風と共に囲んでいた男たちへと降り注いだ。
属性の違う二つの魔法を同時に放ったことに驚愕し、男たちは地面に転がりながら完全に戦意を喪失していた。
こいつは役者が違うとでも今にも言いそうな表情で、地べたに這いつくばりながら下がり始めている。
「よーし! 次はあたしの番だよ! ぐえ!?」
「この辺でいいだろう。見てみろ。見回りの兵がこっちに来てんぞ」
ファクトはリットの首根っこを掴んで止めると、ガーベラがすぐさま彼の意図を察して動き出す。
彼女はリットを強引に担ぐと、ファクトとフリーと共に走り出した。
走り去っていく四人に向かって、周りにいた者たちが声を張り上げていた。
おそらくガラの悪そうな男たちは街での評判が悪かったのだろう。
スカッとした表情で誰もが嬉しそうにしている。
「ちょっと離してよ、ガーベラ!? あたしまだ何もやってないよ!」
「もう時間切れだ。さすがに見回りの兵を倒すわけにもいかんしな」
納得がいかないリットは喚き続けたが、ガーベラが彼女の言葉を聞くことはなかった。
大通りを抜けて路地へと入って逃げる四人。
細い道に入って追っ手をまこうとしたが、知らない街の道などわからないため、ただ考えなしに走るだけだった。
このままシャーリンのいるスラム街へと向かいたいところだが、兵たちに追われている状況ではさすがに不味い。
追っ手の数は振り返るたびに増えている。
もし進んだ道に行き止まりがあったら捕まってしまうと、ファクトが表情を歪めていると――。
「こっちです! 次に見えた穴に入ってください」
どこからか女の声が聞こえ、四人は言われるがまま指示に
声のする方向には穴の開いた岩壁があり、ちょうど曲がり角に入ったところにあったので穴に飛び込む。
追っ手は気がつかずに通り過ぎていく。
四人は、声を聞いた瞬間に誰のものなのかがわかっていた。
だからこそ姿も見えない相手の言うとおりにしたのだ。
そして、飛び込んだ先にいたのは――。
「メロウ姉さん!」
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