32
――シャーリンに連れられてネイルといた町を出たリットたち四人は、とある貿易都市へと来ていた。
町からは一週間もかかり、馬車での移動でクタクタになっていたが、彼女たちはようやくメロウと会えることに
屋台が並び、活気のある街並みもあったのだろう。
街を歩く誰もが笑顔でおり、さらにめずらしい物が売っているのもあって、四人は今にも馬車から飛び出して行きそうだった。
「そんなに見たいなら行っていいよ」
「本当にいいの!? 大姉さん!」
シャーリンの一言にリットがパッと顔を明るくすると、彼女は「ただし」と言葉を付け加えた。
この貿易都市は、リフレイロード王国の中心に近い場所にある。
そのため、これまで通ってきた町や
もしこの街で揉め事を起こしたら、そんな連中がすぐに集まってきて、あっという間に捕らえられて牢屋行きになってしまう。
シャーリンの忠告に聞き、フリーがからかうように笑う。
「でも、やってみなきゃわかんないでしょ。大姉さんだって、ボクらの実力を全部知ってるわけじゃないんだからさ」
「わかってないねぇ。ここはもう国の
フリーは不服そうにしながらも、シャーリンにもう言い返さなかった。
それは、戦争の結果が兵士の数で勝敗が決まるように。
今の自分たちでは、王国の兵士に
「辺境じゃ泣く子も黙る
「わかったよ。じゃあ、ちょっと見てくるね」
リットはシャーリンの話を聞くと、いつもの軽い調子で返事をすると馬車から飛び降りた。
彼女は石畳の地面に着地すると、仲間たちに早く見に行こうと手を振っている。
しょうがないなといった様子で、ガーベラとフリーも馬車を降り、リットの後に続いた。
ファクトはシャーリンのほうを見て、大姉さんたちは街のどこに向かっているかと訊ねる。
「街の外れに労働者の居住区がある。まあ、スラム街だよ。そこにいるから適当に楽しんだら来な」
「ああ。でも、本当にいいのか、オレら行っちまってさ。あいつら、大姉さんに釘刺されててもぜってぇになんかやらかすぞ」
「息抜きも大事だからね。それに忠告はしたんだ。問題を起こせば自分たちがいけないことをしたって、自覚しやすいでしょう」
「罪悪感をコントロールしようってのか……。怖い人だな、あんたは……」
「そいつは褒め言葉として受け取っておこうか。それにしてもあいつら、あんたが場所を訊かなかったら、一体どうやって私らと合流するつもりだったのかね」
「考えてねぇだろうな……。まあ、そいつがオレの役回りだよ」
ファクトは乾いた笑みを浮かべながら馬車を飛び降り、手を振っているリットたちのもとへと走っていった。
シャーリンは離れていく彼ら彼女らのことを、暗い表情で眺めている。
何もなければいいが、と。
リットたちは
貿易都市グルメに
屋台の並んでいた通りを抜けると武器屋が目に入り、リットたちは外にあった
「ねえ、魔法剣って槍とか斧にもできるのかな? でもそれだと魔法槍? 魔法斧?」
「原理は一緒じゃないのか? たしかにそんな呼ばれ方は聞いたことないが、メロウ姉さんなら知っているかもな」
リットとガーベラが武器を手に取ってそんな話をしてると、何やら店の前で騒ぎが起こっているのが目に入った。
小さな子供がガラの悪そうな男たちに絡まれている。
周囲にいた者たちの会話から、どうやら子供が男にぶつかってしまい、服が汚れたとかなんとかで揉めているようだった。
リット、フリー、ガーベラの三人は、その様子を見て身を乗り出そうとする。
「おいおいお前ら!? 何をするつもりだよ!? 大姉さんから大人しくしているように言われてんだろ!?」
ファクトが慌てて止めると、彼女たちはニッコリと笑顔を返す。
「大丈夫だよ。ちゃんと大姉さんに言われたように、お行儀よくするから」
「別に
「それに、子供が困ってるのを放っておけないじゃん」
リット、ガーベラ、フリーは順々にそう言うと、ファクトが止めるのも聞かずに子供と男の前へと行ってしまう。
やはりこうなるかとファクトは頭を抱えたが、彼はため息をつきながらもすぐに三人の後を追いかけた。
その顔は、自分はたしかに止めたぞと言いたそうだった。
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