27
吠えたリットは間合いを詰めると、強引に剣で押し返す。
体ごとぶつかっていったのもあって、これにはネイルも下がらされた。
互いに距離ができ、リットの剣に再び魔力が集まり始めるが、ネイルはそれを打たせない。
二本の剣がそれを許さない。
再び同じ構図となり、周りから見たらリットは死ぬまで反撃できないように見えた。
ネイルが本気で彼女を倒すつもりならば、すでに決着はついていると言っていい。
攻撃する度に声をかけず、ときおり入れるフェイントを教えなければ、リットはとっくにやられている。
「模擬戦……。これはあいつのための訓練だったんだな」
ガーベラがニ人の戦いを見ていて、ネイルの真意をつかんだ。
ネイルは最初から
おそらく彼には、フリー、ガーベラ、ファクト三人に比べて彼女が
これから
いや、メロウ·リフレイロードの傍にいたいというにはあまりにも非力だと思い、わざわざこんな戦いの場を設けたのだと、ガーベラは思った。
その証拠に、打ち合いの中でリットは、ネイルの双剣に対応できるようになっていた。
不規則に飛んでくる二本の剣を見据え、次第に打ち返し始めている。
これは、このままネイルが手を抜き続けていれば、勝てる可能性があるかもしれないと思わせる流れになっていた。
「ようやく返してきやがったな! でもよぉ、ちまちまよぉー! 腰の入ってねぇ打ち込み返したって意味ねぇぇぇんだよッ!」
言葉だけ聞けば、誰でも嫌悪感を覚えずにはいられない喋り方。
しかもネイルは、人相もかなり悪い。
歯がノコギリのようにギザギザしているのも、悪人面に
だが、それでもフリー、ガーベラ、ファクト三人は、この戦いを通して理解した。
ネイルはこの町で、ギルドに入った新人をずっと鍛えてきたのだ。
弱い者では
その厳しさを、先輩の後輩いびりの形で、実に丁寧に戦い方を教えている。
ガーディとトリッキーもそうだったのだろう。
ニ人とも、流刑島パノプティコンにいたときよりも強くなっていた。
言うなれば、ネイルは
門番として、ギルドで生き残れる人間になるまで相手をする――それが彼という男なのだと。
「一芸だけでやっていけるほど、甘い世界じゃねぇんだよ、ここは!」
ネイルは反撃してきたリットの一撃を二本の剣で受けると、蹴りを放って彼女を吹き飛ばした。
そして、右手に持った剣をリットに突きつける。
「試しによぉ、打ってみろよぉ!」
「へッ? でも、あたしの魔法剣が怖かったから、反撃させないようにしてたんでしょ?」
「ちげぇーしビビってねぇ! テメェは察しが悪いつーか、本当に
不可解そうに訊き返したリットに声を張り上げ、ネイルは二本の剣を構える。
よくわかってなさそうなリットだったが、まあいいかと言いたそうに表情を戻すと、握っていた剣を強く
剣に彼女の魔力が宿り、次第に光を放っていく。
以前は本人もやり方をわかっていなかった魔法剣だったが、リットはネイルとの戦いで感覚を
「本気でいくよ! というか力加減なんてできないから!」
「テメェらしいつーか、最初っからそんなことできると思ってねぇ!」
ネイルは、二本の剣を重ねて身構えた。
そこへ、魔力で輝き出した剣を握ったリットが飛び込んでくる。
振り上げられたリットの剣が、二本の剣に向かって落とされた。
その凄まじい衝撃によって、訓練場にあった物が次々に吹き飛び、見学していた仲間たちや
「どうなった!? リットとネイルは!?」
衝撃が止んでフリーが声をあげると、皆の視線が訓練場の中央へと向けられた。
そこには、粉々に砕け散ったネイルの双剣と、魔力で燃え尽きたリットの剣が見えた。
二本の剣は魔法剣の威力で破壊され、そして彼女の剣もまた魔力には耐えられなかったようだ。
見たこともない光景に、その場にいた誰もが言葉を失っていた。
訓練場を
「うそ……だって包丁のときは大丈夫だったのに……?」
「そりゃテメェの魔力がしっかり剣に宿ってるってことだろうが。納得できねぇんならもう一発打ってこいよぉ。まあ、どうせまた燃え尽きちまうだろうけどなぁ」
「今度は大丈夫だもん。……たぶん」
「自信ねぇんなら大丈夫とか言ってんじゃねぇぞ! いちいちムカつくんだよ、テメェはよぉッ!」
ネイルは声を荒げると、
声をかけられた面々はハッと我に返ると、慌てて武器を取り出し始める。
フリー、ガーベラ、ファクト三人は、リットが本当に魔法剣が使えたことや、模擬戦が安全なものだったことに、今さらながら安心していた。
だが、緩んだ表情でいた三人だったが、突然、訓練場に聞こえてきた声を聞くとなぜだか
その声の主は――。
「そこまでにしようか、ネイル。遠くから見てたけど、いいね、魔法剣」
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