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吠えたリットは間合いを詰めると、強引に剣で押し返す。


体ごとぶつかっていったのもあって、これにはネイルも下がらされた。


互いに距離ができ、リットの剣に再び魔力が集まり始めるが、ネイルはそれを打たせない。


二本の剣がそれを許さない。


再び同じ構図となり、周りから見たらリットは死ぬまで反撃できないように見えた。


ネイルが本気で彼女を倒すつもりならば、すでに決着はついていると言っていい。


攻撃する度に声をかけず、ときおり入れるフェイントを教えなければ、リットはとっくにやられている。


「模擬戦……。これはあいつのための訓練だったんだな」


ガーベラがニ人の戦いを見ていて、ネイルの真意をつかんだ。


ネイルは最初からためすというよりは、リットをきたえるために模擬戦を提案したのだ。


おそらく彼には、フリー、ガーベラ、ファクト三人に比べて彼女がおとっているように見えたのだろう。


これから盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフでやっていくには力不足――。


いや、メロウ·リフレイロードの傍にいたいというにはあまりにも非力だと思い、わざわざこんな戦いの場を設けたのだと、ガーベラは思った。


その証拠に、打ち合いの中でリットは、ネイルの双剣に対応できるようになっていた。


不規則に飛んでくる二本の剣を見据え、次第に打ち返し始めている。


これは、このままネイルが手を抜き続けていれば、勝てる可能性があるかもしれないと思わせる流れになっていた。


「ようやく返してきやがったな! でもよぉ、ちまちまよぉー! 腰の入ってねぇ打ち込み返したって意味ねぇぇぇんだよッ!」


言葉だけ聞けば、誰でも嫌悪感を覚えずにはいられない喋り方。


しかもネイルは、人相もかなり悪い。


歯がノコギリのようにギザギザしているのも、悪人面に拍車はくしゃがかかっている。


だが、それでもフリー、ガーベラ、ファクト三人は、この戦いを通して理解した。


ネイルはこの町で、ギルドに入った新人をずっと鍛えてきたのだ。


弱い者では盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフに入っても生き残ってはいけない。


その厳しさを、先輩の後輩いびりの形で、実に丁寧に戦い方を教えている。


ガーディとトリッキーもそうだったのだろう。


ニ人とも、流刑島パノプティコンにいたときよりも強くなっていた。


言うなれば、ネイルは盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの登竜門。


門番として、ギルドで生き残れる人間になるまで相手をする――それが彼という男なのだと。


「一芸だけでやっていけるほど、甘い世界じゃねぇんだよ、ここは!」


ネイルは反撃してきたリットの一撃を二本の剣で受けると、蹴りを放って彼女を吹き飛ばした。


そして、右手に持った剣をリットに突きつける。


「試しによぉ、打ってみろよぉ!」


「へッ? でも、あたしの魔法剣が怖かったから、反撃させないようにしてたんでしょ?」


「ちげぇーしビビってねぇ! テメェは察しが悪いつーか、本当ににぶいな……。いいからやってみろよ、自慢の魔法剣をよぉぉぉッ!」


不可解そうに訊き返したリットに声を張り上げ、ネイルは二本の剣を構える。


よくわかってなさそうなリットだったが、まあいいかと言いたそうに表情を戻すと、握っていた剣を強くにぎった。


剣に彼女の魔力が宿り、次第に光を放っていく。


以前は本人もやり方をわかっていなかった魔法剣だったが、リットはネイルとの戦いで感覚をつかめたようだ。


「本気でいくよ! というか力加減なんてできないから!」


「テメェらしいつーか、最初っからそんなことできると思ってねぇ!」


ネイルは、二本の剣を重ねて身構えた。


そこへ、魔力で輝き出した剣を握ったリットが飛び込んでくる。


振り上げられたリットの剣が、二本の剣に向かって落とされた。


その凄まじい衝撃によって、訓練場にあった物が次々に吹き飛び、見学していた仲間たちや盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの面々もその身を固めていた。


「どうなった!? リットとネイルは!?」


衝撃が止んでフリーが声をあげると、皆の視線が訓練場の中央へと向けられた。


そこには、粉々に砕け散ったネイルの双剣と、魔力で燃え尽きたリットの剣が見えた。


二本の剣は魔法剣の威力で破壊され、そして彼女の剣もまた魔力には耐えられなかったようだ。


見たこともない光景に、その場にいた誰もが言葉を失っていた。


訓練場を静寂せいじゃくつつむと、リットが弱々しい声を出す。


「うそ……だって包丁のときは大丈夫だったのに……?」


「そりゃテメェの魔力がしっかり剣に宿ってるってことだろうが。納得できねぇんならもう一発打ってこいよぉ。まあ、どうせまた燃え尽きちまうだろうけどなぁ」


「今度は大丈夫だもん。……たぶん」


「自信ねぇんなら大丈夫とか言ってんじゃねぇぞ! いちいちムカつくんだよ、テメェはよぉッ!」


ネイルは声を荒げると、盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの面々に新しい剣を用意するように声をかけた。


声をかけられた面々はハッと我に返ると、慌てて武器を取り出し始める。


フリー、ガーベラ、ファクト三人は、リットが本当に魔法剣が使えたことや、模擬戦が安全なものだったことに、今さらながら安心していた。


だが、緩んだ表情でいた三人だったが、突然、訓練場に聞こえてきた声を聞くとなぜだか悪寒おかんが走った。


その声の主は――。


「そこまでにしようか、ネイル。遠くから見てたけど、いいね、魔法剣」


盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの幹部――シャーリンだった。

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