28
シャーリンが訓練場に現れると、他の者らが彼女のもとへと集まっていく。
騎士団などとは違って上下関係が
皆、シャーリンに敬語も使わずにまるで友人のように声をかけていた。
ネイルだけが特別かと思われたが、どうやら彼女は自分の部下には好きにさせているようだった。
笑顔で挨拶を交わしているシャーリンと仲間たち。
その光景を見たネイルは、もう模擬戦は続けられないと思って、目の前にいたリットに声をかけようとしたが――。
「あぁぁぁッ! あんたあのときのターバン女ッ!?」
彼女はシャーリンを見つけるや
以前のことをまだ根に持っていたのだろう。
リットはシャーリンに気絶させられてこの町に連れて来られたことを思い出し、ネイルがそんなこともあったなと頭を抱える。
食いつかんばかりの
「ちょっとガーベラ!? なんで邪魔すんの!?」
それは仲間のガーベラだった。
ガーベラは結んでいる金色の髪を揺らすと、リットを無視してシャーリンの前へと歩いていく。
リットは、そんな彼女を
シャーリンに用があるのは自分だと、ガーベラを背中から押さえつけようとする。
しかし突然、左右から手を取られ、逆に押さえつけられてしまった。
「はい、ストップ」
「ここはあいつに
彼女を押さえつけたのはフリーとファクトだった。
三人はシャーリンに訊きたいことがあった。
そこで、ガーベラが彼らの代表になったようだ。
リットには悪いが個人的なことよりも、今はこっちを優先させてもらうと、ニ人は言った。
「ならあたしがターバン女に訊いてあげるから!」
「お前だと話にならねぇだろ」
「ボクもそう思う。まあ、ガーベラもちょっと怪しいけどなぁ……」
ファクトは自分が訊ねてやるというリットに釘を刺し、フリーが同意しながらも不安になるようなことを口にした。
自分が訊くと言って聞かなかったのはガーベラも同じだが、ファクトもフリーもリットよりはまだマシくらいの感覚だ。
どうもうちの女たちは(当然メロウも)、喧嘩っぱやいところがある。
フリーとしては口と頭が回るファクトが向いていると思ったが、ガーベラの頑固さは仲間内で一番。
言い出したら聞かない連中の中でもナンバーワンであるため、彼女に
「お初にお目にかかる。私はガーベラ。まずはパノプティコンから出してもらったことの礼を言いたい」
ガーベラは仲間たちと談笑していたシャーリンに挨拶すると、
流刑島パノプティコンから出せてもらえた理由も。
この町へ連れて来られた事情も。
すべて先ほどネイルから聞いたばかりというのもあってか、訊ねたいことがあるというのに慎重な声のかけ方だ。
「あんたがガーベラか。なるほど。聞いていたとおり礼儀正しい子みたいね」
「失礼だが、その話はメロウ姉さんから聞いたのか?」
シャーリンはコクッと
それに気がついたネイルは、彼女に向かってその
何かの合図なのか。
ネイルの笑みを見たシャーリンが、その場にいる全員を見回していた。
「失礼ついでに、いろいろと訊きたいことがあるんだが」
「あとでいいかい? ちょっと今は忙しくてね」
「悪いが、力づくでも話してもらうぞ」
ガーベラは礼儀正しい態度こそ変わらなかったが、威圧するようにシャーリンに詰め寄った。
そんな彼女を見たフリーは、あんぐりと口を開けていた。
その顔は、やはりこうなったかとでも言いたそうだ。
訓練場の空気が変わる。
シャーリンを囲んでいた
助けられたくせに、なんだその態度はと言いたいのだろう。
間違ってはいないし、そう思うのも当然だ。
だが、ガーベラ――いや、彼女だけではない。
流刑島にいた四人には、たとえ礼儀に反しても
「メロウ姉さんは、今どこにいる?」
そう――。
それは、彼ら彼女らにとっての恩人であるメロウ·リフレイロードだ。
本来ならば止めるべきだとフリーもファクトもわかっているが、この場で乱闘になってでも、メロウの居場所を知りたかった。
訓練場にいた面々が武器を手に握り始めた。
一方でガーベラは全く動じずにシャーリンを見据え、フリーとファクトも彼女の背中を守るように立つ。
もちろんリットもニ人に掴まれたままで、四人はシャーリンの仲間たちに囲まれる形になった。
「バカが……。シャーリンに
そんな訓練場でネイルだけは、頭を抱えたままだった。
彼としては、メロウの仲間であるリットたちに関して考えがあったのだろう。
しかし、シャーリンの登場やガーベラの態度で、ネイルの計画はすべて
「まあ待てよテメェら! 今のは喧嘩を売ったうちに入らねぇって!」
ネイルは、意を決して皆に向かって声を張り上げた。
彼の声からは、この場をなんとか収めようとする必死さが伝わる、そんな
「そいつらが姉さんって呼ぶメロウ·リフレイロードは、シャーリンの妹分だ! 身内の態度が悪いくらい気にすることじゃねぇだろ!?」
「ネイルの言うとおりだよ。こいつらはもう私たちの身内なんだ。多少のことは兄弟喧嘩だと思って許してやろうじゃないか」
ネイルに続いて、シャーリンも皆に落ち着くように声をかけた。
そのおかげか、誰もが武器を収めていく。
これで一安心。
少なくともフリーとファクトはそう思った。
とりあえずこの場が落ち着いてから、改めてシャーリンに話を訊くかとニ人は思っていたが――。
「では、シャーリンの大姉さん。兄弟喧嘩ついでに私と一つ模擬戦をしてもらえないでしょうか?」
ガーベラはいきなり、シャーリンと試合をしたいと言い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます