26

訓練場の中央で、今か今かと相手を待っているリット。


周囲を見回しながらどんな人物と戦うのかと、彼女は落ち着きなく動いていた。


ネイルはそんな彼女の前に立つと、背負っていた二本の剣を抜く。


「あれ? もしかしてあたしの戦う人ってネイルなの?」


「そうだ。俺がよぉ、テメェが自信満々で語ってる魔法剣ってやつをためしてやる」


小首をかしげているリットと対峙したネイルは、握っていた二本の剣を構えた。


ファクトがやはりそうかと両目を見開いていると、フリーとガーベラは彼に声をかけた。


リットのことをよくわかっていそうなネイルが相手ならば、ケガをするような模擬戦にはならないのではないか。


むしろ他の盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフのメンバーよりも安心できると、ニ人はなぜそんなにあわてているんだと不思議そうにしている。


「ネイルは口調こそチンピラのようだが、見ただけで場数を踏んだ剣士だとわかるほど、強者の風格がある奴だ。手加減してくれるだろう」


「ボクもそう思うよ。というかファクト。そんな奴があのリット相手に本気で戦うとでも思ってるの?」


これまでの流れを見る限り、ネイルは最初からリットと戦おうとしていたように感じる。


何も心配はいらない。


軽く打ち合ってリットの実力を見極めるくらいだろう。


そう言ったフリーとガーベラの言葉を聞いても、ファクトの気持ちは変わらなかった。


もしニ人の言ったことが事実ならば、どうしてネイルは真剣を使うのだ。


軽く打ち合うだけならば木剣で十分のはずだ。


あの沸点が低い男は、きっと何かを考えてる。


ファクトはそう思わずにはいられなかった。


「お前らの言うとおりならいいんだけどな……」


リットはネイルに対して、ようやく剣を構えた。


互いに武器を持って向かい合うと、彼に声をかける。


「双剣術って初めて見るよ。あたしも試しに強そうだからやろうとしたんだけど、でもメロウ姉さんに止められたんだ。かなり難しいんでしょ?」


リットが言ったように、双剣術には技術と上達の難易度がある。


まず当然だが、双剣術は基本的にかなり高い腕の筋力と握力、さらに持久力を必要とするが、これは筋力の問題で鍛えれば誰でも解決することが可能だ。


だいたい双剣を始めようとする者でもここはクリアできる。


実際に両手で武器を使えば二つの武器が変則的に動くため、非常に有利であると思いがちである。


だが、事実は真逆で、余程の熟練者以外の攻撃は単調になる場合が多い。


さらに両手に二本の剣を持つ際には、ある問題がしょうじる。


それは二つの剣が長いと、もつれあってしまうというものだ。


メロウは、だからこそ不器用なリットに双剣は向かないと、彼女にやめるように言ったのだった。


「まあ、テメェに向いてねぇことはたしかだろうなぁ」


ネイルはそのとがった歯を見せ、リットへと斬りかかった。


片刃の剣による二連撃がうなり、なんとかふせいだリットが下がらされる。


速い、速すぎる。


それに今の攻撃は、わざと剣で受けれるように打ってきていた。


もし死角から打たれた攻撃だったら、あっという間に打ち倒されてしまっていただろう。


リットはゴクッとつばを飲み込むと、ネイルと同じように口角を上げ、白い歯を見せた。


冷や汗をきながらも楽しんでいる――そんな彼女を見て、ネイルは笑いながらも顔を強張らす。


「冷や汗を掻いてんのはよぉー。よくわかる、スゲーよくわかる。知らねぇ攻撃ってのは相手が格下に見えてもこえーからなぁ……。だがなんで笑ってんだテメェはぁぁぁッ!? こえーくせにどうして笑えんだよ! 狂ってんのかテメェはムカつくぜぇッ! こえーのに笑えるなんて人格がぶっ壊れるってことじゃねぇか!? そんなイカれた奴に守りてぇもんが守れんのかよッチクショーがッ!」


尖ったをむき出しにして声を荒げたネイル。


しかし、激高げきこうしているはずなのに。


なぜかリットには、彼が楽しんでいるように見えた。


「リットの剣に魔力が……」


戦いを見ていたフリーから思わず声がれた。


実際に見るまでは信じていなかった三人は、リットの剣から魔力が放たれ出したことに驚いていると、ネイルが再び斬りかかる。


止まらぬ二本の剣。


凄まじい斬撃が襲う。


リットは受けるのが精一杯で反撃できる余裕はなさそうだ。


「マジで魔法剣が使えたのか、あいつ……。これならなんとかなるかもしれねぇ」


「だが、それでも技術が足りない。実戦経験も大人と子どもくらいの差がある。一撃の威力ならリットが勝っていてもあれでは……」


ファクトとガーベラは声を交わしながら思う。


くまはちの大群にやられるように、いくら強力な技があっても意味がない。


当てられない。


放つすきもない。


これでどうやって勝つ?


「ずっと同じ構えでいんじゃねぇぞコラ! 上下左右に振ってこその双剣だ! 死にたくなかったらしっかり防いで反撃してきやがれ!」


声を張り上げながら、ネイルは剣を振り続けている。


言ったとおりに上段、中段、下段と打ち分け、加えて左右からも打ってくる。


止まらぬ斬撃に、次第に防ぐのも厳しくなってきたリットに、ネイルの剣がかすり始めていた。


赤い血が訓練場の土を染める。


ポタポタと垂れ、防戦一方のリットの呼吸も荒くなっていた。


それでも彼女の笑みは消えない。


「言われたように、そろそろあたしも反撃するよ!」

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