08
鐘の音を聞いたリットたちは、野菜の仕分けをする工場に来ていた。
そこには他の囚人たちの姿もあり、誰もが時間も時間なだけにあくびを
工場は何か報告があるときにも使用されているため、この流刑島パノプティコンに住む囚人たち全員が入れるほど広い。
集った囚人たちが前を見ると、壇上に立つ魔導機兵らと並んでいる、知らない男の姿が目に入った。
「私は、リフレイロード王国の治安維持組織アナザー·シーズニングをまとめている、マスタード·オルランドという者だ」
国の治安維持のリーダーが流刑島に何の用だ。
その場いたほとんどの囚人たちがそう思い、早く帰って寝かせてくれと内心で
マスタードは自分が歓迎されていないことなどわかりきっていたが、それでも熱っぽく話を続けた。
「こんな時間に呼び出してしまって申し訳ないと思っている。明日も早くから仕事だろうが、少しの間だけでいい。俺の話を聞いてくれ」
いいからさっさと話せ。
囚人たちは回りくどいマスタードに苛立ちながらも、何も言わなかった。
当然囚人という立場もあるが、変に言い返せばもっと話が長くなると思ったからだ。
それからマスタードはこの場にいる者たちへの謝罪の言葉と、囚人にも敬意を持っていると長々と話した。
彼なりに囚人たちに気を遣っているのだろうが、呼び出された当人たちからすればたまったものではない。
「いつ……始まるんだろ……」
「あぁ……。最初からだったが、ますます嫌になってきたな……」
リットとフリーがうんざりしている横で、ガーベラは背筋を伸ばして聞き入っていた。
コクコクと相づちを打ち、ときには感心した表情を見せている。
この場でマスタードの話を真剣に聞いてるのは彼女だけだった。
真剣なガーベラを見たリットとフリーは、騎士または騎士を目指そうとしている人間は、長話が当たり前なのかと
「今日、俺がこの島に来たのは、とある人物を見つけるためだ」
そして、長い前口上が終わり、マスタードはようやく本題の話を始めた。
だが、やっと始まったかと思う気力も、囚人たちからは全く感じられなかった。
まるで休まずに働かされた奴隷のような顔で、どうでもよさそうに
そんなことなど気にせずに、マスタードは話を続ける。
「この場にいるかもしれないが、あえて言おう。俺はその人物を殺すように命じられてきた」
これまでつまらない話に立ったまま眠りかけていたリットとフリーだったが、物騒な内容を聞いて目がさえた。
それは他の囚人たちも同じで、静まり返っていた工場内がざわつき出している。
その人物とは誰だ?
いや、そんなことよりも国に仕えている治安維持組織の人間が、なぜそんなことを囚人たちに話した?
次第にざわつく声が大きくなると、数体の魔導機兵が動き、囚人たちへ静かにするように
「俺はその人物を殺す前に、どうしてもその人物と話をしなければならないのだ」
マスタードは、肝心なところを隠しながら語り続けた。
殺す人物にこちらの想いを伝え、すべては国のためだと知ってもらいたい。
そのための
「俺は、ここにいる者たちにも知っていてもらいたいのだ。かつて国を守るために、犠牲になった者がいるということを」
殺すという言葉でざわついていた囚人たちだったが、すぐにまた長話が始まると、興味を失っていた。
それはリットも同じで、そのとある人物のことを気の毒に思いながらも、彼女の目は半開きになっている。
「おい、リット! そんな顔してる場合じゃないぞ!」
フリーのけたたましい声にビクッと目を見開いたリットは、どうしてだと不可解そうな顔を彼に向けた。
すると、横にいたガーベラが彼女の肩に手を回し、顔を近づけてくる。
「ニ人ともどうしたのさ? いきなりそんなに真剣な顔をして。たしかにかわいそうだとは思うけど」
「まだわからないのか、リット。わざわざ治安維持組織の指揮官が任務遂行に来ているんだぞ。そんな大層な人物なんて、この島に一人しかいないだろうが」
「大層な人物? えッ!? もしかして姉さ――ッ!?」
ガーベラとフリーは、大声を出そうとしたリットの口を慌てて
騒いだことで、自分たちがメロウと親しいと気付かれたら面倒なことになると、ニ人は彼女に小声で伝えた。
この流刑島パノプティコンで、メロウがリフレイロードの王位第ニ継承者であることを知る囚人は意外と多いかもしれない。
だがそれでもしらを切って、自分たちは知らなかったことにしておこうと、フリーが提案した。
話を理解したリットは、今になって青ざめる。
あの善良そうな治安維持組織のリーダーは、姉さんを、メロウ·リフレイロードを殺しにパノプティコンへ来たのだと、その身を震わせている。
彼女が恐怖を覚えていると、ハッとあることに気がついた。
「ねえニ人とも、メロウ姉さんとファクトって、今どこにいるの……?」
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