03
――メロウたち五人が送られた流刑島の名はパノプティコン。
島には魔力により自動で動く魔導機兵がおり、囚人は常に監視されている。
囚人には最低限の住居である家が提供されるため、寝る場所には困らない。
家には五人で一組。
朝から陽が落ちるまで、決まった時間と内容の労働をする。
仕事の時間さえ終われば、後は自由になっている。
最低限のルールは“島から抜け出さない”ことで、特に厳しい決まりは設けられてはいない(だが、囚人同士の揉め事や、集団で独りの人間を攻撃したときは罰を与える)。
囚人たちの仕事は、主に農作業や取れた野菜を食品工場でまとめることなどで、自分たちの食料は自給自足で
この島には囚人たち以外に人間はいないが、定期的にやってくる。
それは、魔導機兵の魔力供給や取れた野菜を回収するためである。
パノプティコンにやって来てからひと月――。
メロウたちは今日も他の囚人たちと共に、畑仕事や工場で野菜をまとめて荷車に乗せる作業をしていた。
「はぁ、ダルいなぁ。なんでボクが農作業なんだよぉ。体格的にどう見てもおかしいだろ」
「文句をいう
「姉さんは普通じゃないんだから比べないでくれよぉ。ったく、リットとファクトはいいよなぁ。工場の仕事でさぁ」
フリーがうんざりした様子で
彼女は口にしてこそしていないが。
その顔からして、男のくせにだらしないとでも言いたそうだった。
一方でメロウは、そんなニ人のことを少し離れた場所から見て微笑んでいる。
今日の作業は、メロウとフリー、ガーベラが野菜の収穫。
リットとファクトは工場で採れた野菜を仕分けし、木箱に詰める仕事だった。
好みはあるが、屋内での作業である仕分け仕事のほうが囚人たちには人気があった。
外の仕事を単純に挙げると、草刈り、
それとごく
しかし、ガーベラのように、それを鍛錬と思えればこれほど良い環境もない。
パノプティコンに来た囚人の多くが貧困層というのもあって、朝昼晩と食事が出て、雨風がしのげる住居があるだけでも天国だった。
もちろん中には娯楽のない島にうんざりし(魔導機兵の待機場に図書室はあるが)、まるで兵士のような規則正しい生活を
口では不満を言っているフリーだが、彼はそれなりにここでの生活を気に入っていた。
その一番の理由は、同じ屋根の下で暮らす人間に恵まれたことだった。
メロウとは最初こそ揉めたが、今ではフリーをはじめ、ガーベラもリットも彼女のことを慕っている。
同じ家に住むファクトだけは、今でもひとりで本を読んでいることが多いが、それでも必ず食事の時間には顔を出して会話をしているので、なんだかんだいって馴染んでいた。
特にリットは家族がいない、孤児院の出身だ。
そんな生まれというのもあってか、リットは誰よりも仲間ができたことを嬉しく思っていた。
「やっと仕事が終わったのに、よく体を動かす気になるな」
一日の仕事が終わり、メロウたちは家へと戻っていた。
今日はリットとファクトが食事当番だったので、ガーベラは家の外で重りをつけた丸太を振っている。
右手で百回、左手で同じ数をこなし、疲れている体にさらに負荷を与えていく。
「そんなこと言わずに、お前も少しは鍛えたらどうだ? そうすればへばらないし、なによりも外の仕事も嫌じゃなくなるぞ」
「それはない! つーかボクには魔法があるしね。姉さんは通じなかったけど、これまでボクの魔法に
「それでも鍛えておいて損はないだろう。最後にものを言うのは体力なんだぞ。なあ、メロウ姉さん」
ガーベラの問いにメロウが笑みを返すと、フリーのほうは
この女は、脳みそまで筋肉でできているのか、はたまた真性のマゾヒストか。
綺麗な金色の髪に手足も長いのも、なんだかもったいない気がする――フリーはそう思っていた。
それでも、ガーベラは島に来てから毎日続けているので、彼女の根性は認めているので余計なことは言わない。
「よし、姉さん。頼むよ」
素振りを終えると、次はメロウとの練習だ。
互いに削った丸太で武器を作り、それを打ち合う。
メロウは木剣。
ガーベラのほうは
打ち合いとはいっても、当然、経験があるメロウにガーベラが戦い方を習っているという感じだ。
木のぶつかり合う音が響く中、家の中からリットが出てくる。
「ご飯できたよーって、あぁぁぁッ! ちょっとズルいよ、ガーベラ! 抜け駆けして! あたしだって姉さんに剣を習いたいのに!」
「別に抜け駆けなどしていないぞ。人聞きが悪いことを言うな」
「なにをー! 抜け駆けは抜け駆けでしょ! ガーベラ
「うるさいぞリット! それ以上
騒ぎ出したリットとガーベラが取っ組み合いを始めた。
それを慌てて止めに入るメロウとフリー。
さらにリットに続いて出てきたファクトが、呆れた顔でニ人を眺めていた。
「ありゃ長くなりそうだな。……料理、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます