04
――メロウたちの家は、どの囚人のグループよりも仲が良かった。
食事も掃除も当番を決めてやっているのは、彼女たちだけだ。
パノプティコンでのルールでは、問題さえ起こさなければ別に親しくする必要もないので、メロウたちは他の囚人たちから見て異物に見える。
「見てみろよ、あれ」
「また家族ごっこやってんのか。くだらねぇ」
元々罪を犯してこの島に来た者たちの集まりだ。
まるで家族のように接している彼女たちのことを、面白くないと思う人間も現れる。
特に島の外で人間の汚さを嫌というほど味わった者なら尚更。
笑みを交わし合うメロウたちを見て苛立っていた。
「それにしても、あの姉さんとか呼ばれている女、なんか見覚えがあるんだよな」
左のこめかみに深い切り傷があるの男――ガーディ。
左目だけが白く
「あの黒髪の女か。たしかメロウとか言ったか。どこぞの貴族なんだか知らねぇが、あの気取った態度も喋り方も
灰色の髪にどんよりとした青い目をしている男――トリッキーがそう言うと、ガーディは何か思い出したかのように目を見開く。
「メロウって……マジか」
「おい、どうしたガーディ? まさかお前、あの女のことを知ってんのか?」
「ああ、この国で生まれた奴なら誰でも知ってんよ、あの女のことはな」
ガーディは口角を上げると、トリッキーについて来るように言った。
彼の視線の先にあったのはメロウ。
そしてその視線は、仲良く話をしている彼女たちから、少し離れたところで本を読んでいるファクトへと移った。
「よう、ファクト。お前ら、ずいぶんとあの女に
ガーディはトリッキーをつれて、ファクトを呼び出していた。
どうして自分が呼び出されたのかわからないファクトは、どうでもよさそうに適当に
ガーディとトリッキーとは、同じ作業を数回ほど一緒にやった程度の仲だ。
こんなふうに、わざわざ仕事後に世間話をするような関係ではない。
「別に、普通だよ。お前らこそ仲いいよな。もしかしてできてんのか?」
「あん!? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
ファクトの相手を小馬鹿にするような態度に、トリッキーが声を荒げた。
それでもファクトの態度は変わらない。
こんな
ガーディは、身を乗り出したトリッキーを押さえると、嫌らしい笑みを浮かべて言う。
「なあ、お前らが大好きなあの女、メロウな。あれが何をして
「くだらねぇ。それが用事かよ。もう帰るぜ」
ふんっと鼻を鳴らしてその場を去ろうとしたファクトの背中に、ガーディは言葉を続ける。
「ありゃ親を殺したんだよ。しかもこの国の王様をな!」
――今夜はメロウが食事当番だった。
彼女は五人の中で一番料理が下手だったが、このところはかなり上達してきている。
図書室で何か料理関係の本でも読んだのもあったのだろう。
今ではこの島の中でも、メロウほど手の込んだ料理を作れる者はいなくなっていた。
「うわー! すっごくいい匂いがする! 姉さん、これなんて料理なんだ?」
リットが見たこともない料理を見て歓喜の声をあげていた。
今日の夕食は、手に入る食材と調味料からメロウがこしらえたウサギの肉料理や、じっくりと煮込んだ野菜のスープなどだ。
野菜スープは普段から食べているが、今夜の料理はひと味違うと、誰もが香りで理解していた。
テーブルに並べられた料理に今にも食らいつきそうなリット。
もう我慢できないといった様子の彼女に、部屋に入ってきたファクトが声をかける。
「リット、そんなもん食うなよ」
発した言葉もそうだったが、険しい顔をしたファクトを見てその場にいた誰もが驚きを隠せずにいた。
いきなり何を言うんだとリットたちが戸惑っていると、ファクトはメロウに向かって冷たい声を出す。
「全部話してくださいよ。あんたが自分の親を、国王を殺してこの国をメチャクチャにしたってことを」
ファクトの言葉で、その場がさらに凍り付いた。
リットたちはメロウが名乗ったときに、その姓を聞いて彼女が王族であることはわかっていた。
リフレイロードは自分たちの住んでいる国の名だ。
だが、彼女たちはそのことを追及せずにいた。
それは、メロウに気を遣っていたからだった。
王族の娘が流刑島に送られたのだ。
余程の事情があると。
しかも、それ以上にリットたちはメロウのことが好きだった。
彼女が王族だろうがなんだろうが、その気持ちに変わりはないと、誰もが思っていた。
「ファクト……。誰から聞いたんですか?」
「誰でもいいでしょう、そんなもんは。それよりもどうして王を殺したんですか? 早く答えてくださいよ」
沈んだ表情になったメロウの質問に、ファクトは訊ね返した。
しかし、メロウは答えない。
ただ黙ってファクトのことを見つめているだけだ。
「さっさと言えよ……。あんたが王を殺したせいで、この国はおかしくなったんだぞ!」
しびれを切らしたファクトは、これまで一度も見せたこともない強張った顔で声を荒げた。
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