第25話 ボス戦前の下準備

 俺はまずグレムリンのところに向かった。グレムリンは横になってへばっている。


「あー。腹減った」


「グレムリン。腹減ってるのか。渡した食料では足りなかったのか?」


「ああ。食糧庫にあるものを勝手に食うわけにはいかないしなあ」


 こいつは食いしん坊だけど、俺の食料を勝手に食うことはしないんだよな。俺の食料管理を邪魔するようなことはしないのが救いだ。


「それは悪かった。ちょっと、食えるものがないか食糧庫を見てくる。


 俺は食料を保存してある部屋へと向かった。マキとザイが作ってくれた木の籠の中にリンゴが置いてあった。俺はそれを手にとり、グレムリンのところに持っていく。


「ほら、リンゴだ。食え」


「おお、ダイチー。ありがとー」


 もしゃもしゃとリンゴを食べるグレムリン。垂れていた耳もピンと立ち、元気を取り戻したようである。


「グレムリン。お願いがあるんだ」


「んー。製作依頼か? 物を作るとエネルギーを使うから腹が減るんだよな」


 遠回しに食料を要求してきやがった。まあ、こいつが食いしん坊なのは今に始まったことじゃないから受け入れるか。


「わかった。でも、今は食料庫の中がほとんど空なんだ。次の食料生産まで待ってくれ」


「えー」


「まあ、製作は食料が手に入ってからでいい。とにかく、どういうものを作って欲しいのか。それをとりあえず伝える」


 俺は巨大な蜘蛛のモンスターのことをグレムリンに伝えた。グレムリンは「ふむふむ」と頷いた。


「おお、それなら、アンブレターの皮膚が欲しいな」


「アンブレター……?」


「ああ、ダンジョンにいなかったか? ドラゴンを捕食するやつ。ドラゴンがいるなら、近くにいてもおかしくはないけどなー」


「ああ。心当たりはあるな。これか?」


 俺はタブレット端末の映像を見せた。録画機能で2層で出会ったモンスターを撮影していた。


「おお、これこれ。これがアンブレターだー。こいつを狩ってきて欲しい」


 ドラゴンより強いモンスターを狩ってこい。気軽に言ってくれるなあ。


「アンブレターの皮膚は毒に耐性があるんだ。それで防具を作れば毒液に触れても大丈夫なはずだー」


「ああ、わかった。メタモルフたちに相談してみるよ」


 毒に耐性がある防具を作るためには、特定のモンスターを狩る必要があるか。覚えておこう。よし、次はアロエのところに行こう。


 アロエはドラゴンの肥料を適切に与えられて、すくすくと育っている。


「やあ、大地君。私もそろそろ育ってきた頃合いだ。医務室を作ってくれるとありがたい」


「ああ。余裕がある時にでも作るよ。それより、今はアロエに見て欲しいものがあるんだ」


 俺は巨大蜘蛛との戦闘の映像をアロエに見えた。


「ふむ。この毒液は……塩水で無毒化できるタイプのものだな


「本当か?」


「ああ。体に付着してもすぐに塩水で洗い流せば問題はない」


 それは良い情報を手に入れた。塩水なら、ネレイドに訊けばなんとかなるか?


「ありがとう、アロエ。医務室はもうちょっとだけ待ってくれ」


「うんうん。待ってるよ」


 俺は次にナイアードとネレイドがいる地底湖の前にやってきた。


「おーい、ナイアードー! ネレイドー!」


 俺が呼び出すとすぐに彼女たちが湖面に顔を出した。


「なになにー。マスター。何の用?」


「実はな。これから、戦うモンスター。そいつが毒液を使うモンスターなんだ。その毒液が体に付着した時に塩水で洗い流せば対処できるらしくてな」


 その話を聞いたネレイドが急に顔を輝かせた。


「ふふ、それなら、私の出番かしらね。私の体は塩水に覆われているから、毒は効かないと思うわ」


「本当か? 一緒にボスと戦ってくれるか?」


「ええ。ただし、私は体の塩分が足りてないと弱体化しちゃうの。普段は私は湖に含まれている塩分でなんとか生命維持できているけれど、ここから出るとなると形態できる塩が欲しいねえ」


「それなら私が湖の浄化をしつつ塩を抽出しておくよ。マスター。ついでに浄化した水はいる?」


「まあ、一応もらっておく」


 俺が飲まなくてもメタモルフやグレムリンが飲むだろうし、ドライアッドも地中の水分を吸えるとはいえ、適度に水を足した方がいいからな。水はあって損はない。


 これで防具でも防ぎきれなかったとしても毒液に対処できるようになったか。


「それじゃあ、ボスと戦う時になったらまだ呼びに来る。それまで心の準備でもしておいてくれ」


「はーい」


 俺はナイアードとネレイドに別れを告げて、メタモルフたちのところに向かった。そして、グレムリンが言っていた防具を作るために必要な素材のことを伝えた。


「というわけで、そのアンブレターの素材が必要なんだ」


「御意。拙者たちがそのモンスターを狩ってきます」


 シリウスが快く承諾してくれた。


「ああ。間違ってもあの巨大蜘蛛がいる部屋に行くなよ」


「殿の仰せのままに」


 よし、これでメタモルフもダンジョン探索をしてくれるだろう。大体の報連相は終わったな。とは言え、俺にはまだやることが残っている。


 1つ。グレムリンの食料を確保しなければならない。これは急務だな。なにせ、ボスを攻略するためにはグレムリンが作る防具が欲しい。グレムリンは食料を与えなければ働かない。シリウスたちが素材を取って来てくれても、グレムリンが働かなかったら意味がないからな。


 2つ。アロエとシャクヤクの医務室作り。これは単に約束したからやらなければならない。期限はいつまでとは決めてはないけれど、先延ばしにするのも彼女たちに悪い。グレムリンに与える食料よりかは危機的ではないが……時間を見つけてやっておくか。なにせ穴を掘れるのは俺だけ。拠点の拡張は俺の仕事だ。


 よし、目標が決まったし、みんなそれぞれがんばってくれている。なら、俺もやるしかないか!



99 名無しの探索者

うわ、マジかよ。信じられねえ。負けた


100 名無しの探索者

【速報】リッパー&チョッパー 地底人を追いつめるも無事惜敗


101 名無しの探索者

おいおい、マジかよ。リッパー&チョッパーが負けたのかよ


102 名無しの探索者

配信見てたけど、地底人側にも覚醒者がいるみたいだな

明らかに人間の容姿なのに、メタルを錆びさせる水を吐く女がいたし


103 名無しの探索者

地底人って一体何者なんだ?


104 名無しの探索者

地底人は現在の東条総理が持っている私設兵だって陰謀論者が言ってた


105 名無しの探索者

>>104

はいはい、ワクチン打ちましょうねー


106 名無しの探索者

リッパー&チョッパーのここが凄い!

リッパーの加速能力は自動車並のパワーがあるぞ!

チョッパーのメタル装甲はかなり硬くて突進されると痛いぞ!

この2人が合わされば、車道を走っても違和感がないようだ!


107 名無しの探索者

道路交通法違反定期


108 名無しの探索者

でも、あの2人がやられたとなったら、流石にあのダンジョンに挑む配信者はいないよな?

俺だったらごめんだ


109 名無しの探索者

>>108

いや、そんな命知らずがいるみたいだぜ


110 名無しの探索者

>>109

無理だろwww

リッパー&チョッパーの配信見なかったのかよ

あんな機敏な動きをして武器を使う地底人に勝てるやつなんかいるわけねえ


111 名無しの探索者

お前らって本当に挑戦する人をあざ笑うのな

そんなんだからいつまで経っても親のすねかじりの底辺ゴミクズなんだよ

挑戦する配信者がいるって言うんだったら応援してやれよ


112 名無しの探索者

まあ、あのダンジョンを攻略するなら最低限、戦闘用の覚醒者じゃなければ無理だろうな

それでやっとスタートライン。ゴールまで遠いなあ

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