第23話 MP管理の概念

 ふよふよと漂っているウィル・オ・ウィスプ。自らの意思で動く光源。これはやりようによっては、とんでもない可能性を秘めた存在になるのかもしれない。


 まず、光源が必要なもの。それはスポーンブロック。連続して起動するとどうしても途中でエネルギーが尽きてしまう。スポーンブロックは光を当てればエネルギーを充電できる。


 次にドライアッドの育成。光合成がなければ植物は育たない。今までは光源不足でドライアッドの数を制限していたけれど、光源が増えたのなら、その制限も緩和される。


 そして、ダンジョンの探索。現状ではマキが作ってくれた松明たいまつを使って、灯りを工面している。ウィル・オ・ウィスプを同行させれば、松明を持つ必要がなくなる。


 しかし、問題があるウィル・オ・ウィスプの栄養源が覚醒者が持つ魔源と呼ばれる力。俺の場合は、これが尽きると穴掘りができなくなってしまう。


「なあ、ウィル・オ・ウィスプ。お前、どれだけの魔源が必要なんだ?」


「ソウデスネ 宿主様ノ 現在ノ 魔源ノ最大値ヲ 100ト仮定シマス ワタシガ 一度ニ吸収スル魔源ハ 40デス ワタシタチハ 一度ノ 食事デ 3日間ハ 活動ニ支障ガナイ範囲デ 生活デキマス ソレヲ過ギルト 光ガ徐々ニ弱マリ 1週間デ餓死シマス」


「なるほど」


 本音を言えば毎日飯は食わせてやりたいけれど、覚醒者が俺1人しかいない状態ではそれが叶わない。ということは、3日に1度の食事で我慢してもらうしかないか。


「とりあえず、ウィル・オ・ウィスプ。お前の仲間を追加で2体呼び出す」


 計算上はこれで安泰のはずだ。毎日違う個体に飯を食わせるローテーションが可能だ。まあ、3日過ぎても光が弱まるだけですぐに死ぬわけじゃない。万一食事を与えられない日があっても、1週間も持つからその間に1日で2体に食事を与えたるタイミングを作れば、また元のローテーションに戻せそうだ。


 とりあえず、俺はウィル・オ・ウィスプのスポーンブロックを起動させた。2体のウィル・オ・ウィスプが出たところでスポーンブロックを停止させた。


「なんか全員青いと区別がつかないな」


「ワタシタチ 任意デ 色ヲ変エラレル」


 追加で出たウィル・オ・ウィスプがそれぞれ、赤と黄色に変色した。


「おお。それじゃあ、最初に出てきた青いお前はアルファ、赤はベータ、黄色はガンマでいいか」


 相変わらず適当な名前だけど、まあいいだろう。


「さて……次はドライアッドの部屋を新規に作らないとな」


 俺はとりあえず、1つ分の部屋を作ろうと穴掘りを始めた。いつも通りの穴掘り……ただ、いつもと違うのは……


「な、なんだこの疲労感は……」


 かつてない程の疲労感。穴掘りも多少は体力を使うとはいえ、今感じているのはそういう次元の話ではない。精神が摩耗するような下手すると意識を手放してしまいそうな程の虚無感に襲われる。


「これは……魔源が減った影響なのか?」


 とりあえず簡易的な部屋は作ることができた。うーん、やっぱりウィル・オ・ウィスプを3体に留めておいて正解だったな。数字的には1日に2体に飯を食わせられるけど、そうしたら穴掘りなんてできなくなる。


 穴掘りの効率は落ちてしまったけれど……それ以上にメリットが大きい。よし、ドライアッドを呼び出すぞ。


 呼び出しに成功したのは、アロエ、シャクヤク、小麦、桑、ゼンマイ、タラノメ。相変わらず木じゃないものも混ざっているけれど、中々にいい面子だ。特に小麦が大当たりだ。これで炭水化物の確保が用意になり一気に腹持ちがよくなる。今までは栗が生命線だったからな。


 自己紹介を済ませたところで、アロエが俺に話しかけてきた。


「大地君。私とシャクヤクが成長したら、医務室を作って欲しい」


「医務室?」


「ああ。私は医術。シャクヤクは薬学に長けている。みなが怪我や病気をした時に面倒を見られるはずだ」


「おお、それはありがたい」


 確かに、この地下生活で病気になったり怪我をしたら大変だな。環境的にも清潔とは言えないし、傷口が化膿することだってありえる。適切な治療ができるならそれに越したことはない。


 そんなこんなで第3のドライアッドの部屋にドラゴンの死骸から作った肥料を巻いて彼らを成長させた。この部屋にはガンマを常時待機させることにする。


「ベータ。お前は警備室に行ってくれ。そこにはメタモルフがいる。そこの灯りは現状では松明しかない。でもお前が行けばメタモルフも明るい場所で警備に専念することができるだろう」


「カシコマリマシタ」


 ベータは警備室へとふよふよと浮きながら進んでいく。


「宿主様。ワタシハ ドウスレバ……」


「とりあえず、基本的に俺と行動してくれ。穴掘りも灯りがないと中々に大変だからな」


 今まではマキが作ってくれた松明を片手に穴掘りをしていたからな。なにもせずとも光源があるのは本当にありがたい。


「了解デス」


 よし、拠点も一気に明るくなったな! 物理的に。光があるだけで、一気に文明が進歩した感じがする。やはり電球の発明は偉大だ。


 とりあえず、俺はウィル・オ・ウィスプに吸われた魔源を回復させるためにベッドで眠りにつこうとする……しかし……


「まぶしいな」


 俺の目の前にウィル・オ・ウィスプがいる。目を瞑っても瞼を貫通する光。眠れない。


「すまない。アルファ。眠る時は離れてくれ」


「了解シマシタ」


 今度こそ眠ることができる。俺は泥のように眠りについた。



 翌朝、かつてないほどスッキリと目が覚める。失った魔源が全回復したお陰で眠る前と比較したらかなり活力に溢れている感じがする。


 さて、今日は何をするか。穴掘りで魔源を消費する前にウィル・オ・ウィスプに食事を与えないとな。穴掘りして魔源が尽きた後じゃあげるもんがなくなってしまう。


 俺はメタモルフの警備室へと向かった。3姉妹が揃って眠っている中、ベータが宙に漂っていた。


「宿主様 オハヨウゴザイマス」


「ああ、おはよう。ベータ。お前も腹が減っただろ。飯の時間だ」


「アリガトウゴザイマス」


 ベータは俺の腕に吸い付いて魔源を吸い取る。相変わらずくらくらとする感覚に襲われる。


「ゴチソウサマデシタ」


「ん……、あー……ご主人君おはよー」


 ベテルギウスが目を覚ました。


「ああ、すまない。起こしてしまったか」


「ううん、大丈夫。丁度、今起きようと思っていたところ」


 ベテルギウスは欠伸をしてから、伸びをした。後ろ脚で自らの耳の裏をかきはじめる。


「んんー」


「耳が痒いなら掻いてやろうか」


「おお、ご主人君。気が利くねー。好き」


 俺はベテルギウスの耳の裏を爪を立てないように優しく掻いてやった。


「おぉお、気持ちいいよお。そこそこー」


 メタモルフは喋ってくれるからどこを掻いていいのかわかりやすくて助かる。これが動物の犬ならしゃべらないから、相手の表情やら仕草で判断してやるしかない。


「ふう、もういいよ。ありがとうご主人君」


「ああ、役に立てたようで良かったよ」


 穴掘りで拠点を広げるくらいしかできない俺。前線に立って戦ったり防錆してくれる彼女たちには本当に頭が上がらない。こういう形で少しでも貢献できるのなら、それは嬉しいことだ。


 それにしても……


 俺はちらっと自分の爪を見た。随分と伸びてきたな。爪の中に土が入っていて一目みて汚いとわかる。


 なんかこう……爪を切らないせいでいかにも童貞の手って感じだ。ベテルギウスの耳を掻く時も相当気を遣ったし、このまま伸ばしっぱなしってわけにもいかないか。


 爪切りなんてこの環境にはない。ということは、代わりになるものをグレムリンに作ってもらうか……?

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