第21話 ダンジョン探索用カメラ
メタル化大男を撃退した後、怪我をしたメタモルフたちは休養を取らせた。予定ではダンジョン探索をさせるつもりだったけれど、こればっかりは仕方ない。
「ナイアード、ネレイドをよろしく頼む」
「はーい。わかったよマスター」
「よろしくねーナイアードちゃん」
戦闘中に呼び出したネレイドは、ナイアードと同じく地底湖に住み着くことになった。
女子2人仲良くやってくれるといいけれど。
そして、今回の戦闘での戦利品というか……壊れたカメラ機能付きのロボット。これをどうするか。俺には機械工学の知識がないし、あってもここには工具がない。直しようがないぞ。
「おいっすー。ダイチー。おめえ、こんなところでなにしてんだー」
メタモルフの警備室で見張りをしているとグレムリンがひょっこりとやってきた。
「ああ。メタモルフは全員深手を負っている。しばらく戦闘はできないから休ませている。だから、一応は俺もここで警備をしようと思ってな」
一応は、ナイアードとネレイドの地底湖近くに部屋を作ってそこで休ませている。もし、メタモルフの嗅覚で敵を察知したら、地底湖にいる彼女たちを呼び出すようには伝えてある。もしもの時の防衛は、ナイアードとネレイドのコンビにやってもらうしかない。だから、俺がここにいる意味はあんまりないのかもしれないけど、念のためだ。
「ふーん、そっか。でも、ダイチ。拠点の通路を穴埋めで塞いだ方がいいんじゃないのか? そうすれば、ダンジョンを探索するやつもやってこないんじゃ……」
確かにグレムリンの言ったことを俺は1度は考えた。公園から拠点までを繋ぐ通路。それを塞げば解決すると。だが、それには問題があった。
「いや、それは万一の時に困る。例えば、もし俺と同じ穴掘りスキルを持つ覚醒者がいたら終わる。なにせ、配信でここの拠点の位置は割れているんだ。穴埋めしても穴掘りで辿り着くことは可能。そうなった時に……穴に塞がれて敵のにおいがメタモルフに伝わらないってこともありえる」
「あ、そっか。開通した瞬間ににおいは漏れるだろうけど、その時になったら、拠点近くに来ていることになるから遅いのかー」
「そういうこと。迎撃準備ができないまま、襲われたら一気に終わる。そんな不意打ちを食らうくらいだったら、敵がやってきやすいけれど、においで接近が分かる方がいい」
無防備の状態を狙われる。それが最も恐ろしいこと。敵の接近がわかるメリットは何よりも優先される。
「おっ……! おぉおお!」
グレムリンは警備室に落ちている壊れたロボットに興味を示している。ロボットを舐め回すように観察した後に俺の方をちらりと見た。
「ダイチ! これはなんだ?」
「さっき、襲撃してきたやつらが持ってきたロボットだ。戦いのせいで壊れてしまったけどな」
「ふーん。まあ、これオイラなら修理できるけど?」
「マジか!?」
俺の反応にグレムリンは耳をぴくぴくと動かして笑顔になった。
「ああ。オイラは電子機器を弄るのが好きだからねえ」
「でも工具とかはいるんじゃないのか?」
「それは人間にとっての話でしょ? オイラならそういうのはいらない。なにせ本職はメカ弄りが得意な妖精だからねえ」
どういう理屈だよ。でも、まあ。撮影できるメカはなにかの役に立つのかもしれない。
「ちょっと色々と改造するから時間はかかるかもだけど、完成を楽しみにしていなよ」
「ああ、わかった」
時間がかかるか……俺はその間なにをしようか。うーん、食料確保の手段を色々と考えるか。
現状での食料生産経路は、ドライアッドの果実と羊狩りとドラゴン狩り、そしてナイアードたちの漁だ。メタモルフが休養中の今、ドラゴン狩りはできない。ということは、俺が羊狩りに従事するのが最適かと思われる。
でも、ナイアードたちの漁も効率化はできないのだろうか。一応、ネレイドも仲間になったから生産効率は増えそうだけど、ネレイドの分の食い扶持も増えているからなあ。そこまでって感じはしないでもない。
「大地さーん。ちょっといいですかー」
この声はコットンか。道具生産部屋に行ってみよう。
「おー、どうしたコットン。なにかあったか?」
「いえいえー。用はないんですけどー。わたくしー、ちょっと手が空いてましてー、なにか手伝えることはないですかー」
うーん、急に仕事を振って欲しいと言われても。もう俺の衣服は着替えの分を含めて充実しているしなあ。急遽作って欲しいものも思い浮かばない。
いや、待てよ……
「そうだ! コットン。網をつくれるか? 魚が取れるやつ!」
「網ですかー。ええ、できますよー」
ナイアードたちは魚を手で捕まえている。しかし、そこに道具が加われば更に効率はあがるかもしれない。漁の効率が上がれば、少しは食料の状況もマシになるだろう。
◇
そんなこんなで数日が過ぎた。俺は羊を出しては窒息させて倒して加工する作業を繰り返し……ついにコットンが網を完成させた。
「できましたー大地さーん。漁用の網ですー」
「ありがとうコットン」
俺は網を持って地底湖まで向かった。そして、ネイアードを呼ぶ。
「おーい、ネイアード」
「はーい。どうしたのマスター?」
「コットンに網を作ってもらった。これで漁が捗るだろう?」
「わあ、ありがとうマスター。私、これでいっぱい魚を取るねー」
ネイアードに網を渡した成果は案外すぐに来た。今日の漁獲量が今までの倍近くに膨れ上がった。俺は取れた魚を似てからグレムリンのところに持っていた。
「グレムリン。食事だ」
「おお、ダイチー。丁度よかった。腹減ってたんだー」
グレムリンが魚をむしゃむしゃと食べる。いや、むしゃむしゃどころか、骨もバリバリと食べた。
「うん、美味い。これで作業効率もアップするってもんだぜー」
相変わらずよく食うやつだ。鍋の中の魚をあっと言う間に平らげてしまった。でも、俺は自室に自分の分の魚を退避してある。全部見せなくて良かった。
それから自室で魚をちびちびと食べていながら、待っているとグレムリンがやってきた。
「おー。ダイチー。完成したぞー」
「おお、本当か?」
俺はグレムリンの作業場へと移動した。そこには、小型化したロボットともう1つ。なんかタブレット端末があった。
「自動撮影ロボットを作ったぞー。このタブレット端末で操作できるからちょっとやってみー」
「ああ。やってみる」
俺はタブレット端末を起動させた。すると、そこには俺の姿が映し出されている。丁度、ロボットのカメラが俺を見つめているから、映像が映るということか。
「すげえ。リアルタイムで映像が表示されるのか」
「ああ。これを作るのに苦労したんだぜー」
「グレムリン。お前凄いな」
「それだけじゃないぜ。ちょっと文字を入力してみな」
ディスプレイを操作するとキー入力ができるようになった。そこで俺は文章を打ってみた。
『俺は無実だー。なにもしていない』
「うわ。すげえ。ロボットがしゃべった」
ロボットから機械音声が流れた。俺のコメントをロボットが読み上げる。
「どう? すごいだろ?」
「ああ。なんか……原始時代から一気に現代にタイムスリップしたみたいだ」
急に文明レベルが上がりすぎである。このロボットを使えば、色んなことができるような気がしてきた。
「へへ。それじゃあ。完成祝いに飯をくれ」
「あ、それは無理。今食料枯渇しているからー」
「うへえ。マジかー」
グレムリンは耳を垂れさせて落ち込んでしまった。
「すまない。いつかは好きなだけ食わせてやるようにがんばるから」
グレムリン1体でこれだけの消費量だから……グレムリンの2体目はスポーンしない方が良いな。
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