第20話 メタルボディの弱点

 シリウス、プロキオン、ベテルギウスの3体がそれぞれ大男に猛攻を仕掛けている。しかし、その攻撃がいずれもメタルボディによって弾かれるし、唯一メタル化していない頭にも攻撃を当てる隙がない。


「くっ……矢が切れた」


 飛び道具の宿命である攻撃手段の喪失。プロキオンは弓を捨てて、素手でシリウスとベテルギウスと共に接近戦に参加した。


「オラァ!」


 プロキオンが大男の股間を容赦なく蹴り上げる。キンと金属音が響き渡る。なんか見ているこっちの股間が痛くなりそうだった。女は金玉への攻撃に加減を知らない分、これはかなりのダメージになったんじゃないのか?


「無駄だ! メタルの装甲に包まれている俺様に金的は通用しない!」


 マジかよ。男の最大の弱点を克服しているのかよ。これはマジで無敵だな。


「お前の攻撃を受けてやった。だから……次は俺様のターンだ! アクセラレータックル!」


 大男が能力により加速してそこら中を駆け巡る。メタモルフ3姉妹たちは、それにぶつかり宙へと投げ出されてしまう。


「がは……」


 地面に落下するメタモルフ3姉妹。大男は加速を停止させた。


「メタル装甲による突進。自動車に轢かれたみたいに痛いだろう?」


 確かに、擬似的な自動車と考えると装甲強化と加速。この2つの戦闘における相性は最高と言ってもいいレベル。硬くて速いやつとかどうやって倒せばいいんだ。


「くっ……シリウス姉様……こいつ強すぎる」


「諦めるでない! プロキオン! 殿をお守りするために、拙者たちが負けるわけにはいかぬ!」


 あいつら……俺のために。くそ、どうして俺は戦う力を持ってないんだ。あいつらが前線に立っているのに、俺は何もしてやれない。こんな悔しいことがあるか。


 考えろ。なにか手立てはないのか。やつのメタルボディを攻略する方法が……


 俺は頭を最大限に働かせて考えた。今までの戦いの中でなにかヒントはないか……? 最初にやってきたブンブン野郎。あいつは弱かった。特に参考になるものはない。次に来たのは、変態縛りプレイ女。これも論外。


 そして、リーゼントの炎使い……炎? 炎でメタルを溶かすか? いや、鉄の融点は高い。現実的ではない……いや、待てよ。メタルは金属の総称だから別に鉄とは限らないんじゃないのか?


 だとしたら、融点がそこまで高くない可能性はある。だとしたら、火だ! それが突破口になりうるかもしれない!


「プロキオン受け取れ!」


 俺はマキの薪をプロキオンに投げつけた。シリウスとベテルギウスは武器を持っていて手が空いていない。丁度、素手のプロキオンがいて助かった。


 プロキオンは薪を受け取り、俺の方をちらりと見た。そして、頷く。こちらの意図を理解してくれたようだ。


「なんだ? その棒きれで何ができる。俺様のデータによると、その棒きれの強度は竜鱗を纏った竜骨以下。そんなもので突破できぬわ!」


「それはどうかな。あまり、我らを甘く侮るなよ!」


 プロキオンは薪を大男に向かって擦りつけた。次の瞬間、薪が発火する。その炎に炙られた大男は一瞬怯む。


「ひ、火だと」


「食らえ!」


 プロキオンは大男のメタルボディに火を直接当てた。頼む。溶けてくれ。そう願うも……


「無駄だ」


 大男がプロキオンに蹴りを入れた。プロキオンは吹っ飛ばされてしまい、薪も地面に落ちて火が消えた。


「一瞬焦ったが、俺様のデータによるとその炎の温度では、メタルの融点には到達していない。所詮は地底人の浅知恵よ」


 火力が足りないのか……いや、そういう考えでは勝てない。この地底でこれ以上の火力がある炎はない。ということは、また別の手段を使うべき。


 えっと、リーゼントの次にやってきたのは、スポーンブロックを使うイケメン……そうだ、戦闘中でもスポーンブロックを使ってモンスターを呼び出していいんだ。増援を要求してやる。


 とはいえ、今の俺はスポーンブロックを持っていない。あれは何気にかさばるからな。とにかく、スポーンブロックがある地点まで急ぐんだ。


「あった。よし、スポーンブロック起動! 出てこい! 新たなる助っ人!」


 スポーンブロックが光る。光ったスポーンブロックから出てきたのは……ビキニを着たセクシーなお姉さんだった。


「へ? あんたは……」


「私を呼び出したのはあなた? ふふ、私はネレイド。ナイアードの亜種。ナイアードが淡水の精霊なら、私は海の精霊。地味に違うの」


 どのスポーンブロックを起動したのか、慌てていたからよく見なかったが、起動したのはナイアードのスポーンブロック。しかし、出てきたのはその亜種……?


「ふふ、鳩が豆鉄砲食らった顔をしているね。もしかして、亜種を呼び出すのは初めてかしら? スポーンブロックは基本的に同じ種族のモンスターが出るけど、低確率で私みたいな亜種のモンスターが出ることもあるの」


「あ、亜種でも何でもいい。とにかく力を貸してくれ」


「ええ、いいわよ。呼び出して早々、私を頼ってくれるなんて随分と情熱的なのね」


 俺はネレイドを連れて戦場へと戻った。メタモルフ3姉妹がボロボロになりながらも諦めずに戦ってくれている。くそ、俺の仲間をあそこまでボコボコにしやがって。


「ネレイド。あのメタルボディの大男と戦ってくれ。あそこにいる女3人は味方だ」


「おっけー。マスター君のためにがんばってあげる」


 ネレイドが戦線に立つ。大男はいきなり、ビキニのお姉さんが登場したことにより首を傾げた。


「なんだ? てめえ。俺様のデータによると、お前も地底人の仲間だな」


「ええ。そして、あなたの敵でもあるの。ごめんなさいね。私が敵という不幸をあなたにプレゼントしちゃって」


 ネレイドは両手を後ろに下げた。胸を強調する体勢となり……胸から水を発射させた。そこから出るのか……


「うわ、な、なんだこの水は……」


 ネレイド。海の精霊。確かに攻撃手段は水でイメージにぴったりだ。でも、これでメタルを倒せるのか……?


「あ。ががが。な、なんだ? お、俺様の体が動かねえ!」


 え? どういうことだ? 俺はよく大男の体を観察してみた。すると、大男のメタル部分がさび付いている……?


 そうか! 金属は塩水で錆びる! ネレイドは海の精霊だから、発射する水も塩水なんだ。それで、奴のメタルボディを錆びさせて。


「ひ、ひいい!」


 大男を纏っていたメタルがどろどろに溶けていく。そして、元の小男の姿に戻った。


「んな、バカ! チョッパー! 戻るな!」


「ふごーふごー!」


「プロキオン! ベテルギウス! チャンスだ!」


 シリウスの掛け声と共にメタモルフ3姉妹が力を振り絞り、大男と小男を殴る蹴るなどして、ボッコボコにした。


「い、いだ! や、やめてくれ!」


「ふごーふごー!」


 メタル化して粋がっていたのも今は昔。それが解除されてからは、メタモルフ3姉妹に手も足も出せずに一方的にやられるだけ。


「これで……止めだ!」


 シリウスが大男に回し蹴りを食らわせた。吹っ飛んだ大男が飛んだ先には撮影用のロボットがあり、大男はそれを押しつぶす形で倒れた。


「ひ、ひいー。た、助けてくれー」


 大男と小男は涙目で敗走してしまった。顔面もボコボコに膨らんで痣もできるほどに殴られていたし、良い気味だった。


「大丈夫か! みんな!」


 俺はメタモルフ3姉妹に駆け寄った。彼女たちは戦闘が終わると同時に片膝をついた。そして、変身が解けて元のもふもふ形態に戻った。


「と、殿……やりました。私たちの勝ちです……」


「ああ、ありがとう。助かった。体は大丈夫か? 無理をせずきちんと療養するんだ」


 戦いには勝ったものの、メタモルフたちはかなりのダメージを負っている。怪我の具合がかなり心配だ。

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