第19話 グレムリン工房

 グレムリン。こいつが来てから、かなり作業が捗っている。俺が使っていた竜骨を削って作ったナイフも改良してくれて包丁並の切れ味にしてくれた。これで、料理もしやすくなった。


 現状、作ってくれた武器はベテルギウス用の剣。ブロキオン用の弓矢だ。シリウス用の武器は現在は開発中である。


 メタモルフ3姉妹の武器がそれぞれ完成次第、再びダンジョンに挑戦しようと思う……ただ、このグレムリン。かなり、というか致命的な欠点を抱えている。


「ダイチー。腹減った」


「ああ、今飯を作ってやるから待ってろ」


 かなりの大食漢なのだ。俺の10倍程の飯を食う。そして、空腹時にはかなりパフォーマンスがダウンするのが欠点である。


 そう、食料の安定供給ができないことを理由にメタモルフの増員をケチっていた現状で、この特性はあまりにも厄介すぎた。


 幸いにも羊肉を与えていれば、ある程度持ってくれる。しかし……


「ダイチ。今日は羊肉は勘弁なー。たまには違うもん食いたい」


 まあ、そうなるよな。食の好みにはうるさくないけれど、流石に同じ食料を与え過ぎたら不満が出る。そして、不満が最高潮に達した時には、こいつのもう1つの徳性が爆発する。


「んにゃあ! せ、拙者のドングリがない!」


「どうしたシリウス」


「殿! おやつに取っておいた拙者のドングリがないのです」


「なんだよ。またドンにもらえばいいだろ」


「それが、ドンの木にも収穫済みのようで……」


 シリウスがグレムリンの方をチラ見した。


「時にグレムリン。ドングリを知らないか?」


「知らなーい」


「嘘をつくでない。お主が尻に敷いているものはなんだ!」


 グレムリンの尻の下にドングリが敷き詰められていた。


「ああ。これねえ。ツボを押すのに丁度良いんだよ」


「ははは、そうか……って、これ拙者のドングリだ!」


 シリウスがグレムリンに飛び掛かる。グレムリンは華麗な身のこなしでさっと避けた。何気ない行動だけど、素早いメタモルフの攻撃を避けるなんて相当なものだ。まあ、シリウスも仲間相手に本気を出してはいないだろうけど。


 グレムリン。こいつは、不機嫌になるとイタズラをして自身の機嫌を保とうとする。イタズラもさせずに、工房の作業だけに集中させるには……やはり、食料の安定生産が急務だな。


 一応は、羊のスポーンブロックがあるから、それで無限沸きで肉には困らない。しかし、羊を倒すのにも労力がかかるし、解体作業も必要だ。


 それにスポーンブロックも半永久的に使えるとはいえ、常に最大効率で使えるわけではない。スポーンブロック内に溜まっているエネルギー。それが尽きればスポーンはしなくなる。いわゆる電池切れだ。これは光を当てれば、また復活するのであるが……現状は光源の数も限られている。羊のスポーンブロックに貴重な光る石を割り当てるわけにもいかない。


 あちらを立てれば、こちらが立たず。地底生活の取捨選択は難しい。



 地底生活もそれなりに長くなってきた頃。俺はついに集中力を欠くほどの空腹に襲われた。グレムリンに俺の分の食料を分け与えていた影響で、昨日は焼き栗1個しか食ってない。


 それもこれもグレムリンを集中させるためだ。早いところシリウスの武器を完成させてもらわないと……そうすれば、グレムリンの食事を多種減らしても影響はなくなる。


「よし、完成したぞ」


「本当か!?」


「ああ、ダイチ。シリウスの武器。ドラゴンの素材で作ったジャマダハルだ!」


 刺突用のダガーか。武器の種類はシリウスが希望したみたいだけど……ちゃんと使えるのかな?


「殿! 敵襲です。今回は2人です!」


「なんだって」


「おお、シリウス。丁度良かったなー。あんた用の武器が今完成したところだ」


「おお、それはかたじけない。では早速、武器の使い心地を試させてもらう」


 現在、拠点にはメタモルフ3姉妹がいる。しかも、全員が前回の襲撃と違って武器を持っている。どれくらいの戦力アップになったのか、見届けたい。


 俺はいつものように陰ながら戦闘を見守る。今回の陣形は、ジャマダハルを装備したシリウスと剣を装備したベテルギウスが前衛。弓矢を装備したプロキオンが後衛を務めている。


 敵を迎え撃つ準備をしていると、暗がりから大男とその方に乗っている小男がやってきた。


「なあ、チョッパー。俺様のデータだと、地底人は全員素手だったはずだぜ」


「フゴーフゴー」


 なるほど。データタイプと明らかに知性が足りてない感じの凸凹コンビか。ある意味定番というかわかりやすいやつだ。ただ、1つだけツッコミを入れたいのは、データタイプが大男の方で、「フゴーフゴー」言ってるのが上の小男だ。


 普通逆だろ!


「だが、相手が武器を持っていようと変わらない。チョッパー。メタルコーティングだ!」


「フゴー!」


 上の小男の肌の色がメタリックになり、ドロドロに溶け始めた。そして、そのドロドロの液体となった小男が大男の体にまとわりつく。大男の首から下が全身メタルに覆われる。


 明らかに人智を超えた能力。こいつらも覚醒者か。


「食らえ!」


 最初に攻撃したのはプロキオン。竜骨の弓矢を放った。それが大男の左胸に命中する……が、命中するだけで弾かれてしまった。


「なっ……我の攻撃が効かないだと……」


「俺様のデータによると、この矢の素材は竜の骨に鱗をコーティングしたもの。しかし、人間の技術では再現不可能な研磨方法を取っている。なるほど。地底人は地上にいる人類にはない技術を持っていると」


 大男がなにやらぶつぶつと実況している。よく見ると大男の背後にロボットが配置されている。そのロボットは明らかにカメラのレンズのようなものがついていて、これで配信しているものだと思われる。


 ということは……全世界に、俺たちが謎の技術を持っていることが知れ渡ってことか? なんだろう、この戦いに勝っても次の厄介事に巻き込まれる気がしてきた。


「プロキオン。拙者とベテルギウスであの男を足止めする。次は露出している頭の部分を狙え!」


「承知した。シリウス姉様!」


 シリウスとベテルギウスが一旦、左右に広がる。そこから、2人同時に大男を左右から挟み撃ちにして攻撃を仕掛ける。


 シリウスが大男の首筋にジャマダハルの突き攻撃を食らわせる。ギリギリメタルがある部分。その攻撃が弾かれる。


 ベテルギウスが大男の左肩に斬りかかる。しかし、大男は全く動じずに肩で剣の一撃を受け止めた。


「今だ! 食らえ!」


 プロキオンが弓矢を放つ。綺麗な起動でヘッドショットを狙う。狙いは恐らく正確だった。しかし——


「アクセラレーション!」


 大男が急にシリウスに突進をしかけた。しかも、かなり早い。ジェットエンジンでもついているのかと思うくらい。


 シリウスはメタル化した大男に吹っ飛ばされる!


「きゃあ!」


「シリウス姉さん!」


 ベテルギウスが吹っ飛ばされて落下しかけたシリウスを地上でキャッチした。


「俺様のデータによると……お前達3人は俺様のパワー、ディフェンス、スピード、どれも攻略できない」


 大男がシリウスたちをビシっと指さした。くそ、図体がでかい癖に華麗に決めやがって。


 しかし、実際、あの大男は体格通りのパワーがあるし、メタル化していることで防御力がかなり高まっている。しかも、大男のスキルで移動速度も加速できる。


 なんだよこれ。前回のアイテムボックス使ってたイケメンより強いじゃねえか。あれが強さの天井だと思ったら、とんでもないインフレが来たな。こっちも武器を手に入れて戦闘力が増しているはずなのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る