第17話 間の悪い奴っているよね

 俺はサバイバルブックを読み込んでいた。ペットボトルを利用して、ろ過装置を作るんだ。小石や土は無限に手に入るし、綿花もコットンのお陰で手に入る。活性炭もブンブン野郎の持ち物にあった。順番通りに入れて、地下水を入れる。後はこれがペットボトルの口から出るのを待つだけ。タコ糸でろ過装置を固定して、アルミの鍋に溜まるようにする。


 ふう。これで煮沸しなくても飲み水の確保は出来る。


「ご主人君。敵襲だよ!」


 ベテルギウスが俺に伝えてくれた。


「なんだと。よし、いつものように撃退するぞ」


 なんだかんだで、シリウスもプロキオンもベテルギウスも侵入者との戦闘経験はある。今はこの拠点に3体のメタモルフがいるから負ける気がしない。


「ナイアードはいらないか」


 これだけ戦力過多なら、わざわざナイアードを呼び出すまでもない。俺は帽子を深く被り視線を隠しマスクを被って、戦闘の様子を観察することにした。


「あれ? 前に壁がある? おっかしいなー。配信見た時は真っすぐ進めば例の地底人に会えたはずだけど」


 金髪のいかにも爽やかイケメンの外見の奴が目の前に現れた。


「こっちだ!」


 人間形態のメタモルフ3姉妹がイケメンに声をかけた。イケメンは彼女たちを見て目を輝かせた。


「おぉー! すげえ! 本当に地底人がいた。よし、配信を見ているみんな。僕を応援してくれよ!」


 こいつも配信者か。どいつもこいつもダンジョン配信をし過ぎだろ。流行ってんのか?


「アイテムボックス、スタートアップ! アウトモードオン! シリアルナンバー776」


 イケメンの手から箱が出てきた。その箱がパカっと開いて中から四角いブロックが出てきた。こいつも覚醒者か!


「プロキオン、ベテルギウス。参るぞ」


「はっ、シリウス姉様」


「了解!」


 シリウスを前衛に背後にブロキオンとベテルギウスが両翼を担う陣形でイケメンに接近する。


「スポーンブロック、オン! 現れろ! グランドドラゴン!」


 イケメンのスポーンブロックからドラゴンが現れた。ドラゴンが咆哮を上げる。その振動が俺にビンビンと伝わってくる。離れたところから見ているだけの俺にも今ので怯んでしまった。もっと近くにいるシリウスたちは……


「せいや!」


 怯む様子もなくシリウスはドラゴンの顎に蹴りを入れた。それにベテルギウスとプロキオンも蹴りで攻撃を入れる連携をする。


 見ている分には確実に手応えがあった。実際、ドラゴンは彼女たちの蹴りを食らって仰け反っていた。しかし、ドラゴンはすぐに体勢を戻して、シリウスたちをギロっと睨みつけた。


「むむ、面妖な。拙者たちの連携攻撃を受けてもまだ立っていられるとは」


 しかも、当たった箇所がアゴだ。大体の生物の急所となる場所。それを食らってもまだ戦えるとか、このドラゴンは強いな。


「ふふん。グランドドラゴンは大地の力をリソースとして強くなれる。ここの地形は大地が中心。つまり、かなり強化されているんだ!」


 イケメンがスマホに向かってなんか喋ってる。恐らくはリスナーに向けての解説だろう。でも、その解説、こっちにも聞こえてるんだよな。敵に手の内を明かすとかバカか。


 ドラゴンは爪でシリウスを引っ掻こうとする。シリウスはそれを避ける。だが、ドラゴンの爪はシリウスがいた時点の地面を引き裂いてえぐった。抉られた土が飛び散り、それがシリウスの顔面にぶつかる。


「ぐっ! お、乙女の顔面に土をぶつけるとは。なんたる無礼者!」


 シリウスが土に怯んだ隙にドラゴンは尻尾を鞭にように震わせてシリウスに攻撃しようとした。しかし、シリウスの前にベテルギウスが入り、かばった。ベテルギウスは腕で尻尾の攻撃をガードした。


「ベテルギウス!」


「シリウス姉さん。大丈夫ですか……」


「お、お主こそ……」


「だ、大丈夫です。姉さん。アタシの腕は折れてはいません。ただこの戦闘では右腕は使い物にはならないみたいですね」


 あれ? もしかしなくても、押されている? っていうか、そもそもベテルギウスが腕でガードしてこのダメージは相当やばい。シリウス単騎だったら、もう勝負ついているレベルだと思う。だって、シリウスはガードできる状態じゃなかったし、直撃したら一発ノックアウトもありえた。


「いいねえ。地底人をここまで追い詰めたのは僕が初めてじゃない? おお、同接数がぐんぐん上がっていくよ!」


 くそ、相手も勢いづいている。本人はただドラゴンをスポーンブロックで呼び出しただけに過ぎないのに、調子に乗りやがって。でも、俺もスポーンブロックで呼び出したメタモルフを戦わせてるだけだから人のこと言えないな!


 まずいぞ。メタモルフがやられたら、もう勝ち目がない。今の内に、ナイアードを呼び出して加勢させるべきか。流石に4体がかりならあのドラゴンもなんとかなるはずでは……


「グランドドラゴンだけで十分な気もするけど、念には念を入れて更なるモンスターを召喚するよ。アウトモードオン! シリアルナンバー616!」


 まずい、新たなスポーンブロックを追加しようとしている。グランドドラゴン1匹でもきついのにこれ以上増援されたら負ける。


「シリウス姉様。あれをやりましょう」


「御意。今こそ姉妹の連携を見せる時」


 プロキオンとシリウスがそれぞれ片腕を広げる。そして、そのままドラゴンの首をめがけて突進した。あれはラリアット。しかも2人がかりだ! 2人の力がドラゴンの首にかかり、ドラゴンはそのまま後方へと押し倒されてしまった。


 ドスンと地響きが鳴り響く。


「うわ、なんだ」


 スポーンブロックを起動しようとするイケメン。しかし、地響きに怯んで一瞬起動が遅れた。その隙をついたのは、ベテルギウスだ。彼女がイケメンに思いきり飛び蹴りを食らわせる。


「せいや!」


「ごふぇ!」


 イケメンは配信用のスマホとスポーンブロックを落としてしまった。地面に這いずりながらなんとかスマホを回収して、イケメンは中腰ぐらいまで立ち上がり、「ひー」って言いながら逃走した。


 イケメンが離れるとグランドドラゴンは起き上がり、自分を呼び出したイケメンに向かって走り出した。主と一緒に敗走したか。


「わわ、ついてくるな。お前が一緒にいたら通路が狭くなるだろ! それに僕が住んでるアパートじゃお前を飼えないの!」


 なんか揉めてる。まあ、俺には関係ないか。友好的なモンスターを呼び出したらちゃんと最後まで面倒をみろよ。それが飼い主としての最低限の責任だ、


「ふう、殿。なんとか勝ち申した」


「ああ、ありがとうシリウス、プロキオン、ベテルギウス。そしてよくやった」


 俺はメタモルフ3姉妹にお礼を言う。こういう時にきちんと褒めてあげることが重要だ。


「それにしても、天運に恵まれましたな。拙者たち3体がかりでないと恐らく撃退は無理だったでしょう」


「ええ。シリウス姉様の言う通りです。我らが偶然拠点に3体集まってなければ、今頃は……」


 確かに。襲撃のタイミング次第では、あのイケメンの大勝利で終わってたんだよな。本来なら勝てる実力があったはずなのに、なんとも間の悪い奴だな。


「それにしても……あいつが落としたスポーンブロック。これは友好的なやつだな」


 俺はイケメンが落としたスポーンブロックを持ち上げた。どんなモンスターが出るかはわからないけれど、戦闘中に出そうとしたということは……強いモンスターである可能性が高いな。


「グランドドラゴンのスポーンブロックは流石に持ち帰られてしまったけど、この正体不明のスポーンブロックの中身が気になる。とりあえず、起動してみるか」


 ブンブン野郎以来の戦利品に胸を躍らせながら、俺はスポーンブロックを起動した。

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