第16話 戦いの基本は上を取ること
「ご主人様できました。ハシゴです」
俺がマキに依頼していたものができあがった。
「ありがとうマキ」
このハシゴを何に使うのか。それは決まっている。俺は羊のスポーンブロックがある地点までシリウスを連れて行った。
「殿。そのハシゴは何に使うのですか?」
「ハシゴと言ったら登る以外に用途はないだろう。つまり、何をするかというと……地の利を得るんだよ」
俺は羊のスポーンブロックより少し手間。そこから上方向に穴を掘り始めた。ある程度掘り進めたら、前方の通路を埋めて、そこにハシゴをかける。
ハシゴをかけた先に今度は前方に穴を掘る。羊のスポーンブロックの下あたりまできたら下方向に掘る。
羊のスポーンブロックが出現した。これで羊が出現する条件が整った。
「よし。シリウス。引き上げてくれ」
「御意」
アサが作ってくれた麻縄を使ってシリウスが俺を引き上げてくれた。これで、俺はここから脱出に成功。
スポーンブロックの地点は壁に囲まれていて、脱出経路は俺がシリウスに引き上げてもらった地点しかない。つまり、ここで生まれたモンスターは、でかい溝に閉じ込められるということだ。
「四足歩行の羊にここから抜け出す手段はない。もうすぐ羊がスポーンするぞ」
「あ、殿。見て下さい。スポーンブロックが光りました」
スポーンブロックから羊が出現した。より、計算通り、ちゃんと上は取れている。
「よし、羊が出たな。ちゃんと上を取れているし、これなら俺でも倒せる」
「ほう。どのようにして倒すのですか?」
俺は穴掘りの能力である穴埋めを使って、羊の頭上に土で蓋をした。
「えええええ! と、殿。そんな戦い方ありなのですか!?」
「ああ。これでやつは地中で窒息して死ぬ。後は死んだ頃合いを見計らって死体を回収すれば羊の肉や毛が取り放題ってわけだ。まあ、これは実験その1だな。凶暴な羊を安定して倒せる手段はなんぼあっても良い」
この方法だと羊の死亡タイミングがこちらで観測できないのが難点だな。死体は放置しすぎると腐ってしまう。流石に腐った肉は焼いてもどうにもならん。
「まあ、この倒し方はほんの一例ってことで。素直にシリウスが上から攻撃するのも有りだしな」
「そうですな。確かに姑息な手ではありますが、こちらの攻撃がギリギリ届く上からならより安全に倒せることでしょう。考えましたな。殿」
これで羊肉が安定供給できるようになった。他の食料はどうやって増やそうか。いや、食料よりも水だな。今はドライアッドの果実から得られる水分と煮沸消毒でなんとかまかなえているけれど、煮沸消毒は時間がかかる。
やはり、ろ過装置を作るしかないか? 一応材料は揃えようと思えば揃えられるんだよな……ろ過と聞いてある女の顔が頭に浮かんできた。ナイアード。あいつは水を浄化する力がある。俺は飲みたくないけど。
後は、生産した食料を保存しやすくする方法を考えないとな。腐敗を遅らせるには、食品を発酵させるか水分を抜くのが良いとされている。
水分を飛ばすには塩漬けしたり、そこから更に燻製したり……まあ、とにかく塩が必要だ。でも、この生活において塩はかなり貴重だ。実際のところ、ブンブーンうるさかった配信者が落とした持ち物の中に偶然調味料の塩が入っていたから、今はそれを使っているだけだ。もし、これが切れたらと思うとぞっとする。
どうにかして、塩を作らないといけないのか。塩を作るには海水が必要だ。日本では岩塩が発掘されることはないからな。
まあ、なんにせよ俺だけで解決できる問題ではなさそうだ。こういう時は周りから知恵を借りよう。
「ナイアード。ちょっといいか」
俺は湖面に向かって声をかけた。しばらくするとナイアードが浮上して顔を出して来た。
「なに? マスター。なにか用?」
「ちょっと相談があるんだ。この地底湖ってどこかに繋がっていたりしないか?」
「うーん……私もこの湖を隅々まで調べたわけじゃないからわからないけど、湖底に洞窟みたいな穴があったよ。その中は暗くて良く見えないから調査できてないんだ」
「そっか。そこが海に繋がっている可能性とかはあるか?」
問題はそこだ。海にさえ繋がっていれば海水を手に入れることができる。海水さえ手に入れば、塩を入手する手段は手に入る。
「海? マスターは海水浴したいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただな。いずれ、今持っている塩分も作り日が来るかもしれない。それまでに自力で塩を生産する方法を確立したくてな」
「あ、なんだ。マスターって塩が欲しかったの? 言ってくれたら出せるのに」
「え? マジ」
ナイアードって水の精だけど、塩を出せるのか?
「うん。この湖にもわずかながら塩分が含まれていてね。私が水を浄化する際に塩分は分解できないし、水と一緒に排出できないから体内に蓄積されるんだよ」
体内……? なんか嫌な予感がしてきた。
「定期的に溜まった塩分は出さないといけないんだ。今まではまた湖に戻していたけれど、マスターが塩を欲しいならそれをあげるよ。それじゃあ出すよ。おえぇ」
ナイアードの口から白くてキラキラとした結晶が出てきた。良かった。上の口から出てきた。下から出てきたらどうしようかと思った。いや、上でも絵面はかなり汚いけど。
「はい、マスター。私の塩あげる」
「あ、ああ。ありがとう。できれば次回から渡す時には、塩を出すシーンを見せないでくれると助かる」
「うん、いいけど。ワガママなマスターだなあ」
大丈夫。出すシーンを見なければ抵抗感も薄まるはず。そもそも、海水だって生物の糞尿や死骸の成分がある程度入っているものだし、俺が普段口にしていた塩もそこから抽出したものだしな。うん。潔癖になりすぎるのは良くない。
「あ、そうそう。マスター、ついでに捕まえた魚をあげる」
「おお。ありがとう」
塩と魚を手に入れた。早速、これを使って保存食を作る実験をしてみるか。
魚をドラゴンの骨を削って作ったナイフで切っていく……なんか身の断面がきたなく切れてしまった。包丁に比べて切れ味が悪いから不格好になってしまうのはしょうがないな。
これを塩漬けにして水分を飛ばす。まあ、大体一晩くらい寝かせればいいか。俺もベッドで寝て時間経過を待とう。
水分が飛んだところで、秘密兵器の登場。それはリンゴの木材チップ。ドライアッドは周期的に腕が生え変わる。マキやザイはその速度が異常だけど、リンゴのリンもこの前腕が生え変わったのだ。
だから、俺はそのいらなくなった腕を貰って、マキとザイにチップに加工してもらった。
このチップに火を灯して出てくる煙に、塩漬けにした魚の切り身をいぶす。
結果、魚の燻製肉ゲット!
保存食だけど、一応味も見ておくか。まずいものを保存してもしょうがないからな。
俺はごくりと生唾を飲んでから魚の燻製肉を食べた。口の中に広がる香りと塩味の相乗効果。これはアカン。旨味の水爆実験や!
一切れだけ食べるつもりだった。他のは保存食だから今手を付けるわけにはいかない。しかし、こんな美味いものを保存しておくなんてできるか!
「くそ! うめえ! なんだこの美味さは! 保存食のクセによお! 普段俺が食ってるものより美味くなりやがって!」
気づいたら、折角の保存食がたった数分の内になくなってしまった。
これには流石の俺も猛省せざるを得なかった。でも、仕方ない。この地下生活。食以外に娯楽がないんだ。だから、こうして豪遊するのは仕方がない……
「いや、そんなわけあるか!」
食料の確保が重要な時期に俺は何をしているんだ。このままじゃダンジョン探索が遅れるだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます