第15話 ダンジョンの2層
つんつんと俺のほっぺが湿った何かにつつかれている。そんな感覚で俺は目を覚ました。
「あ、おはよー。マスター」
「ん。ナイアードか。おはよう」
見ればナイアードがずぶぬれになっている。普段は地底湖の中で暮らしているから、当たり前と言えば当たり前だけど……
「せめて体を拭いてから俺の寝室に来てくれ。地面がぬかるんでるだろ」
ナイアードの体からぽたぽたと垂れる水で俺の部屋の地面がそれを吸ってしまっている。
「まあまあ。マスター。そんなことはいいから。大発見だぞ。なんと湖の中にスポーンブロックが見つかったんだ!」
「スポーンブロック!? マジか。で、それは友好的なやつか?」
「うん。そうだぞ。私じゃ起動できないからマスターについてきて欲しいかなーって」
「うん、わかったすぐに行くってバカ野郎」
思わずノリツッコミをしてしまった。
「俺は人間なの。水中で呼吸できないんだよ」
「んー。でも、私じゃスポーンブロックを回収も起動もできないからなー」
ナイアードは頭を悩ませている。いくら頭を働かせても現状で水中に行く手段が見つからないので、この話は結局流れた。
湖底のスポーンブロック。気になるけど、現状では調べられないか。俺が水中に潜れる方法が見つかれば、そのスポーンブロックを起動できたのにな。
そんな取らぬ狸の皮算用していると、メタモルフたちが帰って来た。
「ご主人君。ただいま。ねえ、これを見て」
ベテルギウスがマッピングした地図を俺に見せてきた。
「この地点に下へ降りる階段を見つけたんだ」
「下へ降りる階段。なるほど。このダンジョンは更に下に階層があるのか」
ダンジョンの入口……というか、俺が無理矢理穴を開けた地点から、かなり入り組んだところに階段があった。
「流石にご主人君に黙ってこの下に進むのはまずいかなと思って撤退してきたんだ」
「そうか。報告ありがとう……そうだな。この階層も調べ尽くしたんだよな?」
「うん。結局、見つかったのは、ドライアッド、メタモルフ、ナイアードのスポーンブロックだけだったね」
「ドラゴンのスポーンブロックがない。ということは、恐らくドラゴンはこの下から出現しているってことか?」
「多分ね。数は少なくなってきたけど、ドラゴンは沸いているからねえ」
俺は考えた。このまま第2層を目指すべきかそうでないかを……第1層をこれ以上探索してもリターンは見込めない。けれど、第2層の探索を始めたら、なにか良いものが見つかるかもしれない。
「ベテルギウス、お前は第2層に行けると思う?」
「わからない。ドラゴンと同程度のモンスターまでだったら、安全に処理できると思うけど」
「まあ、その感覚も大分おかしいけどな」
ドラゴンはかなりランクが高いモンスターだ。そう簡単に倒せるこいつらがおかしいと定期的に思う。
「うーん、まあ。お前たちは強いからなんとかなるだろう。ただ、次の探索の時は俺もついていく」
「ご主人君が? それはいいけど、数は少なくなってきてもドラゴンはたまに出るよ?」
「ああ。その時はきちんと守って欲しい。俺は穴掘りスキルを使ってダンジョンにショートカット用の通路を作る。そうすれば、メタモルフたちが探索する時にやりやすいだろ?」
「確かに。ちょっとこの地点まで行くのは通路が入り組んでいるかも」
というわけで、俺は内心ビビりながらも探索の効率をあげるために穴掘りでダンジョンを掘り進めようとした。
数回にわけて拡張工事を行った。その間にドラゴンに襲われかけたけど、メタモルフは相変わらず強いので、秒でドラゴンを撃退した。
「よし、開通した。これで、第2層に楽にいけるようになったな」
「殿。かたじけない」
「ああ。探索はお前らにばかり任せているからな。俺にも少しは手伝わせてくれ」
実際のところ、俺には穴を掘ることくらいしかできない。特に知識も技術もあるわけでもないし。
「とりあえず、今回のところは帰還して、次回の探索から第2層の探索を始めよう」
こうしてダンジョン探索を終えた俺たちは、拠点へと戻った。メタモルフたちはドングリをもぐもぐ食べて、俺はキノコで料理を食べる。
ナイアードのスポーン地点でなんとなく回収した湿った石をキノ爺のいる部屋に置いてみた。そうすると部屋が良い感じの湿度になりキノコの成長速度が増したのだ。
何がどこで役に立つのかわからない。なんでも拾ってみるもんだな。
食事を終えた俺は疲れた体を癒すためにベッドに横になった。とりあえず、現状の抱えているものを挙げてみるか。
・友好的ではない羊モンスターのスポーンブロックの有効活用法
・湖底の友好的なスポーンブロック
・ダンジョン第2層の探索
第2層に関しては、俺がやるべきことじゃない。メタモルフが成果を上げてくれるまで待つしかない。となると解決しないといけない問題は羊と水中に潜る方法か。
素人がいきなりダイビングしても危険だからな。仮にダイバースーツを何らかの方法で手に入れたとしても、俺にはダイビングの経験がない。となると……本格的にどうしようもないな。
それじゃあ、羊のスポーンブロックの有効方法を考えるか……
色々と考えた結果、俺はベッドの魔力に抗えずにそのまま眠ってしまった。
◇
「殿! 起きて下さい」
「ん……どうした。シリウス」
俺はシリウスに起こされた。最近起こされてばっかだな。たまには自力で起きたい。
「第2層……探索にでかけましたが、あそこは魔境過ぎます。メタモルフ2体では手に負えません」
「なんだって」
これは何の悪い冗談なんだ。ドラゴンより強いメタモルフ2体で手に負えない? いや、シリウスは冗談を言う性格ではないな。俺は彼女の話を真剣に聞くことにした。
「まず、ドラゴンのスポーンブロックを発見しました。そして、ドラゴンがどうして第2層から上がってきたのかその理由もわかりました」
「それは一体どういう……」
「ドラゴンは第2層では生態系の最下層に過ぎないということです。強い捕食者に追いやられて逃げてきた個体。それが第1層に住み着いていたんです」
「ドラゴンより強い捕食者……?」
「ええ。恐らくは我々メタモルフ種より少し弱いと思われます……が、数が多い。せめて、こちらも同等の戦力が後3体は欲しいです」
「そうか。数の暴力か」
となると、食料生産の拡大をしないといけない。食料が増えれば、その分仲間を増やせる。それが、そのまま戦力に繋がる。
なるほど……
「わかった。じゃあ、今日から探索は一旦中断だ。戦力が拡充するまでは、メタモルフは拠点の警備をして欲しい」
「御意」
第2層の探索ができない以上は、今のところはダンジョンを探索する意味がない。折角、ショートカットを作ったのにもったいない気がするけれど。まあ、とにかく、食料を増やす手段を考えないとな。
◇
「はい! 集合! シリウス、ベテルギウス、プロキオン。それぞれ好きな食べ物言うんだ」
「拙者はドングリ」
「我はキノコ」
「アタシはローストビーフ」
「おい、ベテルギウス。お前ふざけてるのか。こんな状況でローストビーフを作れるわけないだろ」
そもそもこいつはローストビーフを食ったことがあるのか。生まれて間もないはずだし、どこで食ったんだよ。
「えー。でも前世で食べた時は美味しかったけどねえ」
「前世って何だよ……」
「うっすらと覚えているんだよねえ」
確かに。こいつら生まれた時から言葉をしゃべれるんだよな。ってことは、前世の記憶があってもおかしくないのか?
モンスターの生態とかよくわからんな。どうして、スポーンブロックからでてくるのかも謎だし。
「まあ、とにかく。メタモルフの好みもバラバラってことがわかった。つまり、特定の食料を増やしてもしょうがないってことだな!」
例えばドングリの生産効率を上げたところでドングリが嫌いなメタモルフを引いたら、その個体が可哀相なことになる。
ということは、やっぱり、満遍なく色んな食料が必要か。余計に厄介だな。
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