第14話 友好的ではないスポーンブロック

 今日も俺は穴掘りをする。拠点の広さはなんぼあっても良い。そう思って通路を作っているとなにか硬いものにぶち当たった。


「これは岩盤か……? うーん。迂回しないといけないか」


 流石の俺も岩盤を砕くだけのパワーを出せない。穴掘りで掘れるのは地面だけである。


 でも、岩盤が特徴的な模様をしている。しかも、自然にできたものにしては、随分と綺麗な平面である。俺はこの謎の物体を正体を知りたくなったので周囲の土を掘ってみた。


 その結果、発掘できたのは——


「うわあ、友好的ではないスポーンブロックだ!」


 俺がその存在に気づいた瞬間、スポーンブロックが光って、その中から巨大な羊が出てきた。


「ンメェエエエ」


 友好的ではないスポーンブロックは2種類の状態にわけられている。稼働状態と最大稼働状態。つまり、友好的なスポーンブロックと違って停止させることができない。


 幸いにもこれは稼働状態だ。だが、人間である俺の手を加えれば最大稼働状態になる。そうしたら、もの凄い速さで人間に"友好的ではない”モンスターが大量に発生してしまう。


 こちらに敵意剥き出しの羊のモンスター。ざっざ前脚で助走をつけている。


 まずい。これは突進が来る流れだ。逃げないと。


 羊が突進してきた。通路の方向に逃げたとしても絶対に羊の方が脚が早い。俺はすぐ様、通路の横に穴を掘って避けた。


 突進を始めた羊は急に方向転換ができない。そのまま通路を突っ走っていく。


「ふう……なんとか一時しのぎはできたか」


 俺は、すぐさま、穴掘りスキルの穴埋めの機能を使ってスポーンブロックを埋めた。スポーンブロックそのものは停止することはできないが、スポーンブロックの四方八方が塞がっていれば、モンスターを出現させるスペースがないので、実質的な停止、封印することができる。


 しかし、方向転換をした羊が戻って来てこちらに来た。まずいな。こうなったら救援を呼ぼう。俺は指笛を吹いた。


 俺が危機的状況に陥ったら吹くようにしているものだ。これで拠点で見張りをしているメタモルフに俺の危機が伝わる。狼は耳がいいので、俺の位置を特定して助けてくれるはずだ。


 それまで、俺は羊の攻撃を持ちこたえる。通路を穴埋めで塞いで塹壕ざんごうに似たスタイルで隠れる。


 しばらくの間は土の壁が俺を守ってくれる……ドスンと音と共に俺の周囲が揺れる。パラパラと頭上の土が落ちてくる。くそ。羊の野郎め。俺が隠れている壁に突進してきやがった。


 この土の壁が破壊されたら一巻の終わりだ。頼む。メタモルフ。早く来てくれ。


「主! 我が今助けます!」


 土壁の向こうから声がする。この声はプロキオン。間に合った。


 それからはものの数秒で羊と思われる甲高い悲鳴が聞こえた後に、静寂が訪れる。


「主ー! 主ー! どこですかー? 我に姿を見せてください」


 俺は穴掘りで土壁を破壊した。俺の姿を確認したプロキオンは俺の胸にダイブしてきた。


「主! そこにおられたのですね。良かった。姿が見えなかったから、てっきりあの羊に食われたものかと」


「あはは。いくら凶暴な羊でも草食動物なんだから、人間を丸のみするのはありえんだろう。多分」


 プロキオンの傍らには、首筋から血を流してぴくぴくと生々しく動いている羊の姿があった。


「それにしても美味そうなモンスターですね」


「ああ。羊肉は食えるからな」


 ドラゴンは多分、爬虫類に分類される。つまり、これは哺乳類に分類されるのか。貴重な哺乳類の肉か。


「まあ、この肉をどうするかは、拠点のみんなで話し合って決めよう」


 というわけで、俺とプロキオンはもう既に死んでいる羊を拠点へと持ち帰った。


 道具生産チームのマキとアサが丁度起きていたので、この2人に話をしてみよう。


「おお、大きい羊ですね。それ、ご主人様が仕留めたんですか?」


「いや、違うよマキ。俺じゃなくてプロキオンがやってくれた」


「だと思った。戦闘力よわよわのお兄さんにそんなデカい羊倒せるわけないよねえ」


 アサは相変わらずだな。


「それにしても、結構立派なもこもこな羊毛があるね。これも私たちで加工できるよ?」


「本当か? アサ」


「うん。でも、刈り取る道具があればだけど……」


「ああ。それなら大丈夫。ドラゴンの骨を削って作ったナイフがある。これで毛を切ってみよう」


 というわけで、俺は羊毛を刈り取ってみた。流石に金属製のハサミに比べたら切れ味は悪いものの、刈り取れないことはない。ぎこぎこと羊毛を刈り取っていく。


「ふう、この作業も大変だな」


「主。我も手伝いましょう」


 プロキオンが人間形態に変身して、ドラゴンの骨のナイフで毛を切っていく。


「ふう。まあ、こんなもんでいいか」


「お疲れ様ー。羊毛は私が預かっておくね」


 俺はアサに羊毛を渡した。彼女に渡しておけばきちんとした製品を作ってくれるだろう。


「ご主人様。材木と薪を合わせて肉焼きセットを作りました」


「おお、ありがとう」


 マキが作ってくれたのは、燃料用の薪と肉を刺して焼く木の串だ。


「よし、それじゃあ、これで焼き肉をするぞ」


 俺は薪を燃やして切り取った羊肉を串に刺して焼き始める。人間形態のプロキオンも手伝ってくれているが……プロキオンの口の端から涎が垂れている。


「まだ焼けてないぞ」


「うう、わかってます」


 いくらメタモルフが多少の生食に耐えられるとはいえ、やはり焼いた方が食の安全が確保される。そういうところもしっかり教えておかないとな。こんな医者がいない状況で食中毒とかになったら笑えない。


 羊肉特有の臭みが混じった煙が立ち込める。天井に小さな穴をあけて煙の逃げ道を作ってはいるものの、やはり環境がほぼほぼ密室なので煙たいのはしょうがない。


「そろそろ焼けたな。よし、塩コショウをかけて食べるぞ」


「はい」


 焼いた羊肉に高い打点から塩コショウをファサァ……。そして、食べる。


「ふむ。美味い。ドラゴンの肉とはまた違った味わいだな」


 羊特有の臭みはあるけど、しょうがない。俺は別に料理が得意なわけじゃないし、そもそもこの環境で臭み消しができる材料があるのかと言われたらなさそうだしな。


「とりあえず、残った肉も焼いておくか。探索から帰って来たシリウスやベテルギウスにも食べさせたいし」


 生肉だと足が速いけれど、焼けば多少は持つ。あの2人がいつ帰ってくるかはしらないけど、とにかく焼いてしまえばいいんだ。


「ところで主。この羊はどこから現れたのですか?」


「ああ。穴掘っている時にスポーンブロックに当たってな。それが友好的ではないやつだったから、襲われたってことだ」


「なるほど……ということは、この羊はやろうと思えば無制限に増やせるということでは?」


「そうだな。ただ、友好的ではないスポーンブロックは取り扱いに注意が必要だな。なにせそもそもの機能に停止がついていないし。お前らメタモルフのせいで感覚が麻痺しているけれど、この羊だってかなり強いはずだ。そんなやつが大量にいたら拠点が崩壊しかねない」


 あの土壁に突進された時の衝撃。かなり怖かった。俺に直撃したら……下手したら内臓破裂してたかもな。


「ふむ。我にとっては脅威にならないので、飼育してみるのも手かと思いましたが。確かに何かの手違いで羊が暴走して主に万一のことがあったらと思うと気軽に使えるものではありませんな」


「ああ。羊毛が必要になった時、食料が足りない時にはお世話になるかもしれないが……常用するにはきっちりとした管理体制が必要だな」


 だが、羊毛と肉を安定して供給できるリターンはでかい。スポーンブロックの有効方。考えてみるか。

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