第13話 通路工事
覚醒者のリーゼントを無事に退けた俺たちは、この戦いで得た問題点を話し合うことにした。
食料生産班のドライアッドがいる場所で会議することにする。なにせ、ここにいるみんなにも関わる話がある。
「さて、リーゼントとの戦い。それに無事に勝利できたけど、俺たちはもっとあいつに楽に勝てたはずだ。なぜ苦戦してしまったのか。それはプロキオン。彼女がリーゼントの射撃を避けることができなかったからだ」
俺は周囲を見回す。大体ことのあらましはみんなに伝わっている。ドライアッドたちはシュンとしてしまった。
「別に俺はドライアッドたちを責めるつもりはない。お前達はこの場から動くことができない。だから、プロキオンが後方にいるドライアッドを守るために射撃を避けられなかったのは仕方のないこと。むしろ、それを想定できなかった俺たち全員に非があると言える」
俺は樹の枝を持って地面に落書きをする。
ダンジョン
┻━━□ ←ドライアッド
↑
戦場
「いいか? 俺たちが戦っていたのはドライアッドたちがいるこの四角の場所の前。ここが言わば拠点の入口。そして、拠点から体感800メートルくらいの地点にはドライアッドのスポーンブロックを拾ったダンジョンがある。それはいいな?」
まあ、本当に俺の体感だから、800メートルは根拠のない数字だ。実際はもっと短いかもしれないし、長いかもしれない。
「俺はダンジョンの近くはモンスターがいそうで、その生活音が嫌だから拠点を遠くに移動した。しかし、あんまり遠すぎても俺の体力が持たなかった。だから、丁度いい塩梅のここに拠点を構えたわけだ」
今にして思えばファインプレーである。危険なドラゴンがいるかもしれないところの近くに拠点を作りたくない。
「当然、俺は真っすぐ掘ったから通路も真っすぐ。特に曲げる理由はなかったから。だから、ダンジョン配信者も真っすぐやってくる。となると、戦場の通路とドライアッドも真っすぐ線を引けてしまう。だから直線の射撃をされたら、回避できなくなってしまった」
まあ、当たり前の話を長々と話した。これは拠点の構造となぜそんな造りになっているのかの確認だ。その前提を全員に共有した上で話を進める。
「つまり、この問題を解消する方法は2つだ。1つ目。それはドライアッドに移動してもらう」
俺としてはこの方が楽で済む。しかし、食料生産班のリンは渋い顔をしている。
「オレは反対だな。ドライアッドは確かに動ける。でも、1度根付いたら、動けなくなってしまうのさ。もう1度動けるようになるためには1度張った根を切り離さないといけなくなる。再度、根を張るのにもエネルギーが必要だし、引っ越しするだけで生産効率が落ちてしまう」
「うん。確かにそうだな。最初に俺がドライアッドたちとダンジョン探索行こうって話になった時に嫌がったもんな」
実際のところ、ドライアッドの存在は生活の基盤だ。いくら俺が穴を掘れると言っても、メタモルフが強いからと言っても、木とそれになる果実がなければ生活できない。
だからこそ、ドライアッドの意見は最優先にしないといけない。それに比べたら……俺が大変になるのは、受け入れなきゃならないことだな。うん。
「となると……2つ目の方法だな。一旦、通路を封鎖して別の通路を作る。それも入り組んだ形のな」
俺は再び落書きを始めた。
ダンジョン
┻━┓□ ←ドライアッド
┃┗┓
|戦場|┛
「イメージとしてはこんな感じだ。従来の真っすぐ通れる通路は封鎖する。そして、遠回りの通路を作って、そこを戦場にする。その通路のところに見張り用の部屋を作って、メタモルフを配置。そこを通って拠点の入口であるドライアッドの部屋に繋ぐ通路を作る」
まあ、本当にざっくりとした見取り図だ。多少線のがくつきやズレがあるのは許して欲しい。
「どうだ? シリウス。これならいけそうか?」
「ふむ。殿の考えは良いものですね。多少ダンジョンへの探索に遠回りになってしまいますが、みなの命を守るためならば致し方ありません」
シリウスはベテルギウスとプロキオンにも目配せをする。2人共頷いていて同意してくれた。
「ありがとう。それじゃあ、早速通路を工事する。一応見張り用の部屋となる部分にはマキの薪を置いておく。灯りが必要になったら使ってくれ」
というわけで、方針が決まったところで、俺は拠点への通路の改築工事を始めた。
とりあえず物差しとなるものが必要だ。その基準となるものに真っすぐな材木を持ち出して来た。
この材木2本分。その地点の距離から通路を掘り進める。折り返す時に、材木2本分の長さから逆算すればドライアッドの部屋につくはずだ。
地点がズレたらドライアッドの部屋に開通できない可能性があるからな。まあ、この辺の感覚は大体でいいか。後で微調整もできるしな。
◇
戦場となる見張り用の部屋を作るのに大体1日。見張り用の部屋から入り組んだ通路を作って拠点入口のドライアッドの部屋に開通させるのに1日。まあ、これも相変わらず正確な時間がわからないから、眠って起きたら1日カウントだけどな。
なんとか、最初の設計通りの通路と部屋が完成した。よし、これで侵入者対策はばっちりだ。
「おお、開通したのか。ご主人君。お疲れ様」
ドライアッドの部屋にいたのは、人間形態に変身したベテルギウスの姿だった。彼女は手に何かを持っている。これは焼き魚か? 俺の視線に気づいたのかベテルギウスが照れ臭そうにする。
「ああ、これか。ご主人君に差し入れしようと思ってな。ナイアードがくれた魚を焼いてみたんだ。ほら、アタシも一応は人間になれるだろ? だから、こうしてご主人君の雑用というか手伝いみたいなこともできるんだぞって証明したかったんだ」
「ああ。まあ、確かに犬のままだったら焼き魚なんて作れないからな」
「犬じゃなくて狼だ! いくらご主人君でも間違えるのは許さない!」
「ああ、すまん」
怒られてしまった。俺にとっては些細な違いだけど、メタモルフにとっては大きな違いか。まあ、俺も人間だけどチンパンジーと間違えられたらちょっと複雑な気持ちになる。それと同じか。
「とにかくありがとうベテルギウス」
俺は焼き魚を口にした。味気ない味。多分、調味料とかそういうのは使ってないんだろう。配信者が落とした荷物の中にあるから自由に使っていいのに。それにちょっと焦げているから料理があまり得意ではなさそうだな。でも……
「どう? ご主人君。美味しい?」
「ああ。美味しいよ。ベテルギウスが一生懸命焼いてくれたもんだからな」
「へへ、やった!」
俺は彼女の思いやりの心が嬉しかったんだ。それに比べたら味なんて些細なことだ。
通路の工事も終わり、食事も済ませた俺はそのまま風呂に入り、寝室へと向かった。疲れたからもう寝よう。そう思っていると……俺のベッドを占領している1匹の犬じゃなかった狼がいた。
「おい、シリウス。お前なにしているんだ。それは俺のベッドだぞ」
「あ、殿。そろそろ殿が眠りにつくころだろうと思ってベッドを温めておきました」
「そうか……」
シリウスがベッドからどいた。ベッドには思いっきり彼女の抜け毛が落ちている。でも、シリウスは悪びれる様子もなく、にっこにこで尻尾を振っていた。その表情を見ていると憎めないし怒る気にもなれない。
なんか複雑な気持ちだが、俺はその抜け毛をはらってからベッドに入った。連日続いた穴掘りの疲れが溜まっていたから、目を瞑るなり俺の意識は薄れていき、そのまま泥のように眠ってしまった。
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