第8話 もふもふ3姉妹
メタモルフと一緒に向かうダンジョンの道中。俺はふとメタモルフにある疑問を投げかける。
「なあ、メタモルフ。もし、お前に仲間ができたら識別の名前をお前につけることになる」
「ふむ。そうですな。今まではメタモルフは拙者しかいなかった故に名無しで問題なかった。しかし、数が増えればそうはいきません」
「なんて名前がいいのか希望はあるか?」
うーんとメタモルフが唸る。モンスターはあんまり自分に名前をつけることにこだわりがない様子である。個体を識別できればそれで良いって考え方なんだろう。
「殿が授けてくれた名で構いませぬ」
「そうか」
それが1番困るんだよな。名前が思いつかないから訊いているわけだし。「夕飯何食べたい?」ってお母さんに訊かれたら「何でもいい」とは言ってはダメだ。絶対に。それと同じだ。
「殿。ダンジョンに着きました。私が先陣を切って入ります」
「よし、行くぞ」
俺はマキから貰った薪に火をつけてダンジョンに入った。ダンジョンでは灯りが重要だ。特に俺たち人間は夜目がきかないからな。
「今回は別にドラゴンの討伐が目的ではない」
まあ、肥料が付きかけているのも事実だけど、まだ急いで狩る必要はないだろう。
「今回の目的はメタモルフの増員。戦力を増やしてできることの幅を増やすんだ。というわけで、メタモルフのスポーンブロックがあるところまで行くぞ」
俺はメタモルフを後ろに下げてスポーンブロックがある地点を目指した。警戒はメタモルフがしてくれる。いざとなれば、戦闘はメタモルフに任せるし……俺は何もしなくていいな。
「よし、スポーンブロックの地点についたぞ」
相変わらずスポーンブロックは部屋の中央に鎮座している。俺はスポーンブロックを起動させてしばらく待った。
「まだかなまだかなー」
正直、ドラゴンが出現するダンジョンには1秒だっていたくない。メタモルフが強すぎるせいで感覚がマヒしているけれど、ドラゴンは本来なら一般人が勝てる相手ではない。
たまたま俺は友好的なメタモルフと先に出会えていたから良かったものの、先に出会っていたのがドラゴンだったら俺はそこで死んでいた。
こんなおやつ感覚にドライアッドに肥料として与えて良い存在ではないのが本来のドラゴンの立ち位置である。というか、本来のドラゴンは倒すのが無理ゲーすぎるからこその肥料としての恩恵が凄いんだろうけど。
「オォオオオオォオオ」と通路からなにかが反響する音が聞こえる。
「な、何の音だ?」
「ああ、殿は初めて聞きますか。ドラゴンの鳴き声」
「ド、ドラゴン!?」
そのドラゴンの鳴き声とやらがこちらに近づいてくる。マ、マジかよ。俺、腰抜かしちゃうよ?
「殿。心配はご無用。拙者が命にかえても守ってみせます故」
「いや、命にかえられたら困るって」
お前が死んだら誰が俺を守るんだよ。そんなことを思っていたら、暗がりからドラゴンが顔をにゅっと覗かせた。
「アォォオオオォオオン!」
先手必勝と言わんばかりにメタモルフがドラゴンの首に噛みついた。ドラゴンが抵抗する。しかし、メタモルフはドラゴンの皮膚を噛みちぎる。首の皮膚をちぎられたドラゴンは激痛からか暴れ回りダンジョンの地形を削っていく。
「わわ……や、やばいって。メタモルフ」
「ぺっ。大丈夫です。殿。後、2、3発攻撃を当てれば倒せます」
その2、3発の攻撃の隙に俺に流れ弾が来たらどうするんだよ。俺はがくぶるしながらメタモルフの戦闘を観察していた。
ドラゴンが尻尾を振り回してメタモルフに攻撃を当てようとする。しかし、メタモルフはそれをジャンプして躱す。そして、前脚の爪でドラゴンの目玉を引っ掻く反撃に出た。
「オォォオオオォオオ!」
「これで止めだ!」
メタモルフは、空中でくるりと回転して、胴体をドラゴンのアゴにクリーンヒットさせた。空中タックル……! ドラゴンは背後の壁に叩きつけられて倒れてしまった。
「やりました。殿!」
「勝ったのか……」
「ええ、無傷で余裕ですよ。こんなもん」
メタモルフ。お前が敵でなくて良かったよ。
俺がドラゴンに気を取れている間に、スポーンブロックから目を反らしていた。そして、スポーンブロックに目をやるとそこにいたのは……2体のメタモルフだった。
うげ。しまったー。やりすぎた。1体追加で良かったのに、2体もスポーンさせてしまった。俺は慌ててスポーンブロックを停止させた。良かった。3体目の出現は阻止できたようだ。
「我はメタモルフ。主よ。今後ともよろしく」
「へへ、アンタがアタシのご主人かい? 良い面構えしてんな。まあ、よろしく頼むよ」
また個性的な口調のメタモルフが出てきたもんだ。
「えっと。一応、性別とか聞いても大丈夫かな? 名前付ける参考にしたいし」
「我は女だ」
「アタシも女だ。へへ」
うーん。メスとメスとメスが被ってしまったな。まあ、スポーンブロックさえあれば繁殖の問題とかはないし、気にする必要はないか。モンスターの性別なんてフレイバー程度の要素しかないし。
「まあ、とりあえず自己紹介しておくか。俺は伊藤 大地。この近くに拠点を構えている者だ。折角倒したドラゴンがいるし、これをみんなで解体してから運ぼうか」
「あい、わかった」
「おっけー」
「御意」
こうしてメタモルフが牙や爪を使ってドラゴンを解体。俺がその部位を拠点に運ぶことで、またドラゴンの肉片を大量に入手することに成功した。あんまり肥しを入れすぎてもドライアッドが肥料焼けを起こすだろうから、ほどほどに追肥しておくか。
◇
というわけで、メタモルフのスポーンブロックの回収にも成功したので、あのダンジョンに俺が行く必要はほぼほぼなくなった。もうドラゴンと対峙するなんて恐怖体験はこりごりだ。
「さて、メタモルフたち。お前達に名前をつけたい。なにか妙案があるか?」
「我は主の思うままの名を受け入れる」
「アタシもご主人君がつけてくれるんだったら、その方がいいかな」
こいつら……名前に対して主体性がなさすぎだろ。いいのか? しょうもない名前を付けても。つけるぞ? 本当に。
「うーん。名前かー」
こいつら、別にドライアッドみたいに個体ごとに特徴的な果実を結実するわけでもないしなあ。そこから取るってことはできなさそうだ。
「ご主人様。差し出がましいようですが、私が彼女たちの名前をつけるのはどうでしょうか?」
両腕が復活したマキが話に入って来た。
「おお、それは助かる」
「こほん。では、失礼します。まずは最初の一人称が拙者の方はシリウス、次に我の方はプロキオン。そして最後のアタシの方はベテルギウスというのはどうでしょうか?」
「冬の大三角形の構成するα星か。うん、まあイメージ的には悪くないかな。みんなはどうだ? この名前でいいか?」
「うむ。殿が命名を任せた者がつけた名に不満などなかろう。拙者の名はシリウス。殿に忠義を誓う者よ」
「我はプロキオン。主の命に従う」
「アタシはベテルギウスだ。ご主人君のために戦うよ」
うん。なんか俺が考えた名前よりかは随分としっくりくるな。
「ありがとうマキ。みんな気に入ってくれたみたいで助かった」
「えへへ、ご主人様のお役に立てたようで良かったです」
頭を掻いて照れるマキ。満足したのか持ち場に戻っていった。
「よし、それじゃあ、シリウス、プロキオン、ベテルギウス。お前たちは1体だけ拠点に見張りを残して、2体はまたあのダンジョンを探索してくれ。そしてなにか使えそうなものがあったら、俺に報告するんだ。見張りとダンジョン探索は交代制で行うことにする」
「了解!」
これで、探索中に見張りが手薄になることもなくなったな。また例の配信者みたいなやつが現れるとも限らない。そう考えると逆に3体出して良かったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます