第9話 ダンジョン縛りプレイヤー
現在はメタモルフの稼働状況は、シリウスとプロキオンがダンジョン探索をしている。つまり、残ったベテルギウスが拠点の見張りをしてくれている。
今日の食事はキノコとドラゴン肉の炒め物だ。これに調味料を加える。ジュワっと溶けたバターがキノコに染みこみ、ドラゴンの肉を醤油で味付け。ドラゴンの脂と醤油が混ざったエキスもキノコに吸収されて実にうまそうに色づく。
完成したそれを食べれば……ウンマイ! やっぱり肉は調味料とあわせてこそ輝く。こんな美味い肉になれたんだから死んだドラゴンも少しは浮かばれることだろう。
まあ、それでも……やっぱり、牛肉や豚肉も食べたい気持ちはある。ドラゴン肉は鶏肉に近い感じだし、美味いのは認める。でも、牛や豚が恋しくなるのが人間の
「それにしても……」
食事を終えた俺はこの前来た配信者の持ち物にあったメモ帳を見た。そのメモにはわけのわからない記号やらどこかわからない地図が描かれている。
問題はそこじゃない。メモ帳の最後のページに気になることが書かれていた。
【星影公園にて地底人を発見!? カップルが目撃。近くにダンジョンがあるのかも?】
星影公園ってどこだよ。そもそもなんで公園に地底人がいるんだよ。わけわかんねえ。
「!?」
ベテルギウスがビクって反応する。そして、すぐさま、俺の前にやってきた。
「ご主人君。誰か来る」
「誰かって?」
「それはわからないね。ただ、人間。それもメスのにおいだね」
人間だって。まさかまた前みたいに配信者がやってくるってわけじゃないよな?
俺は身構えた。まあ、俺がいたところでベテルギウスの役に立てるかどうかはわからないし、戦力としては微妙だろうけど……とにかく、自分の身は最低限守れるように気を引き締めよう。
「一応、相手が人間ならば話し合いの余地はあるかもしれない。ベテルギウス。変身できるか?」
「余裕よ!」
ベテルギウスが前転すると人間の女性に変わった。赤い髪と瞳の少女。身長は俺の胸あたりまでしかない。
「来るぞ。ご主人君!」
暗闇から現れたのは……コートを着た女だった。目元が無駄に赤くてマスクを被っている。前髪がすっかすかのいかにもな感じの女だった。
「はーい。ダンジョン縛りプレイ配信者のレオナでーす」
おいおい。こいつ配信とか始めたぞ。ダンジョンに来る奴は配信をしなきゃいけない法律でもあるんか? いや、そんなことはどうでもいい。まずい、隠れなきゃ。配信画面に俺の顔が映るわけにはいかない。なにせ俺は世間的には脱獄した死刑囚だからな。
俺はすぐに物陰に隠れた。ベテルギウス。上手いことやってくれよ。
「今日はこの未知のダンジョンで……配信します。えへへ。どんなモンスターが来るのか楽しみだなあ」
「おい、そこのお前。止まれ」
レオナと名乗った配信者にベテルギウスが制止をかける。しかし、レオナはニヤっと薄気味悪く笑った。そして、コートに手をかけて、ばっと両手を広げた。露出狂がよくやるアレ……コートの中身は、着衣の状態で胴体を縛られているというわけのわからない状態だった。
「え?」
ベテルギウスが戸惑っている。それはそうだ。俺も状況が飲み込めない。
「ほら。みんな見てー。縛られている私を見てー」
想像していたより数次元違う程のやべえやつが来た。二次元だとか三次元とかの話じゃない。もう次元の桁すら違うレベルで理解が追い付かない。
「う、うわああ。な、なんてもの見せるんだ。この破廉恥女ァ!」
ベテルギウスがこちらに向かって逃げ出してきた。まずい、こっち来るな。あの変態がお前を追ってこっちに来たらどうするんだよ。
「ご、ご主人君。助けてぇ」
ベテルギウスが俺の胸に飛び込んできた。なんとかしてやりたいけど、俺より圧倒的に強いベテルギウスで勝てないなら、俺に手が負える相手ではない。
「あらら。逃げちゃったねえ。これは私の勝ちだね」
なんか勝利宣言しているし。もう、お前の勝ちでいいからどっかいってくれ。
「それじゃあ、早速このダンジョンを探索したいと思いますー!」
変態がこっちに近づいてくる。まずい。あいつ、俺たちの拠点をダンジョンと勘違いしてやがる。なんとか撃退しないと。あの変態の持っているスマホ。その配信画面に俺の顔が映ったら、その時点で終わりだ。
「ベテルギウス。戦えないのか?」
「む、無理ぃ……あんな変態に関わりたくないぃ……」
くそ、こんな時、シリウスとプロキオンがいてくれたら……せめて配信さえされてなかったら、俺が飛び出てなんとかできないこともないけど。
「ベテルギウス。一旦退くぞ。ここはドライアッドになんとかしてもらうしかない」
「う、うん。わかった」
俺たちは拠点の奥へと進んだ。道なりに進み、ドライアッド1期生が光合成しているエリアに辿り着いた。
「ワ、ワア……」
よりによって、今起きているのがドングリのドンか。あんまり頼りになる感じじゃないんだよな。
「ドン。侵入者だ。あいてはとんでもない変態女だ。お前、行けるか?」
「へ、変態……」
ドンがぶるぶると震えている。そりゃそうか。変態女と聞いて、「俺行けます」って言うやつも大概変態だからな。ドンには荷が重いってことか。
「ドン。なんでもいい。とにかく足止めしてくれ。ドングリ投げて気を逸らすとか、どんな不格好でもいい。時間さえ稼いでくれたら、また対処できる方法が見つかったり思いついたりするかもしれない」
「アァ……わ、わかった……」
足音が近づいてくる。まずい。変態が来る隠れなきゃ。俺はベテルギウスと共に更に奥へと進んで物陰に隠れた。
「おお、こんなところにドライアッドの群れが」
「ワ、ワア……」
ドンがドングリを投げて変態に攻撃する。
「痛っ……ふふ、必死に抵抗しているの? かわいいねえ」
ほとんどノーダメじゃねえか。変態が近づいてドンに自分の縛られている姿を見せつけている。
「アァ……」
地面に根を張っているドンは急に逃げ出すことはできない。一旦、張った根を引っ込めないと移動可能にならない。ドン。可哀想に。
「む、何奴!」
「シリウス姉様。どうやら侵入者のようだな」
シリウス! プロキオン! 戻って来てくれた。
「いやーん。狼可愛いー」
変態がモフろうとブロキオンに近づいた。しかし、ブロキオンが前脚で変態に強烈な"お手”を繰り出す。
「へぶし」
変態は顔を地面に叩きつけられて伏せてしまった。そのまま伏せたまま動けなくなった変態にシリウスとブロキオンが土をかけていく。こら、そんな変態を埋めるな。
「すまない。ベテルギウス。シリウスとブロキオンに、あの変態を埋めるなって伝えてくれるか? とりあえず、外に追い返せと」
「う、うん」
俺の言伝を聞いたシリウスとブロキオンは変態と変態が持っていたスマホを口に咥えて地上へと返してくれた。変態がどうなっかはしらないけど、まだ抵抗してないってことは気絶しているだけだろう。流石に死んではいないと思うし。
「はあ……なんとか助かった」
ドンがシリウスとプロキオンが帰ってくるまでの時間を稼いでくれなかったら、終わってたかもしれない。
それにしても……配信者が立て続けにやってくるってことは、この場所が割れてるってことか。ってことは、またこんなやべえ奴らがやってくるってこと? うーん、折角拠点を構えたのに引っ越すわけにはいかない。水源近くじゃないと命にかかわるからな。
となると……侵入してくる配信者を撃退するしかない。それに、俺の顔が映らないようにしないといけない。俺がここに身を隠していることがバレたら、絶対に警察がやってくる。それは避けたい。
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