第7話 もふもふとお風呂、そしてメスガキ嫉妬する
あのブンブンうるさい配信者が落としたものは俺の生活を一変させた。一気に技術革新が来たというか……まずは風呂に入れるようになった。
地下水源がある近くに風呂を作った。地面に穴を掘り、そこにビニールシートを被せる。そこに汲んだ水を中にいれる。その後、アルミの鍋で熱したお湯を入れて温度を調整すれば簡易的な風呂の出来上がりだ。
「おお、殿。
湯気に誘われてやってきたのはメタモルフだ。
「お前も一緒に入るか? メタモルフ」
「あ、いや。その……流石に男女一緒に混浴と言うのはその……」
「そうか。せっかく、お湯の中でマッサージしてやろうとしたんだけどな」
犬は常に四つん這いだから、疲れるだろうなと思って労ってあげようとしたのに残念だ。
「マ、マッサージ……殿。是非ご一緒させてください」
「そ、そうか」
メタモルフはお湯の中に入り、犬かきで俺のところまで近づいてきた。彼女の背中部分を毛並みに沿って撫でていると目を細めてうっとりしている様子だ。なんとも可愛らしい表情をする。
「は、はわああ……」
メタモルフがなんか変な声をあげている。満足しているようで良かった。
風呂からあがったメタモルフは体をぶるんぶるんと震わせて水分を飛ばした。俺も風呂から上がり、アサが作ってくれたタオルで体を拭く。
「ふう……久しぶりに風呂に入ったなあ」
配信者がやって来て荷物を落としてくれなかったらこんな快適な生活はできなかった。正に地獄で仏って感じだなあ。
まあ、欲を言えば今欲しいのは着替えかな。刑務所から出てきた時から一切着替えられていない。洗濯もしないし折角風呂に入っても服が臭くて汚かったら台無しである。
俺はドライアッドの2期生がいるフロアにやってきた。そろそろドラゴンの死骸の栄養が尽きてきたのかドライアッドの結実のペースが落ちてきている。また、メタモルフにドラゴンを狩ってもらわないとなあ。
「ぽわわー。大地さーん。ちょっとこっち来てもらってもいいですかー?」
「コットン。どうした?」
「わたくしのー綿花でーシャツを作りましたー良かったらこれを着て下さーい」
「おお、マジか。ありがとう」
正に欲しかったものが手に入った。まあ、下着類とかも欲しいけれど、贅沢は言ってられない。今はまだシャツだけでも着替えがあるだけマシだ。
「いえいえー。大地さんの服がくさかったのでーわたくしとしても着替えて欲しかったんですー」
「そうか。それはすまなかった」
こいつ、ぽわぽわしている癖に言っていることが辛辣だな。まあ、俺も臭い自覚があったからいいけど。
「大地さん。また綿花が結実したらなにか作りますよー。なにかリクエストがあればどうぞー」
「そうか。じゃあ、下着類も欲しいかな」
「わかりましたー」
コットンがくれたシャツを着て、今度は1期生のところに向かう。今起きているのはアサか。
「おーい、アサー」
「どうしたの? お兄さん? ……え? お兄さん……そのシャツなに?」
「ん? ああ、これな。お前の後輩のコットンが作ってくれたんだよ」
「わ、私以外の女が作った衣類を着てるの……え?」
「いやいや、何言ってんだよアサ。お前のタオルも十分役に立ってるぞ」
「…………」
なんか呆然としてて俺の言っていることが聞こえない様子だ。アサの手には……麻でできたシャツが握られている。
「ん? そのシャツはもしかして俺のか?」
「ち、違う! そんなんじゃないよ!」
「そうか。着替えはいくらあっても困らなかったら欲しかったけどな」
「そ、そうなんだぁー。まあ、お兄さんがどうしてもって私に頼み込むんだったら、あげないこともないけどね~」
良かった。いつもの調子を取り戻したみたいだ。
「ああ、どうしても欲しいな」
「ふふん。やっぱり、お兄さんは私がいないとなーんにもできないザコお兄さんなんだねぇ~」
上機嫌になったのはいいけど、やっぱり生意気でムカつくな。まあ、実際生活をかなり助けられている身としては何も言えないのが辛いところだ。
◇
今日も暇つぶしに穴を掘る。が、そう都合よく役に立つものも発掘できないし、見つかったものは2つ目の水源。まあ、水は生命線だから色んな箇所にある方が便利ではあるな。でも、1つ目の水源ほどの感動はない。俺も贅沢になったもんだな。
さて、穴を掘り続けて腹減ったし、そろそろ拠点に帰って飯を食うか。
拠点についた俺は、アルミの鍋に地下水を組んで煮沸した。地下水はきっちりと煮沸しないと危険だからな。
煮沸が終わったら、収穫した豆を入れてスープを作る。配信者の荷物の中に調味料があったから、それで味を整えられるのは本当にありがたい。
しかし、具材が豆だけというのも悲しい。しかし、他に具材がないから仕方ない。ドラゴンの肉も考えたけど、メタモルフの負担もそれなりにあるからな。
それに、まだ配信者が持ち込んできたレトルト食品に手を付けるのは勿体ない気がする。このサバイバル生活では日持ちがするものなら、限界ギリギリまで保管しておきたい気持ちはある。いつ、何が起こるか分からない。それこそドライアッドの全滅だってありえる。そうしたら、食料がなくなって詰む可能性も考えられる。
そんなことを考えていると豆のスープがきちんと煮込まれて完成した。スープを少し冷ましてから飲む。うん、美味い。調味料があるだけでこんなに世界が変わるんだな。
「殿。美味しそうな匂いですね」
「お、メタモルフ。お前の分もあるぞ」
「おお、かたじけない。では、いただきます」
メタモルフは犬だから塩分が多すぎるものは与えられない。だから、俺のものとは味付けを変えてある。
「うむ。美味ですなあ。流石、殿。料理がお上手ですな。はっはっは」
「なあ、メタモルフ。話は変わるけど、いつもドラゴンを狩ってきてくれるよな?」
「ええ」
「そのダンジョンは探索しているのか?」
「まあ、ドラゴンを見つけるまではやってますなあ」
「ドラゴンは残り何体いるとかわかる?」
俺が危惧していることは、ドラゴンが全滅して肥料が枯渇することである。現状なんとかなっているのは、ドラゴンの肥料のお陰だ。それがなければ、ドライアッドの成長速度が低下して生活を支えられなくなる。
「さあ。それは拙者にもわかりかねます。ドラゴンのスポーンブロックも見つかってない故に無限に湧くかどうかの判断も拙者にはできかねます」
「そうか……」
ドラゴンのスポーンブロック。それがあるのが確定すれば、もっと効率よくドラゴンの素材を集められるというのに。
「なあ。メタモルフ。お前仲間が欲しいか?」
「え? それは、まあ拙者は本来群れで生活する種族故に欲しくないと言えば嘘になります」
「1人でダンジョンを探索するのも辛いだろ? メタモルフがもう1体いれば、ダンジョンも効率的に探索できるかもしれない」
メタモルフを最初にスポーンさせた時は食料の危機があったから、それを躊躇てしまった。でも、今は食料には若干の余裕がある。ならば、もう1体出すのも悪くはない。
「そうですね。もう1体いれば確かに拙者の負担は減るかもしれません」
「よし、それじゃあ、今度は俺もダンジョンに行く。メタモルフのスポーン地点まで一緒に行くぞ」
「御意」
正直、強力なドラゴンがいるかもしれないダンジョンになんか入りたくない。けれど、モンスターはスポーンブロックを起動できない。だから、人間である俺がダンジョンに潜る必要がある。
こんなことなら、メタモルフのスポーンブロックも回収しておくべきだったかなと思うけど……あの時は荷物がかさばるのを嫌ってしなかったんだよな。どうせ、1体だけでいいやって思ってたのもあったし。
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