第5話 ドラゴン最強(肥し的な意味で)
ドラゴンの栄養が良いものであった影響かリンゴは2個収穫することができた。リンから収穫したリンゴにカぶりつく。
「美味い。流石リン。こんなみずみずしくて甘いリンゴ食べたことない!」
「へへ、そうか」
空腹補正もあるだろうけど、それでもやっぱり元が良いから上手く感じてしまう。
「アボカドはまだ熟してないから食べられないけど……リンゴと一緒に置いておけば早く熟すと聞いたことがある」
空腹もマシになってきたことだし、俺もやるべきことはある。それはこの拠点の拡張だ。なにせもう1つ光る石を手に入れることができた。もう1つ部屋を作ることは可能である。
寝室は寝るためにあるから光源はいらないとして、もう1か所ドライアッドの育成場所を作ろうかな。
結局のところ同じ地点でドライアッドたちに根を生やさせても栄養を奪い合うことになってしまう。だから、この部屋にいるドライアッドはこれで頭打ち。これ以上増やせない。
「メタモルフ。ドラゴンの肉片ってもうないのか?」
「ですな。全て地面に埋めてしまいました故に」
「そうか。それだと、また
「それは拙者にはわかりかねます。でも、どこかしらに起動済みのスポーンブロックがあれば、また沸いているかと思います」
「うーん……それじゃあ、もう1体ドラゴン狩ってこれるか? 俺はその間に穴を掘る」
「御意」
こうして、俺はメタモルフに狩りをさせている間に別の部屋を作るために掘りをすることにした。狩りと掘り。見事な役割分担だな。
地面を掘る。とにかく掘る。それを続けていると柔らかい手ごたえと共に目の前に空洞が出現。その下を見ると水がそこそこ溜まっている。
「これは地下水か! 流石に飲料はできないけど。生活用水としては使えるかな」
まあ、穴を掘っていればいずれは水が出るだろうと思っていたけど、ようやく出たか。
この水を利用して風呂トイレ洗濯に活用したい。流石に俺の体は自分でもわかるくらい臭っている。まあ、トイレとかその辺にしてたからな。土掘って、そこに用を足して土を被せて処理するスタイル。拭くものもなかったし、ケツが痒いんだよなあ。
とりあえず、この水の利用方法は後で考えるとして、この近くにドライアッド用の部屋を立てるのはやめるか。この近くの部屋には風呂トイレを作りたい。ならば、また別の方向を掘り進めよう。
◇
新たに6体ほどのドライアッドを収容できるスペースを確保した。これで、メタモルフがいた地点にあった光る石を天井に取り付ければ……よし。後はこの地面にドラゴンの死骸を埋めればドライアッドが勝手に急成長してくれるはずだ。メタモルフの帰還が待たれる。
「まあ、でも。早いところ、スポーンブロック使うのもありか」
というわけで、俺はドライアッドのスポーンブロックで6連ガチャを引いた。結果は――
「よし、俺の名前は伊藤 大地だ。よろしくな! お前らの名前は、オレンジのレン。クリのマロン。材木用のザイ。大豆のソイ。綿花のコットン。樹液のメイプルに決定した。わかったか?」
「「「「「「はーい」」」」」」
それぞれが持ち場について根を張る。水分量が多いオレンジ。炭水化物が多いクリと大豆が手に入ったのが大きい。それにしても……ドライアッドって木の精だったよな? なのに、大豆と綿花は木ではなかったような気がする。まあ、細かいことを気にしたら負けか。
そして材木用のザイ……こいつは根っこさえ無事なら上部分はいくら切っても無限に生えてくるっていうやべえやつだ。マキから取れる木材は発火の危険があるけれど、ザイの木材は擦っても発火しない。その違いを意識して効果的に利用したいな。
そうこうしている内にメタモルフが拠点へと帰還してくれた。
「おお、メタモルフおかえり」
「殿! ただいま戻りました。命令通り、ドラゴン狩って解体してきました。これより運搬を開始します」
頼もしい限りだ。たった1体でここまでの戦果をあげてくれるのはありがたい。今はまだ戦力が必要な場面ではないからスポーンブロックでの量産はするつもりはないけど。
メタモルフが次々とドラゴンの肉片を運搬してくるので、俺はそれを受け取って地面へと埋めていく。これが肥しとなってドライアッドの成長を促進させるんだから本当にドラゴンさまさまだな。
「ふう、終わった」
「後はみんなの成長を待つだけですね。殿」
「ああ……そうだな。今日は疲れたし寝るか」
「殿。護衛のために拙者も一緒に寝てもよろしいですかな?」
「ああ。いいぞ」
俺は光源がない寝室用に作った部屋に入った。俺が横になると、メタモルフが添い寝する形で丸まった。もふもふの感触がこちらに伝わってくる。なんというか癒しだな。荒んだ地下生活におけるオアシスのようである。
俺はそのまま、もふもふに包まれて眠りの世界に突入した。
◇
翌日、またリンがリンゴを結実させていた。ドラゴンの肥料の成果は本当に凄いな。今はリンが眠っているようだから収穫は辞めておこう。流石に寝ている隙に取るのは失礼だからな。
「あ、お兄さん。おっはよー」
「アサ。今はお前が見張りか」
「うん。そうだよ」
「あれ? アサ。お前髪切ったか?」
ちょっと前に見た時は結構伸びていた気がするアサの髪の毛……というか性質的には葉っぱに近いものが短くなっている。
「おお、女子のそういう変化に気づくなんてさっすがー。それとも、私のことが好きすぎたから気づいたのかな? きゃはは」
「まあ、それでいいよ」
「ふふふ。サバイバル力よわよわのお兄さんのために、じゃーん。これ、タオルを作ってあげましたー」
「タオル!?」
アサがバーンとタオルを広げて見せた。確かにしっかりとしたタオルである。
「私の葉っぱは繊維質だって言ったでしょ? だから、それを抽出してタオルを作ったんだ。どうせ、ざこなお兄さんは加工技術なんて持ってないでしょ? だから、私がやってあげたんだ」
「ありがとう。アサ。大切に使わせてもらうよ」
正直言ってありがたい。これで体を拭くことができるし、物を縛ったりもできる。怪我をした時の止血にも使えるだろうし、これがあるだけでかなり快適さが変わる。
「どう? 私のありがたみがわかった? 本当にお兄さんは私がいないとなにもできないんだから。こんなくそざこお兄さんの面倒を見てあげられるのは私だけだよ。にしし」
俺はアサに感謝しつつ、昨日発見した地下水がある場所まで行った。タオルを地下水の中に入れて浸す。タオルが水を吸い上げて濡れた状態にする。そして、俺は服を脱いでから、頭の上にタオルを持って行きそれを思いきり絞った。
数日間シャワーすら浴びてなかった俺だが、ついに水浴びをすることができた。かなり冷たいけれど仕方ない。
その水浴びを数回繰り返した後に、タオルできっちりと体を拭いた。石鹸類がないので完全にサッパリというわけではないが、それでもごわごわした髪やら痒くなっている体がいくぶんかマシになった。
「あー……思いっきり温泉とかに入りてー……」
毎日風呂に入れる生活。それがどれだけ恵まれていることか。昨日今日でかなり思い知らされてしまった。
ドライアッドの急成長のお陰で生活の水準は確実に良くなっている。いっそのこと、この地下で快適に過ごせないかな。
そんなことを夢見て、俺は汚くなった服を仕方なく着なおした。
「ふう……まあ、どっちにしろ。生きるためにはやるしかない。今日もがんばって穴を掘って現状を変えてやる」
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