第3話 もふもふもふもふもふもふ

 俺はマキの右腕だったものから出る火でキノ爺の下のキノコを炙ってそれを食べた。小さいキノコながらも味は中々に美味である。しかし、なんか物足りない。1日程何も食べてないにしては足りなさすぎる。このままでは成人男性の1日の必要カロリーを摂取できない。


 この飽食の現代日本で、まさかこんなことになるなんてな。やはり、食料不足を解消するのが急務か。


「というわけで、このままじっと待っていても仕方がない。ドライアッドのスポーンブロックを回収したダンジョンがあっただろ? そこに戻って探索したいと思う」


 俺は光合成をしているドライアッドたちに伝えた。彼らは全く興味なさそうに聞いている。


「正直、俺は穴掘りスキルしか持たない戦闘力が普通の成人男性程度である。ちょっと強いモンスターに遭遇したらその時点で死は免れない。だから、この中から2体ほど護衛をつけておきたい」


 護衛という単語を口にした瞬間、ドライアッドたちはビクっとした。


「あ、ほ、ほら。オレはリンゴの収穫があるだろ? ここでずっと根を張って栄養補給しないと。結実が遅くなっちゃうから」


「そ、そうよねえ。坊やのお手伝いをしてあげたいけど、お姉さんもアボカドのお世話があるし」


「ワ、ワシも移動したらキノコが育たんからのう」


 こいつら、露骨に探索を嫌がりすぎだろ。俺に友好的じゃなかったのか。まあ、友好的だからと言って、全部のお願いを聞いてくれるとは限らないからな。


「全く。みな様情けないですね。ご主人様の護衛すらできないとは。この私が護衛を務めさせていただきます」


「ありがとうマキ。でも、お前右腕がないけど大丈夫か?」


「大丈夫です。いざとなったら、相手に強めのタックルをかませば、差し違える程度のことはできます」


 自爆技じゃねえか。


「さて、1体は決まったし、残りは……」


「ほら、お兄さんの服ボロボロでしょ? 私の栄養が不足すると服を新たに作れなくて、お兄さん大変なことににあると思うなあ」


「む、確かに……」


 無理やりにでもアサを連れていってわからせてやりたかった。が、それも不可能か。今のところ衣食住の衣を担当できるのはアサだけ。ここは生産に専念してもらわないと。


「となると、残ったのは?」


「ワ、ワア……」


 ドングリの生産のドン。まあ、ぶっちゃけ、この極限サバイバル状態だと、ドングリの優先度は低くなってしまうか。


「というわけで、ドンとマキを連れて探索に行ってくる。まあ、危険を感じたらすぐに逃げるから安心してくれ」


 ホッとしているドライアッドたちを尻目に俺たちは昨日掘った穴の道を戻ってダンジョンへと向かった。


「よし、この辺りだな」


 光源はマキの右腕だったものただ1つ。これを頼りにダンジョンに突入する。ドライアッドのスポーンブロックがあった部屋。暗いだけで何もない。なにせ、光源だった光る石も回収してしまったからな。


「なにか食べられるものが落ちていると良いな」


「ダンジョン内にはたまに野草が生えています。私たちドライアッドは人間が食べられるかどうかの鑑定をすることができます。なので、迷ったらすぐに食べずに私かドンに鑑定させて下さいね」


「ああ。ありがとう。それは頼もしいな」


 正直、食べられる草かどうかの見分けなんて俺にはつかない。


 ドライアッドのスポーンブロックがあった部屋を出る。ここからは未知の領域だ。ダンジョン内ではなにが起きても不思議じゃない。慎重に足を進めないと。


 と思っていたけれど、通路には罠らしきものはなく、また次の部屋に出た。この部屋にも光る石があり、部屋の中央にはスポーンブロックが置いてあった。


「なんだここ。スポーンブロックしか置いてないのか? このダンジョンには」


「どうなんでしょうね。こちらも私たちが出てきたのと同じく友好的なスポーンブロックです。役に立つモンスターかもしれませんし、起動してみるのもいいかもしれません」


「うーん。正直、この食料危機の状況で新たな食い扶持が増える可能性があるのはちょっと厄介だけど……まあ、やってみるか。1体だけならなんとかなる」


 そんな軽い気持ちで起動したスポーンブロック。そこから出てきたのは……雪のように真っ白な狼のモンスターだった。俺はすぐにスポーンブロックを停止させた。なにせ、狼。可食部位なんてないし、多分良く食いそうである。


「は、腹減った……」


 生まれたてでいきなり空腹なのか。しかし、困ったな。俺たちは食料なんて持ってないぞ。


「ワ、ワア……」


 よく見るとドンの頭の葉っぱにドングリが結実している。狼ってドングリ食べるのか?


「ドン。悪い、ちょっと取るわ」


「アッ……」


 俺はドンの頭からドングリをむしり取った。そして、それを狼にあげた。狼はなんの警戒をすることもなく、俺があげたドングリを食べた。ガリガリと音を立てて、殻をペっと吐き出してから実の部分を飲み込んだ。


「ふう、かたじけない。拙者はメタモルフ」


「メタモフる? モフればいいのか?」


 俺は狼に近づいて、もふもふした。友好的なモンスターだから噛まれることはないだろう。


「んな! な、なにをする! 嫁入り前の体に触るでない!」


「あ、女の子だったんだ。それは失礼した」


 まあ、動物の性別なんて一目みただけじゃわからないからな。


「全く。次からは気を付けてくれたまえ」


 そんなに怒ってないようで安心した。今の時代、そういうセクハラとかなんとかうるさいからな。


「さて、殿」


「殿!?」


 今まで25年生きてきて、殿なんて呼ばれたの初めてだぞ。


「拙者はこれからどうすればいい?」


 メタモルフはお座りの姿勢のまま尻尾を振ってこちらの命令を待っているようである。しかし、困った。特に何の用もなく呼び出したからな。急に仕事を振ってくれと言われてもなあ。


「そうだ。このダンジョンをちょっと探索してきてくれ」


「ダンジョンを?」


「ああ。俺もこのドライアッドたちもそんなに強くない。だから、俺たちはここで待ってる。だから、メタモルフはダンジョンで有用そうなアイテムや食料があったら拾って来て欲しいんだ」


「御意」


 メタモルフはこの部屋を飛び出してダンジョンの探索を始めた。光源とかないけど大丈夫なのか? まあ、狼は夜行性っぽいし、暗い方が本領を発揮するのかもしれない。知らんけど。


「ワ、ワァ……」


 ドンが頭を抑えてぶるぶる震えている。


「あ、ドン。もしかして、ドングリ勝手に取ったこと気にしているのか?」


「ワァ……」


「わ、悪かったよ。でも、お前のお陰で強力な仲間をゲットすることができた。そこには本当に感謝している」


「パアァ!」


 どうやら、ドンの機嫌が直ったようである。良かった。


 しかし、ノリで強いとは言ってみたものの、実際メタモルフ種がどれくらい強いのかは俺は知らない。見た目が狼で強そうだから強いって言ったけど、もしかしたらそんなに強くないかもしれない……いや、むしろ狼の形状していて弱いってことはないだろ。あの戦闘に特化したフォルム。訓練された軍人でも犬は手を焼くレベルだ。弱いわけがない。


 ズッズと暗闇から何かを引きずる音が聞こえる。その不気味な音と共に現れたのは血まみれのメタモルフの姿だった。メタモルフは口になにかを棒状のようなものを咥えている。


「メタモルフ! 大丈夫か!?」


 メタモルフは口をぱっと離した。棒状のものがドスンと地面に落ちる。


「ええ、無事です。この血は返り血なので心配ご無用」


「そ、そうか。良かった。ところで返り血って誰の?」


「それは、こちらでこと切れているドラゴン」


「へ?」


 メタモルフが加えていた棒状の先にあるものを見た。棒状のものの正体は巨大な体躯のドラゴンの尻尾でドラゴンは無数の咬み傷がつけられていてピクリとも動かない。


「いや、強すぎだろ!」


 まさかドラゴンを狩れるほどの実力者だったとは……


「いや、待てよ。このダンジョンってドラゴンが生息しているのか?」


「ええ、してましたね」


「よし、マキ、ドン、撤退するぞ」


 危なかった。先にメタモルフのスポーンブロックを見つけて本当に助かった。もし、先にドラゴンと遭遇していたらと思うとぞっとする。

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