第2話 植物モンスター便利過ぎて草
「うーん、そうだな。この部屋のスペース的に出現させるドライアッドは5体でいいか」
スポーンブロックは起動した状態だと再現なくモンスターを出現させてしまう。友好的なモンスターはなんぼあっても良いとは思うけれど、この穴の中は手狭だ。あんまり出しすぎてもスペースが足りなくて窮屈になってしまう。
「ドライアッドガチャの時間ですね。ご主人様」
「ガチャ……まあ、確かに。今のところは食べられる果実を出してくれるドライアッドが欲しいかな」
衣は最悪このままでもなんとかなる。でも、食はすぐに解決しないと餓死してしまう可能性がある。
「さあ、出てこい!」
スポーンブロックを起動した。その10秒後、スポーンブロックからドライアッドが出てきた。
その後も10秒間隔でドライアッドが出てきて、5体出現させたところで、俺はスポーンブロックを停止させた。
「ワーワー。あっ……」
なんか一部変なドライアッドがいるけど気にしてはいけない。
「よし、みんな。自己紹介してくれ。性別と用途を教えてくれると助かる」
「ちょっと訊きたいことがある。性別って生物学上の性別か? それとも当人の性自認か?」
「生物学上で頼む」
なんでモンスターの間にまでポリコレ思想が広まってるんだよ。
「なるほど。それなら、オレは女だ。結実する果実はリンゴ。よろしくな!」
1番でかいドライアッドが真っ先に自己紹介した。リンゴか。まあまあいいだろう。
「それじゃあ、お前の名前は今日からリンな」
「リンゴだから、リン。随分と安易なネーミングだな。まあ、オレはそういうの嫌いじゃないぜ。ハッハッハ」
気に入ってくれたようで助かる。個体を識別するためにも名前は必要だからな。まあ、名前を付けたからって劇的に強くなるわけでもないけど、なければ管理に面倒だし。
「ふふふ、私も女よ。結実する果実はアボカド。よろしくね。坊や」
まあ、胸のふくらみ的に女だろうなと思ってたけど、やっぱり女か。甘い果実ばかりだと栄養と味覚が偏りそうだし、アボカドがあるのは助かる。
「それじゃあ、お前の名前はアボな」
「ええ。坊やが付けてくれた名前ならそれを受け入れるわ」
坊やって言ってるけど……どう考えても俺の方が年上だよな? こいつ、今生まれてきたばっかりだぞ。
「ワ、ワァ……僕は男だよ。結実する果実はどんぐり。うう、ごめんなさい」
「なぜ謝る。いいじゃないか。ドングリ」
きちんと調理すればドングリも食べられるからな。まあ、今はその調理方法がないわけだけど。
「それじゃあ。お前の名前はドンな」
「ワ、ワァ……」
「はぁーい。見るからに雑魚そうなお兄さーん。私は見ての通り女だよ」
見てわからないから性別訊いているんだろ。
「私は特に結実する果実はないけど、葉っぱから取れる繊維が豊富だから、それを上手く活用してね? まあ、お兄さんには難しそうだけどねえ」
いちいちムカつくやつだな。いつかわからせてやりたい。
「じゃあ、お前の名前は……アサでいいや」
「わー。麻だからアサ? 安易すぎー。ネーミングセンスよわよわー」
抑えろ。ここで殴ったら負けだ。
「そして、最後がワシか。ワシは男じゃ。ワシの本体は特に有効活用法はないが、ワシの根元には食べられるキノコが生えてくる」
「キノコか。それは助かる」
リンゴとアボカドだけじゃやっぱり栄養が偏る。やっぱり野菜も食べないとな。
「それじゃあ、お前の名前はキノ爺で」
「ふぉっふぉっふぉ。良い響きの名前じゃのう」
言うほど良い響きか?
「それじゃあ、各自、適当な場所で根を張って栄養を補給してくれ」
ドライアッドは土から栄養を摂取して成長する。周りは土だらけだし、栄養分に困ることはないだろう。そういう意味でも良いモンスターを仲間にできたと思う。
「あ、あの。ご主人様」
「ん? どうした?」
最初に出てきたドライアッドが俺にもじもじとしながら話しかけてきた。
「その、私も名前が欲しいんです」
「うーん、そうだな。じゃあ、マキでいいか」
「マキですか! はい、ありがとうございます! 良い名前ですね」
まあ、なんやかんやでガチャでは大当たりを引いたので、俺は俺で穴を掘って住居の拡張をしないとな。どうせなら、通路とか部屋とか作って家っぽくしたいな。
◇
「ふう……」
作業を終えてから気づくことがある。部屋を作ったところで光源がない。
光る石はたった1つしかないし、それはドライアッドの光合成に使われている。つまり、他の部屋は真っ暗ということになる。
「ふあーあ。でも、眠くなってきたし、そろそろ寝るか」
眠る分には暗くても全然構わない。俺は地面に寝っ転がった。服が土で汚れるなんて気にしている余裕はなかった。なにせ、ずっと穴掘りを続けてきたから、それだけで十分服が汚れている。それ以上は気にする必要はないんだ。
「今頃、刑務所は大騒ぎだろうなあ」
地下では時間の感覚はないけれど、体感として眠くなってきたってことは今は夜なんだろう。俺は白昼堂々と脱獄をしたので、看守に既に俺がいないことはバレていると思われる。
まあ、看守は死刑囚を逃した責任を問われるだろうけど、そんなことは俺には関係ない。キャリアに傷がつく程度で命までは取られまい。俺が理不尽に受けた死刑判決に比べたらかすり傷だ。我慢してくれ。
気づいたら、俺は微睡みの世界に入っていた。そこからして、しばらく休息して空腹で目を覚ましてしまった。
「あー……腹減ったな」
ドライアッドが果実を結実するまでどれくらいかかるんだろうか。その間に餓死しないかな。
俺は体を起こして、ドライアッドが光合成している部屋に向かった。ドライアッドは地面に根を伸ばしていてそこから栄養を吸収している。こころなしか昨日よりも体が大きくなっている気がする。
「なあ、リン。お前、果実をつけるのにどれくらいかかる?」
「オレか? まあ、人間界にある普通のリンゴよりかは速いな。大体一週間だ」
「それは随分と速いな」
「その代わりに結実する実は1個だけだ」
1週間でリンゴ1個。きっついな。
「ふぉっふぉっふぉ。腹が減っておるのかのう」
「まあな」
「ならば、ワシの下のキノコを食べると良い」
下のキノコとかいう嫌なワードを聞いた気がするが……確かにキノ爺の下には小さいキノコが生えていた。
「それにキノコは生食できないしな。火が必要か」
「ご主人様! 私の出番でしょうか!」
マキがシュババってやってきた。お前、燃料にされたら死ぬ癖にやる気満々になってんじゃねえ。こっちには
「……あれ? マキ。お前腕の下に生えている突起。それはなんだ?」
「あ? これですか? 新しい腕の元です」
「あ、新しい腕の元?」
「はい。私みたいな燃料種は成長と共に腕がポロっと取れます。そうしたら、この下にある腕の元をが肩の付け根の位置まで登ってきて新しい腕になるんです。まあ、自然に取れるまで待たなくても、自分の意思で腕を切り離すことは可能ですが」
「へー。そうなのか。それじゃあ、その部分だけ燃やせば、お前は死なずに燃料になれるんじゃないのか?」
「あ、その発想は流石です。ご主人様。試しに1回腕を落としてみましょう……えい! ほら、ご主人様。私の右腕を使ってください」
本当にマキの右腕が取れた。でも、僕の顔をお食べみたいな感覚で渡されてもなあ。
「お前、それ痛くないのか?」
「ちょっとチクってする程度で、そこまで痛くないですよ」
「そっか。それならよかった」
とりあえず燃料となる薪を手に入れることができた……けど。
「これ1本じゃなあ。火を起こすにはもうちょっと燃料やら火種やらが必要になるし」
「大丈夫ですよ。ご主人様。その枝の先端を思いきり土の壁に強くこすりつけてください。シュって」
「こうか?」
俺はマキの言う通りにした。次の瞬間、マキの右腕だったものに火がついた。
「うわ……」
「このように、私は擦られるだけで火を起こすことができる体質なんです」
え? それって、この右腕だったものだけじゃなくて、マキ本体もそうってこと? ちょっと強めに擦っただけで発火?
「え……怖っ……マキには近づかんとこ」
「な、なんでですか!?」
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