無実の罪で死刑判決を受けたから穴掘って脱獄してやった。穴の中でスローライフしてたら、ダンジョン扱いされて草

下垣

第1話 判決地獄いき

「主文。被告人伊藤 大地に死刑を言い渡す」


 本当に絶望したときって何も考えれらないんだな。俺は裁判官の判決文の冒頭だけしか認識できなかった。


 俺は何もしていない。けれど、世間的には俺は隣家の家族5人を惨殺した凶悪犯ということになっている。


 これが実際に俺の犯行ならば死刑になって当然だ。なにせ5人も殺したのだから。俺は無実を訴え続けたが……その声は誰にも届くことはなかった。裁判官にも、弁護士にも、家族にも……誰1人、俺の無実を信じてくれなかった。


 そんな形式だけの裁判を終えて俺は刑務所にぶち込まれた。さて、これからどうしようか。このままだと俺は一生刑務所の中で暮らすことになる。いつ執行されるかわからない死刑を待つだけの人生なんて嫌だ。だから、俺は脱獄をする。


 独房に閉じ込められた俺は看守の目を盗んで、穴を掘った。普通ならば現代日本で穴を掘って脱獄なんてできるわけがないと思われる。しかし、俺は普通ではなかった。


 なぜならば、俺は覚醒者と呼ばれる超能力者だ。万人に1人の割合でこの覚醒者になれる。10年前にこの能力に目覚める者が現れて、それと同時にダンジョンと呼ばれるものも世界中に現れた。


 俺の覚醒能力は穴掘り。この能力を使えば、脱獄なんて簡単だ。俺は覚醒者であることを隠していたから、看守も油断しているはず。


 こうして、俺は刑務所の床を掘って地面へと逃げ出した。1度地面に退避してしまえばこっちのものだ。なにせ、穴掘りスキルには瞬時に穴を埋める機能もある。


 よし、俺が通って来た穴を埋めた。これで、看守も俺が地面に逃げたとは思わない。看守視点では俺だけが忽然と消えたように見えるはず。


 とは言っても……このままだと酸欠で死にそうだな。早い所、酸素を供給できるように、呼吸用に地上に続く穴を掘るか。


 俺は今は死刑囚の身だ。地上に出れば確実に通報されてしまう。俺が脱獄したのがバレたら、指名手配されるのは間違いないからな。


 だから、俺はこの地底で暮らす。まあ、なんとかなるだろう。まさか、穴の中で生活する人間がいるなんてあいつらも思う訳がない。そう思って、俺は穴を掘って掘って掘り続けた。


 呼吸用の穴を確保した後に部屋を作るために掘り続ける。するとがばっと目の前の地層がバラバラと崩れ去った。


「な、なんだ……?」


 俺の目の前には刑務所の独房を同じくらいの体積の空間が広がっていた。地底とは思えないくらいの明るさがあった。光源は天井につるされた光る石。空間の中央には、なにやら四角いブロックが置いてある。


「あれは、スポーンブロックか」


 起動するとモンスターを一定間隔で生み出す物体。ダンジョンの奥地にあると言われている。


「どうやら……ダンジョンに出ちまったみたいだなあ。ちょっとこのスポーンブロックを起動してみるか。試しに1匹だけ出してみよう」


 スポーンブロックからはどのモンスターが出現するのかは決まっている。しかし、ブロックの見た目だけでは出現するモンスターはわからない。出してみてのお楽しみというやつだ。


 ポンと音と共にスポーンブロックから出てきたのは、樹の精のドライアッド。人間の手のひらに乗るサイズのモンスターで、体は樹で出来ている。頭にある葉っぱは髪の毛に見えて、肌の色は樹と同じく茶色ではあるが、人間と変わらない顔つきである。


 今回出てきたドライアッドは顔つきが女っぽいな。ドライアッドに性別があるのかはしらないけど、まあまあ可愛い顔立ちだ。


「初めまして。私はドライアッドです。よろしくお願いします。ご主人様」


「ご、ご主人様」


 スポーンブロックには友好的なものと敵対的なものの2種類がある。友好的なスポーンブロックは起動した相手に対して発生したモンスターは好意を抱くようになっている。この2種類は見た目で判別可能で、俺はこれ友好的なものだから起動したわけだ。


 それでも、俺を「ご主人様」ねえ。そういうつもりで呼び出したわけじゃないんだけどな。


「ドライアッド。お前は光合成ができるんだよな?」


「はい、植物型のモンスターですから当然です」


「うーん。そうだな。それじゃあ、天井にある光る石を回収するか。そうすれば、どこでも光合成が可能になる。地底暮らしでは、文字通り生命線になるかもな」


 俺は穴掘りで、壁によじ登るための取っ掛かりを作った。脚が届く位置に腕を差し込んで、少しずつ登っていく。そして天井に辿り着いたので光る石を取った。


「一応、まだ持てる容量に余裕があるから、スポーンブロックも持っていくか」


 さて、光合成で酸素を得るためのドライアッドとそのスポーンブロック。そして、光源用の光る石。その2つを手に入れたから、この場所にはもう用はないな。ここはダンジョンの奥地みたいだし、あんまり長居すると他の"友好的ではない”モンスターに見つかるかもしれない。自慢じゃないけど、俺は戦う力なんて一切持ってない。覚醒者の中には戦闘用の能力を持っていて俺TUEEEしている奴もいると言うが……穴掘りしかできない俺には無縁の話だ。


 左手でスポーンブロックと光る石を器用に持ち、右手で地面を掘っていく。ダンジョンの近くに住居を構えるのは嫌だからな。なんかモンスターや人間が争う音がうるさそうだし。


 約800メートルくらい掘り進んだか。まあ体感だから多少のズレはあるけれど、ダンジョンから遠ざかったはず。ここら辺を仮住まいにするか。


「よし、ドライアッド。今日からここが俺たちの拠点にするぞ」


「はい、ご主人様」


 というわけで、俺はザクザクと周囲を掘り進めていく。壁をトントンと叩いて固めつつ、大体独房サイズの大きさの部屋に仕上げたら。天井に光る石を装着して簡易的な部屋の完成。


「ふう。とりあえず、これで衣食住の内の住はなんとかなったな」


「ご主人様。スポーンブロックがあるなら、衣食の分もなんとかなるかと思います」


「え? マジ?」


「はい。ドライアッドには食べられる果実をつけるものや衣服に使われる繊維質の植物をつけるものもいます」


「なるほど。ならば、何体かまたスポーンしておくか。ところで、お前はなんの実をつけるんだ?」


「はい、私は燃料用のドライアッドです」


「え?」


「ですから、燃料用です。まあ、薪としての適性が高いといいましょうか。ご主人様のためだったら、この命燃やす覚悟はできています」


 いや、何言ってんだこいつ。


「そんなことをしたらお前死ぬんじゃね?」


「ええ、死にます。しかし、そのスポーンブロックがあれば、いくらでも代わりは作れますので、私は気にしてませんよ」


「いやいや、お前が気にしなくてもこっちが気にするんだよ!」


「そうですか……」


 ドライアッドはシュンとして下を向いてしまった。


「私は薪として使われなければ、何の価値もないドライアッドなのです。ご主人様のお役に立てなくて申し訳ありません」


「いやいや、ほら、お前はいてくれるだけでいいから。話し相手になってくれるだけで助かる」


 正直、こんな穴倉の中で長時間1人でいると発狂してしまいそうになる。


「そうですか。本来の用途で役に立てないのは残念ですが、そう言って頂けると救われます」


「ああ、そうだよ。特にこんな可愛い女の子なんだから話し相手には最適だ」


 俺はドライアッドの容姿を褒めた。これから長い付き合いになるんだ。コミュニケーションを円滑に進めるためには相手を褒めることが大事。特に初対面からいい印象を与えるのは有効だ。


「え? なに言ってるんですか? ご主人様? 私は男ですよ?」


「え?」


「え?」


 うん。逆に考えよう。付いている方がツイていると。

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