第2話 エタリップ海賊団

「おやおや、元気げんきいっぱいだねぇ」


 そうって豪快ごうかいわら女海賊おんなかいぞくを、宇海うみまるくしながらていた。


「アンタみたいに元気げんきのいいきらいじゃないよ」


 女海賊おんなかいぞく宇海うみちかづいてきた。宇海うみまえまでると、しゃがんでたかさをわせる。うみのようにあおひとみがとても綺麗きれいだと宇海うみかんじた。


「はじめまして、お嬢様じょうさま。アタシはこのエタリップ海賊団かいぞくだん船長せんちょう、ピカネート・エタリップだ。アンタ、自分じぶん名前なまえはわかるかい?」


 王子様おうじさまみたいに凛々りりしいこえで、ピカネートと名乗なの女海賊おんなかいぞくった。宇海うみうなづいてからこたえる。


「わたしは、宇海うみ。……波風なみかぜ宇海うみです」


「ウミか。いい名前なまえだねぇ。それじゃあウミ。アンタはなんそらからちてきたんだい?」


そら……?」


 ピカネートの言葉ことば意味いみがわからず、宇海うみくびをかしげた。


「おや、おぼえてないのかい? アンタはそらからうみちてきたんだよ。それをアタシがつけてたすけてやったんだ。もしかしたら神様かみさまっこちてきたのかもしれない、とおもってね」


「え、でも、わたし……」


 そらからちたおぼえもないし、神様かみさまなんかじゃない。突然とつぜんこんなことになって混乱こんらんはしてるけど、それだけははっきりわかる。


 こまったかお宇海うみて、ピカネートはやさしくった。


「ウミ。おぼえているところまででいいから、なにおしえてくれないかい? アンタがこまっているなら、アタシはたすけてやりたいんだ」


「う、うん……。昨日きのうは、学校がっこう宿題しゅくだいをやったり、その、小説しょうせつを、いたりして……えっと、それから、よるまえに、うみで……」


 自分じぶん小説しょうせついていることや、星空ほしぞらねがごとをしているなんて、いままでだれかにはなしたことはなかった。だから宇海うみはだんだんずかしくなってきた。


「あの、わたしがなにってもわらわない?」


 宇海うみがそうくと、今度こんどはピカネートがくびをかしげた。


なんわらうんだい? だれかのはなしわらやつは、自分じぶん馬鹿ばかにされたくないからわらうだけのおろものさ。アタシがそんなおろものえるかい?」


 宇海うみはぶんぶんとくびよこった。


「それじゃあはなしておくれ」


「うん。……わたし、昨日きのうおんなおんなひとだけの海賊かいぞく出会であって、うみ冒険ぼうけんするおはなしいたの。それで、よるになってから、星空ほしぞらけておねがごとをしたの。ゆめでもいいから、わたしもふねって冒険ぼうけんしたいですって。……ねぇ、ここってわたしのゆめなかなの?」


ゆめ? アタシはいま自分じぶんゆめなかにいるとはおもわないけどね。ほら、おいで」


 ピカネートはがると、宇海うみってあるした。


たしかにゆめのようだとおもうときはあるけど、この潮風しおかぜ現実げんじつのものだよ」


 そうってピカネートは部屋へやとびらけた。


「わぁ……!」


 しおかおりをふくんだかぜが、宇海うみほほをなでる。一面いちめんひろがるのは、太陽たいようひかりけてかがやうみと、わたあおそら。ずっとずっとこうには水平線すいへいせんいま自分じぶんっているのは、ふねうえかおげるとおおきなえる。


ゆめみたいだけど、これはたしかに現実げんじつだよ」


「うん……!」


「アンタがこの世界せかい創造神そうぞうしんだってうならそれは面白おもしろはなしだけど、そしたらアタシたちはみんな昨日きのうまれたことになるねぇ。ねえ、アンタたち! このなか昨日きのうまれたばかりのやつはいるかい?」


 ピカネートがだれかにびかけるように、大声おおごえった。するとピカネートほど豪華ごうかではないが、海賊かいぞくらしい服装ふくそうおんなひとたちが四人よにんやってきた。そのなかには宇海うみ目覚めざめたときにいた茶髪ちゃぱつひともいる。


わたしはあなたとおなどしでしょう、ピカネート」


 と、茶髪ちゃぱつひと


「ボクももう子供こどもじゃないよ」


 とったのは、えるようなあかかみ黄色きいろのリボンをつけたひと


わたしはこのなか最年長さいねんちょうだとおもってたけど、ちがうの?」


 あたま青色あおいろのバンダナをいた、がっしりした体格たいかくひとった。


今日きょう我々われわれ昨日きのう我々われわれ同一どういつとはかぎらない。だが昨日きのうまれたばかりの存在そんざいであるともかぎらない」


 銀髪ぎんぱつ黒色くろいろ帽子ぼうしをかぶったひとが、ヴァイオリンのような楽器がっきちながら芝居しばいがかったようにった。


「だそうだよ、ウミ。アンタがこの世界せかい昨日きのうつくった創造神そうぞうしんだとしても、アタシらにとっては、ずっとつづいている現実げんじつなのさ」


「ねぇピカネート。その創造神そうぞうしんなの?」


 茶髪ちゃぱつひとった。


「ああ。昨日きのうおんな女海賊おんなかいぞく冒険ぼうけんするおはなしいたんだってさ。あ、もしかしてアタシたちみんなの名前なまえもわかるかい?」


 ピカネートが興味津々きょうみしんしんかおいてきた。でも、宇海うみ名前なまえまでかんがえていなかったからわからない。くびよこった。


「そうか。それじゃあアンタたち、ウミに自己紹介じこしょうかいしな」


 ピカネートが命令めいれいすると、みんながさっきとおな順番じゅんばん自己紹介じこしょうかいをしはじめた。まずは宇海うみはじめてった茶髪ちゃぱつひと


わたしはアーレフよ。このふねでお医者いしゃさんをしているわ」


 つぎ赤髪あかがみ黄色きいろのリボンのひと


「ボクはココ。ふねのみんなのごはんつくってるんだ!」


 そしてあおいバンダナをいたがっしりしたひと


わたしはゴルタヴィナ。航海士こうかいし。ヴィーナってんで」


 最後さいご銀髪ぎんぱつ黒帽子くろぼうしかぶ楽器がっきったひと


はサミニク。こちらは相棒あいぼうのミリー。うたい、かなでることこそわれらがよろこび」


「んで、アタシが船長せんちょうのピカネート。この五人ごにんとこのふねで、このうみ冒険ぼうけんしている。人呼ひとよんでエタリップ海賊団かいぞくだんさ!」


 とピカネートがたからかにうと、アーレフがちいさなこえで「ばれたことはないけどね」とくわえた。

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