第3話 何故如月さんが!?

 どうも、人間界の普通代表です。


 そういえば勉強会についてだが……2人には明日———つまり、今日の放課後から勉強を教えてもらえることになった。

 グフフ……今からでも待ち遠しい(キモい)。

 因みに今はと言うと———


「また助けてもらってありがとね。もう少しで近くの一軒家に引っ越す予定なのだけど……」

「まぁしょうがないですよ。エレベーターが壊れるなんて想像もしてないでしょうし」


 ベビーカーと買い物袋を持って、近くに住んでいる20代の奥さん———柚月さんの住んでいるビルの階段を登っている。

 彼女とは1ヶ月前に途方に暮れていたのを見つけて手伝ったのが始まりだった。

 現在ベビーカーに乗っていた優里ちゃんは柚月さんの腕に抱かれている。


「ねぇねぇおにぃちゃん! わたしね、かけっこで1位とったんだよ! おとこのこもぜんぶぬかした!」

「おお! それは凄いな! 将来は陸上選手かな?」

「ううん! しょーらいはおにぃちゃんみたいになるの!」


 そう言って俺をキラキラとした眼差しで見つめる美幼女———愛莉あいりちゃん。

 今でも十分に可愛いので、将来は間違いなく美人さんになるであろう。


 そんな陽キャ予備軍の憧れになれるとは……ふっ、俺も凄くなったものよのぉ。

 そんな子におにぃちゃんだって……最高かよ。

 これならロリコンと蔑まれてもいいわ。

 まぁ中学生くらいになればフツメンの俺なんて毛嫌いされるのだろうがな(確信)。

 あー悲し。

 

「———どうしたのおにぃちゃん? ぐあいわるいの?」

「いや大丈夫だよ。少し世界の真理を考えてただけだから」

「?? ねぇまま、おにぃちゃんがよくわからないこといってる!」


 愛莉ちゃんが柚月さんの服をクイクイしながら俺を指差す。

 

「さぁ……お母さんにも分からないわね。優真さん、是非とも愛莉に教え———」

「あ、着きましたね。それではまた!」

「え、あ、はい」

「ばいばいおにぃちゃん!」


 俺は分が悪くなったので高速で階段を駆け上がって全てを部屋の前に置くと速攻で逃げ出す。

 元気に手を振る愛莉ちゃんと、困惑しながら目をパチパチさせている柚月さんには申し訳ないが此処は退散させて貰おう。


 俺はビルから出ると、スマホの時計を確認する。

 時刻は午前10時半過ぎ。

 学校では既に2時間目に入っている頃だろう。


 正直このまま学校に行くよりは他に困っている人を探した方がいいかもなんて思っていると———


「———あっ、いたいた! おーい、ゆーうーまー!」

「………………ふぇ? き、如月さん!?」


 ———そこには何故か、制服姿の如月明日香さんの姿が。

 俺はあまりの驚きに体が固まる。


 しかしそんな俺に気付いていないのか、気安くて明るい笑顔を浮かべた如月さんが手を大きく振りながら此方へと向かってくる。

 そして———


「———もうっ探したんだぞっ☆ もう離さないっ!」

「———!?!? あばぼうるゆはまはなまさならた!?!?(語彙力崩壊)———ちょっとまてぇい!」


 俺の腕へと思いっ切り抱きついて来た。

 その瞬間、俺の腕は至福の感触に包まれることにより意識が昇天しそうになるが———寸前で全精神力と力を使って何とか引き離す。


 はぁはぁはぁ……あ、危ねぇ……陽キャはボディタッチが多いことは知っていたが、まさかこれほどとは……。

 いや、あんな美少女に抱きつかれ嬉しくないわけはないのよ?

 ただ、何時何処で同じ学校の生徒に会うか分からない状況で親しい姿を見せる訳には———


「むぅぅぅ……引き剥がされると私悲しいな?」

「どうぞご自由にしてください俺は何をされても大丈夫なので」


 ———無理でした。

 陰キャに優しいギャルの前に陰キャは絶対に敵わないのです(世界の真理)。

 それに美少女ギャルにあんな上目遣いで悲しいなんて言われたら誰だって許可しちゃうでしょ!(世界の真理mark II)


 なんて思いながらニマニマしていると、何故が一向に如月さんが話さない。

 俺が不思議に思って如月さんの方を見ると、此方をジッと見つめる如月さんの姿があった。

 しかも何やら目付きが獲物を狙うようで少し怖い。


 あれ? 俺もしかして無意識に地雷踏んだ? え、でも今さっきの俺の言葉に地雷原なんてあった?


「あ、あのぉ……如月さん?」

「———何をされてもいいの?」

「え、あ、はい。俺に出来ることなら」

「!?」


 俺は問われた意味が分からず少し困惑しながらも言葉を返す。

 すると如月さんが大きく仰け反ったかと思うと、何かを必死に抑え込むかのように目をギュッとつぶって耐え出した。

 しかしそれも一瞬のことで、再びすぐに笑顔を取り戻す。


「ふぅ……———優真っ!」

「はいっ!! イエスマム!」

「そんな簡単に何でもいいなんて言っちゃダメだからねっ! 襲われちゃうよ!」

「え? 襲われる?」


 いや、俺を襲ってもお金なんて1ミリもないぞ(ホント)?

 そもそも俺は性的に襲われるほどイケメンではないのでその考えは放棄(屈辱)。

 

「大丈夫ですよ如月さ———」

「ねぇ優真、その如月さんってやつやめて?」

「え? では何とお呼びすれば……」

「———明日香でいいよっ! それに敬語もなしね? 私達友達でしょ?」

「!?!?(衝撃の余り思考停止)」


 と、と、友達……?

 俺と、学校の二大美少女の如月さんが?

 か、神よ……俺の儚い全盛期がきましたぞ……何日続きますか?(つぶらな瞳)

 

「と、友達マ……?」

「うんっ!」

「よ、宜しくお願いしまする!」


 俺は速攻で頭を下げる。

 こんな美少女と友達になれるチャンスなんて2度とかないかもしれない……絶対に逃さん!!


 そんな必死な俺の姿に如月さん……いや、明日香さんが「ぷっ」と吹き出して笑う。


「あはははは! 面白い反応だねぇ。うん、これから友達として宜しくね?」

「勿論です!!」


 はー今日は何で素晴らしい日なんだ!

 あれぇ? 世界が明るく見えるぞー?

 あ、これが陽キャの見ている世界なのか。

 あっはっはっ、俺も陽キャの仲間入りだぁ!(そんな訳ない。鏡見ろ)




「———今はまだ、ね……」


 そんな小さな言葉が有頂天な俺の耳に届くが、きっと俺の幻聴だろう。

 だってそれを言われるのってイケメンだけだし、そもそも今の俺は完全に壊れてるからな。


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