第117話 不本意な思い

 ヒナギクの花束を持って病室に向かう。

俺が螢のために毎日欠かさず持って行くプレゼントだ。


受付カウンターで面会カードを受け取り心はもう病室にいる愛しい螢でいっぱいだ。


長い廊下を歩いて行くと、病室の前にジェシカがいる。

俺の顔を見るなり足早に近づいてくる。


〘どうしたんだ?アイリスは一緒じゃないのか?〙

俺は近づいてきたジェシカに声をかける。


〘アイリスは中にいる。男の人が面会に来てて、螢さんに随分馴れ馴れしいんだ。

だからアイリスが見張ってる〙


ジェシカの話しが終わらないうちに病室へと足が急ぐ。


〘螢!〙


病室に入ると、ベッドを挟んで片方にアイリス、そしてもう片方には螢のクラスメイトだったクリストがいる。


〘あっ、数くん!〙


螢が俺を見て、安心したような笑顔を向けてきた。


〘よう数真、また会ったな〙

〘また会ったはないだろ!お前こそ何なんだ!〙


〘えっ?お見舞いだよ。元クラスメイトが入院してるんだ当たり前だろ?〙

クリストは悪ぶりもせずいけしゃあしゃあと言ってのけた。


〘それよりこのガキんちょ共は何なんだよ…さっきから俺の事敵視してるんだけど…〙

不愉快な顔でアイリスとジェシカを指差した。


〘なによ!あんたが螢ちゃんに馴れ馴れしいからでしょ!〙

確かに、今にも噛みつきそうな勢いである。


〘この人ったら螢ちゃんがベッドから動けないのに近くに寄ったり躰に触れたりするのよ!〙

アイリスは余程腹を立てているのか、向きになって話し始めた。


〘手だってこんな風に握っちゃって!〙

彼女は螢の手を両手で挟むように握りしめてみせた。


〘そんなの誰だってするだろ!〙

〘螢ちゃんが離そうとしても握ってたじゃない!〙


子ども相手にコイツもみっともないな…と思いながら俺は螢の傍へ寄った。


〘螢、今日はヒナギクだ〙

螢のために買ってきた花を彼女に渡す。


〘わぁ! 数くんありがとう!〙

俺の渡した小さなブーケを見て、クリストとアイリスの言い合いにおろおろしていた顔が満面の笑顔に変わった。


ありがとう! 数くん〙

〘ああ、俺もだ〙


潤んだ瞳で螢が見つめるので、俺はクリストへの当てつけも込めて彼女にキスをした。


〘見せつけてんじゃねーよ! じゃあまたなホタル〙

〘もう来なくていいわよ!〙


握り拳を振り回すアイリスへ〘なんだと!〙と詰め寄ったが、そこはジャニスが彼女の盾になったので悔しそうに病室を出て行った。


〘大丈夫か螢〙

〘うん〙


螢はそう言ったが、俺の胸に顔を埋めてしがみついてる様子から、クリストの態度に困惑していた事が判る。


〘ジャニスもアイリスもありがとう!助かった〙


俺は螢を胸に強く抱きしめて友人たちに礼を言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る