第116話 愛しい人
父さんと母さんがエリックのところへ行った。
吾古のヤツが、ボーイフレンドが出来たと連絡してきたからだ。
しかも選りに選って相手の男は解離性同一性障害の多重人格者だという。
そんな男と吾古を付き合わせるなんて…
絶対ダメだ!
父さんたちが出かけている間に俺の方は退院した。
俺は腎臓を摘出しただけなので退院は早い。
まだ違和感は残っているものの通常の生活に戻って大丈夫らしい。
仕事も復帰していいらしいが、俺は螢の傍にいてやりたいのでそのまま休暇を続行中だ。毎日午後の面会時間に合わせて病院へ行っている。
螢は日を追うごとに綺麗になる。
顔色が良くなり、代謝もいいので肌もキメが揃ってきた。
一度、売店に行くと外来で来ていた小学校時代のクラスメイトに会ったが、螢を見て最初判らなかったくらいだ。
〘お前本当にあのホタルか?〙
〘そうだよ。あの時揶揄ってた
螢は自分の頬を指で指し示しながら答えている。
〘いや…そうだけど…綺麗になったなぁ〙
螢も女の子だ。“綺麗になった”と云う言葉が嬉しかったらしく、頬を染めてにこにこしてる。
〘ホタル、退院したら俺とデートしようよ!〙
〘えっ?!〙
あろうことか俺の目の前で螢を口説きやがった!
〘悪いが今は俺の嫁さんだ! やめてくれ!〙
俺は螢の手を握っている上から思いきり
〘いてっ! なんだ、お前らやっぱりくっついたのか?お前あの頃からホタルの傍にばかりいたもんな…こんなに綺麗になるって判ってたら俺が先にツバつけとくんだったよ…〙
そいつは残念そうに帰って行ったが、とんでもない!
全く何言ってんだ!
螢はあの頃も可愛かったじゃないか!
「もう、数くんてば…」
螢が俺を見て含羞んだ顔を向けた。
まさか誘われたのが嬉しかったのか?
「お…おい螢、アイツとデートしたかったのか?」
俺が訊くと螢は益々顔を赤らめた。
「ちがうよ!数くんが“俺の嫁さん”とか言うから恥ずかしかったんだよ」
紅潮した顔を俺の腕に押し付けて恥ずかしがる螢が可愛くて堪らない。
螢が退院するのはもう少し先だが、元気になっていく彼女を見るのは嬉しい。
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