第115話 嬉しさ半分

 「じゃあ日本に戻る頃迎えに来るから。

エリックの言うことちゃんと聞いてね」


「エリックだけじゃなくて翔真の言うこともちゃんと聞くんだぞ。翔真、妹を頼むぞ。エリック悪いな」


翔吾と真古都は子どもたちをエリックに頼んだ。

特に吾古は末っ子であり、上ふたりが兄とあって少々我儘なところがある。

今回の事がいい例である。


「判ってる」


エリックも片手を上げて応えた。



「あ…あの…気を付けて…」


フレデリックも挨拶に来てくれた。

気の弱い彼がわざわざ人前に出てきたのだ。


「吾古は我儘なところがあるからな。悪いところはしっかり言ってやってくれ」

「僕が…?」


翔吾の言葉にフレデリックがたじろぐ。


「当然だろう、男なんだから。付き合ってる女の子を窘めることも出来なくてどうする」


フレデリックは、顔を赤らめながらも「頑張ります!」と、何度も頷いた。

“付き合っている”と云う言葉と、そう言ってもらえた嬉しさで気持ちが奮い立つのが判った。信頼してもらえる事がこんなにも自分の自信に繋がるのを初めて実感したのだった。


翔吾と真古都は吾古の事をエリックと二人の男に託し一旦帰って行った。




帰りの列車で翔吾は真古都と子どもたちの成長を共に喜んでいた。


「俺、料理人になってエリックの傍で仕事をしたい」


翔真からそう話された時は、別段驚きはなかった。

子どもたちには其々自分の出自について話してある。

寧ろ、自分の将来の中に翔真がエリックを含めたことを、翔吾は今まで育ててきた父親としての誇りを感じていた。


数真が螢と結婚し、タマモを引き取って家族をつくった。

翔真が将来の道を目指し始め、エリックとも向き合おうとしている。

吾古の恋がこれからどうなるかは判らない。だが初めてひとを好きになった。自分たちの手を離れるのも時間の問題だろう。


翔吾はタマモを抱いている真古都の手を握った。

真古都が不思議そうに翔吾の顔を覗く。


「俺たち二人になるのもそんなに遠くないかもな」


翔吾の言葉に真古都は優しく微笑み返す。


「翔くんとなら寂しくないよ」

「ああ、俺もお前とならまた二人から始めるのも悪くない」



愛して已まない妻に翔吾は愛しさを込めて唇を重ね合わせた。




















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