第114話 見つめる未来(あした)
〘俺…料理人になりたいんだ〙
改まって居住まいを正すと翔真が俺を見てそう言った。
確かに、コイツは小さい頃から見様見真似でキッチンに立ち、色々作っては俺を驚かせていたっけ…
〘俺、いつかエリックみたいな料理人になりたい〙
そんなふうに言ってた頃もあった。
大きくなるに従って口数も少なくなったが、料理はたまに作ってるようだった。
料理が好きなのと、料理人になるのは違う。
好きなだけではやっていけない。
俺はこれしか出来なかったからこの仕事をしてるにすぎない。
真古都が翔吾と結婚しても直ぐには退院できず半年程はまだ宿舎にいた。
その間、段々とお腹の大きくなる彼女を見れるのは嬉しかった。
彼女はよく転ぶので、初期の頃は気が気でなかった。あの時は車椅子である我が身をどれ程呪ったことか…
もし流産にでもなったら俺は一生自分の子どもを抱くことは出来ない。
どうしても無事に産まれて欲しかった。
〘エリック!エリック!〙
真古都が嬉しそうに少し上気した顔で俺の厨房に来た。
〘どうした?!何かあったのか?〙
彼女の様子に慌てて俺が詰め寄ると、彼女は俺の手を掴むと自分のお腹を触らせてきた。
〘さっきね、動いたんだよ!エリックに直ぐ知らせたくて急いで来たの!〙
俺を見つめながら笑う真古都が愛しくて堪らなかった。
退院して3ヶ月程経った頃、男の子が産まれたと翔吾から連絡が来た。
産まれたばかりの翔真を抱いた時、俺は初めて無事に生まれた事を神に感謝した。
それを翔吾も真古都も何も言わなかった。
日本に戻ってからも翔真はよく手紙をくれた。便箋1枚ほどの短い手紙だったが嬉しかったし、来るのが楽しみだった。
〘俺…
今回、翔真がそんな事を言い出して驚いた。
〘
思ってもみない言葉だった。
仮に料理の道を進んだとしても、まさか俺の傍に来たいと言い出すなんて…
〘父さんと母さんにはちゃんと伝えてある。二人とも俺の好きにして良いって喜んでくれた。だから
まだまだ子どもだと思っていたのに…
16歳か…自分の将来を考えても良い齢だな…
〘子どもって…あっと云う間に大きくなるんだな…〙
長いようで短いこの16年を想い口に出していた。
〘ホントだな…〙
翔吾も同じような気持ちらしい…
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