第112話 悋気

 〘大体お前は真古都に近すぎる!〙

〘気に入った女性を遠くからしか見れないのは切ない〙


〘何言ってる!俺がいても堂々と手を握るだろう!〙

〘手ぐらい誰だって握るだろう〙


〘お前はキスもするよな!〙

〘愛情表現のひとつじゃないか〙


〘真古都は俺の嫁だ!〙

〘愛しい女性を前に、婚姻の有無などこの国では意味をなさない事は承知してるだろ〙


〘人としての道理を弁えろ!〙

〘それこそ国民性の違いだ。恋愛大国のこの国で頭の堅い日本人の道理など通用しない事はよく判ってる筈だ〙



毎回繰り返される二人の問答だ。

大概エリックの言い分に翔吾は返す言葉が無くなり終わる。


元々口数の少ない翔吾が口でエリックに敵う筈が無いのだ。



〘お前も懲りないな…〙

エリックが呆れ顔で笑う。


〘うるさい!〙

口で敵う筈ないと判っていてもやはり真古都が絡めば文句の一つも出ようと云うもの。


〘まあ、お前がそれだけ重いから逆に安心して任せられるんだけどな〙

エリックは軽く笑った。


いつもの事だが、自分がどれだけ真剣に抗議しようが、勝ち誇った様な笑みとともに軽く往なされるのが翔吾としては面白くない。


〘悋気は女の専売特許だが、お前も大概なヤツだよな〙


そんな事は今更エリックに言われなくても十分に判っている。

俺は狭量な男で自分に自信がない。


だから自分から離れて行かないように囲っておきたいんだ…


やっとアイツを手中に収めて自分の嫁にした。吾古が産まれて子どもが三人になって幸せな今も偶に不安になる。


幸せなのは俺だけで、アイツを幸せにしてやれてるんだろうかと…

仕事も細々と、やっと売れてるようなつまらない風景画家だ。

その割に気に入った絵しか描きたくないから仕事は選ぶ…


〘俺はお前と違って中々確信がつかめない。俺との結婚生活に満足してるか。

俺みたいな三流の画家に嫁いで不安はないのか。不便はさせてないか…〙

翔吾には珍しく弱気な発言だ。


〘お前なぁ、それこそ大概にしろよ…

お前の絵、一体幾らすると思ってるんだ…

三流画家が訊いて呆れる〙


エリックにそんな言われ方をされると、さすがに恥ずかしくなって身の置き場がない。


〘アイツは大丈夫だ。幸せを絵に描いたような顔してるだろ?〙


翔吾は益々所在なげにしている。


〘言っとくが、俺だって結構妬いてるんだからな!お前と違って顔に出さないだけだ!

全く!気が狂いそうなほど妬いてるわ!〙


まさに、いつもスマートなエリックの爆弾発言だった。









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