第111話 静かな朝食
翔真が食堂に入ると、そこには両親とエリックがいる。
食事の準備は大体終わっていて、母さんがサラダやスープを取り分けている。
エリックは朝食用にバケットを焼いてくれたみたいでいい香りがする。
テーブルの上にはバターに蜂蜜や生クリーム、それに何種類ものジャムがならんでる。
ジャムもエリックが季節のフルーツを使ってたくさん作り置きしてあるやつだ。
日本にも毎年たくさん送ってくれる。
どこから見たって素晴らしい朝の始まりの筈なのに…
吾古が眠い目を擦りながら入ってくるとまっ先にこの険悪ムードを目撃するが、さすがに最近では彼女でさえこの二人の様子には驚かなくなった。
「全く…よくやるわよね」
吾古が俺に席へ座る前小声で耳打ちをしてきた。
〘皆んな揃ったからお食事にしましょう〙
母さんがにこやかな顔でお茶を淹れ始めた。
〘お母さん手伝うね〜〙
何食わぬ顔で吾古も母さんの淹れたお茶を配っている。
母さんは父さんの隣に座ると、切り分けたパンを父さんの皿に数枚移した。
〘エリックの焼いたパンは美味しいよね〙
真古都から笑顔でそう言われては睨み合いも一時休戦するしかない。
真古都は焼き立てパンに手作りジャムでご満悦だ。
彼女の幸せそうに食べる姿を見て、翔吾も気持ちを切り替え食事にすることにし、ジャムに手を伸ばす。
翔吾の手の先にはエリックの手がある。
お互いにまた目が合う。
含み笑いをうかべ翔吾を見るエリックに、「ちっ!」と、腹の中で舌打ちする。
〘先ずは客人からどうぞ〙
そう言って自分は蜂蜜をパンに塗り始めた。
〘では遠慮なく、ジャムだけでなくそろそろ真古都は俺の嫁だと認識して欲しいもんだ〙
翔吾が今朝の未遂事件を皮肉って言う。
〘朝露のような素敵な女性しか目に入ってなかったので仕方ないだろう?男の嫉妬はみっともないぞ〙
〘俺は自分の気持ちに正直なだけだ、嫉妬もしないような軽薄な男とは違うんでね〙
翔吾も言い返す。
軽薄と云う言葉に面白くないエリックがまた口を開く。
〘嫉妬しない
この問答は食事が終わるまで続く…
他のみんなはこの二人を気にすることなく静かに朝食を楽しんだ。
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