第109話 誰かの為に
翔吾たちはエリックの家に泊まった。
〘真古都の料理が食べられるなんて最高だ〙
〘またぁ〜、エリックの方が上手なくせに〙
夕食を作りながら、真古都へかけるエリックの甘い言葉は止まらない。
その間面白くない気持ちがバレバレの翔吾の態度に、翔真も吾古も笑いが止まらない。
この奇妙な三角関係を幼い時から見ているので二人にとってはいつもの事なのだ。
甘い言葉と態度で真古都にアプローチするエリックに対し、普段は厳格な父親が慌てたりオロオロしたりと、家では見せない顔になるのも子どもたちには楽しみのひとつだ。
「エリックって、未だに一人なのって…やっぱりお母さんのことが好きだからだよね…」
吾古が三人の様子を見ながら口にする。
「まあ…そうなんじゃねえ…」
翔真もそれに答える。
三人の詳しい関係は子どもたちは知らない。
物心が付いた時には、既にこの関係を見せられて大きくなった。
〘子どもたちが無理を言って悪かったな〙
子どもたちと真古都が部屋に戻ると、翔吾はエリックに言った。
〘普段は一人だからな。賑やかで楽しいさ〙
エリックはワインの栓を抜くと翔吾のグラスに注いだ。
〘真古都も元気そうで良かった〙
〘相変わらず記憶があやふやだが、日常生活には不便は無いからな〙
〘翔真が…学校の話しをしていた〙
〘あいつもあいつなりに考えているんだろう…好きにさせる〙
〘そうか…〙
〘そうなったらまた迷惑をかけるがよろしく頼む…〙
〘いやいや、翔真は俺の子だから〙
〘何言ってる、俺の息子だ〙
そんな二人の会話がワインを開けながら進む。
日本にいる翔吾たちが、毎年フランスに戻ってくると、いつの頃からか夜はこうして男二人で真古都の事や、子どもたちの事を話すようになった。
部屋に戻りベッドに入ると、隣に寝ていた翔真が話しかけた。
「父さん…」
「なんだ…まだ起きてたのか?」
「あの話エリックにしたんだ…」
「ああ、結構嬉しそうだったぞ」
「ありがとう…父さん」
「お礼はお前が一人前になったら言ってくれ…」
初めてのボーイフレンドに浮かれている吾古や、そして将来の為に新しい道を考え始めた翔真に、成長していく子どもたちの姿が翔吾は嬉しかった。
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