第108話 面会 後篇

 初めて“ガールフレンドの両親に会う”と云う難関を過ぎ、フレディの胸は酷く高揚していた。


当然、何かしら辛いことを言われるのだと覚悟していた。

痣のことや、病気のことで罵倒されるかもしれない…

二度と近づくなと怒鳴られるかもしれない…


ところが実際会ってみると、それまで悩んでいたのがバカらしく思えるほど呆気なかった。


そして、それ以上にフレディを高揚させたのは吾古の父親である翔吾との話し合いだ。


あんなに長く他の人と話しをしたのは病院の人たちを除いて初めてだった。


自分をひとりの人として扱ってくれた。

それはマックスやキースに対しても同じだった。それが物凄く嬉しかった。


吾古が自然体で自分と付き合ってくれるのが不思議だったが、その両親と話しをして理由が解った。


『僕も、ひとりの男としてアコちゃんには誠実に向き合おう』


フレディは翔吾の人柄から心に誓った。



「翔くん、懐かしいね」

「そうだな」


タマモを抱いてる翔吾の腕を掴んで真古都が囁いた。


〘どうしたの?〙


フレディの宿舎を見ている二人に吾古が声をかけた。


〘だって、この宿舎で翔くんがプロポーズしてくれたんだもの〙


真古都が吾古とフレディに話す。


〘え〜っ!お父さん何て言ってプロポーズしたの?!〙

〘うるさい、父親のプロポーズの言葉など聞いても仕方ないだろう!〙


娘を前に、過去の自分の話など恥ずかしくてならない翔吾は顔が真っ赤だ。


〘え〜知りたいよぉ…おかぁさ〜ん〙


吾古の好奇心は止まらず、母親に甘えて強請った。


〘ふふっ…翔くん、108本のチューリップと一緒に“俺と結婚してくれ”って言ってくれたのよ〙


その発言に吾古もフレディもびっくりだ。


ことに、吾古は堅物で口の重い自分の父親が、そんなロマンチックな事をする人とは思えなかった。


〘ねえ、なんで108本なの?〙


フレディの質問に吾古も母親に助けを求めた。


〘花にはね、それぞれ花言葉があって数にもちゃんと意味があるのよ。108本は“自分と結婚してください”って意味なの〙


〘真古都もういいだろう、行くぞ!〙


翔吾は恥ずかしくて居た堪れない。


〘はぁ~い〙


真古都は翔吾のところへ戻った。


「翔くん、あの日わたしにプロポーズしてくれてありがとう」


真古都は翔吾の傍に来ると彼を見上げて微笑んだ。


「お…おう…」






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