第90話 入院

 「荷物はこれで終わりか?」


翔吾が車に荷物を積み込みながら訊いた。


「大丈夫だよ父さん」


螢は手術を1週間後に控え、父さんの運転で病院へ向かっている。


やはりいざ病院に行くとなると緊張した表情で、ずっと黙っている。


「螢、大丈夫だよ。俺も4日後には入院だ。一緒に手術を乗り越えよう」


俺は螢の手を握り病院に着くまで肩を抱いていた。元気になって欲しい。

俺の願いはそれだけだった。


先に入院した螢は、手術の日まで色々な検査がある。

俺の方が後から入院するが、だからといって健康管理は大事だ。

俺がここで体調を崩せば、手術は出来なくなり、螢も退院。

再度入院、手術の日程を組み直さないといけなくなる。



「父さん、母さん」


俺が入院する前の晩。夕食の後で二人に話しかけた。


「どうしたんだ、明日は入院だから早く寝ろ」


父さんが心配してくれる。


「二人に話があるんだ…」


俺は二人の前に座ると、深々と頭を下げた。

父さんも母さんも何かと思ってびっくりしている。


「多分心配はいらないと思うけど、絶対じゃないから話しておこうと思って…」


そう言って二人の顔を改めてよく見た。


「もし…手術中、俺に何かあったら…

螢とタマモの事…よろしくお願いします」


俺は再度頭を下げる。


「な…何言ってるの数真くん…」


母さんが困惑な表情を見せる。


「大丈夫だ。螢はウチの嫁だぞ。俺の娘なんだ何も心配はいらない。だから安心してゆっくりやすめ」


父さんは俺の目を見てはっきりと言ってくれた。ウチの両親に心配はないが、それでもちゃんと言っておきたかった。


その日の夜はタマモとも一緒に眠った。

次の日、俺は父さんに病院まで送ってもらった。



午後の検査が終わって、病室へ戻る途中看護師の女性へ頼み事をしている女の子の患者さんとすれ違った。


「ねえ、それとなく紹介してよぉ」

「ダメよ、ちゃんと奥さんがいるんだから」

「だってあんなに王子様みたいにカッコ良い人、もう絶対出会えないよ〜」


う〜ん…なんか嫌な予感がするなぁ…


わたしが自分の病室へ戻ると、そこには1番逢いたかった人が待っていた。


「螢!」


数くんだ!

彼はわたしを見ると直ぐに傍まで来て力いっぱい抱きしめてくれた。


嬉しい!

大好きな数くん…


逢いたかった…逢いたかった…


数くんは病棟でも人気者になった。

奥さんのために自分がドナーになると云うだけでもポイント高いのに…

それに加えてカッコ良い容姿…


でもわたしが嬉しかったのは、

「螢ちゃんのどこが好き?」

小児病棟の女の子に訊かれて、

「夕焼け色の髪に星空の様な雀卵斑」

そう答えてた。


「じゃあどんなところが好き?」

「いつも俺のためにお弁当やご飯作ってくれるところ」


数くん…大好き…




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